夕焼けと照れ隠し
他者から見たら、優の立場はどう捉えられるのだろう。いじめと言うには少し重く、でも平和かと問われたら違う。入学祝いで買ってもらったばかりのプーマのスニーカーを履きながら気合いを入れる。
一生懸命自転車をこいで、着いた学校の門の前でいつも優は少し身構える。今日は、ちゃんと笑えるかな。入学してすぐに仲良くなった、萌とナオは基本優しいけどサバサバしていてたまにきつい。優は、幼なじみの悟につい愚痴ってしまう。「2人の笑いについてけないんだ。無理やり笑ってもう顔がひきつっちゃってさ」
小学生からずっと、一緒だけど悟はとにかく優に優しい。いつも欲しい言葉をくれる。「優ちゃんは、やさしーんだよ。名前のとおり。まあ、そのうちもっと合う子見つかるかもよ」ニカッと笑ってじゃあ、また帰りここでー。と去っていく悟の背中を見送りながら優しいのは、あんただよ、サンキュとつぶやく。
人見知りで、コミュ障気味な私が小中を乗り越えることができたのは、悟がいたからだ。優がひとりでいたら必ず気にかけてくれた。でも、優はバカだから悟と同じ高校には行けなかった。泣いて不安を訴える優に、悟はじゃあ、毎朝と帰りに必ず中間地点で落ち合おうと約束した。
それが、このガジュマルの木の下だ。その約束は3ヶ月立っても1度もやぶられず守られている。優は気合いを入れ直して、こぶしを握った。大丈夫。
悟の言う通り、合う子が案外と早く見つかった。彼女、みつりちゃんがリュックサックにつけていたキーホルダーが優も好きなキャラクターだったことからあれよあれよと仲良くなり、話すうちに家も近いことが分かった。登下校を一緒にする約束をしてから、思い出した。悟、、。
悟にみつりちゃんの話をしたら、ただただにこにこと聞いてくれ「俺のナイト役はもうお役御免かなー寂しいけど、よかったね優ちゃん」と頭をなでてくれた。
その瞬間に気づいた。私は悟が好きだ。
気づくと口に出していたのか悟が驚いてる。
そして1拍置いたあと
「俺のがずっと好きだった」と悟は夕陽に溶けそうなほど赤い顔で言った。
明日からは、恋人。くすぐったいようなでも幸せでたまらない笑いがこみ上げる。
夕陽の中、私たちはいつまでも照れあっていた。