【歌舞伎鳩】本朝廿四孝・与話情浮名横櫛・神楽諷雲井曲毬(新春浅草歌舞伎)
雪姫・時姫と見てきて、一体八重垣姫はどんなお姫様なんだ……と思っていたところで演目がかかりましたので、見てきました。与話情浮名横櫛は、2回目の見物。前回は、昨年4月の歌舞伎座での公演で、うっかり毎月芝居見物をすることになった一番初めの演目です。
本朝廿四孝 十種香
ざっくりとしたあらすじ:
長尾謙信の娘・八重垣姫(中村米吉)は、切腹した許嫁の姿絵を前に十種香を焚き、回向をしている。許嫁は、敵対する武田信玄の息子・武田勝頼。しかし切腹した勝頼は、幼少期に身代わりにされた武田家家臣の盲目の息子であった。本物の勝頼は、蓑作(中村橋之助)という名前で身分を隠し、長尾家に仕官している。身代わりとなった勝頼の恋人、武田家の腰元・濡衣(坂東新悟)もまた、身分を隠して長尾家に奉公しながら、恋人を弔っていた。
そんな中、八重垣姫は死んだはずの許嫁と瓜二つの蓑作を見てしまう……。
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自分の能力で道を切り開いていく雪姫(祇園祭礼信仰記)、情熱を燃料に行動していく時姫(鎌倉三代記)と、なかなか行動力抜群のお姫様たちを見てきたので、三姫(学び:女方の大役)の最後の一人は一体どんなお姫様なんだ……と思っていたところ、恋に恋するおぼこいお姫様でした。
ちょっとこの辺は掴みきれてないんですけど、もともと八重垣姫は勝頼に会ったことあるんですかね……? 会ったことないのに、絵姿ひとつで勝頼の実際のお顔を特定できるのか……??? どうすんのめちゃくちゃに美化されてたりなんかしたらさあ(野暮)。
しかし恋に恋をできるのは幼さの特権。それが情熱と積極性につながるのは見ていて尊いですね。でも確かにここで口説かなかったら、勝頼は(再び)死んでしまうかもしれない、という危惧は、八重垣姫にもあったのかもしれない。そう思うと、八重垣姫も、必死にならざるを得ないのかあ。
一方勝頼も勝頼で、この時点ですでに身代わりの勝頼が事情も知らされずに腹を切っているので、もう自分一人だけの命ではないというか、簡単に八重垣姫に素性を明かして恋情を受け入れるわけにもいかない。八重垣姫があれだけ情熱的に口説くのにずっとつんとしている様子は、しかしいい男でした。
これにて三姫をとりあえず一通り見ましたが、鳩としては雪姫が一番好きかなあ。自分の能力で結果的にどうにかしちゃったお姫様、強くて好き。あとはあ派手好みなのでね……あの桜花爛漫な金閣寺の舞台装置と、割とファンタジックなお話の作り方が面白くて好きです。
与話情浮名横櫛 源氏店
ざっくりとしたあらすじ:
木更津の浜で互いに一目惚れをした小間物屋の若旦那・与三郎(中村隼人)と元芸者・お富(中村米吉)。お富はその土地のやくざ・赤間源左衛門の妾であったが、忍び会っていたところ、源左衛門に密会が露見。与三郎は嬲り斬りにされ、お富は海に飛び込んだ。
(源氏店の場はここから)その三年後、落ちぶれた与三郎は小悪党の蝙蝠の安五郎(尾上松也)とともに、一軒の商家にたかりに入る。そこは一命を取り留めたお富が匿われている多左衛門(中村歌六)宅であった。しつこくたかる蝙蝠安に金を投げた女が、お富だと気がついた与三郎は……。
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同じ芝居を違う役者さんで見たのはこれが初めて。役者さんによってだいぶ雰囲気が変わるものですね。隼人さんの与三郎は、まだちょっと根っから悪そうに見える。前回見た時はこの前の場面もあったので、それも関係しているかもしれません。
与三郎の名台詞「しがねぇ恋の情けが仇」の直前に「待ってました!」の大向こうがかかり、一度見ていることもあって、言葉通りの「待ってた!」という気持ちが沸き立ち、大向こうが観客をすら引き立てるというのを初めて体験しました。おそらくたまたまですが、今まで屋号がかかってるのくらいしか聞いたことなかったので、ここでとてもぐっときた。ここからの台詞が恨みつらみの思いきれない言い募りで、また良いんだなあ。
また、蝙蝠安が信じられないほどコミカルな小物で面白かった。たぶん面倒見は良い悪党なんだなという、しかしどうやっても小物(笑) 松也さんの印象が新作歌舞伎 刀剣乱舞の三日月宗近から始まっているので、あまりの差に配役表を何度も眺めました(今も見た)。あの涼やかなお顔の雰囲気がまったくわからないのがすごい。
そういえば昨年の夏にたまたま観に行った展覧会で、「横櫛」という絵があり、記憶に新しいこの外題を思い浮かべていたら本当にそれで、つまりお富の絵だった。歌舞伎の演目をところどころ知ってるのは浮世絵なんかで見ていたから、というのが大きいのだけれども、その逆が起きたわけですね。
なにがどこでどうつながってくるのかわからないもので、これが面白いからいろんなものを見に行くのがやめられないわけです。
神楽諷雲井曲毬 どんつく
浅草寺境内にて、大神楽の荷物持ち・どんつく(坂東巳之助)と町人たちが賑やかに踊る。
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どんつくが大神楽をやるので、役者さんはなんでもやりこなしてすごいなあと思いました。たまにトチったりもするけれどもご愛嬌。横で見ている田舎侍(尾上松也)と大工(中村隼人)が、どんつくが失敗すると「もっかい! もっかい!」と盛り立てていて、みんな楽しそうで良かった。思えば歌舞伎って、台詞にちょっと時事ネタを忍ばせるみたいなことはあっても、結構厳密に舞台上の全てが決まっているような雰囲気なので、こんな感じで楽しそうにしているのはあまり見たことがないのかもしれない。
舞台上に十人近くいて賑やかに踊るので、楽しくて華やかで良いですね。
今回は浅草寺境内が舞台となっていて(いつもは違うらしい?)、近くに実際の浅草寺もあり、この風俗が今も残っていたら(寄席の大神楽ではなく、大道芸的なものとして)どんなふうに進化したんだろうなあなど、思ったりもしました。
公演概要
新春浅草歌舞伎
2024年1月2日(火)~26日(金)
第一部:本朝廿四孝・与話情浮名横櫛・神楽諷雲井曲毬
第二部:熊谷陣屋・流星・魚屋宗五郎
浅草公会堂