【歌舞伎鳩】祇園祭礼信仰記・土蜘・二条城の清正(秀山祭九月大歌舞伎)
歌舞伎座新開場十周年 秀山祭九月大歌舞伎
二世中村吉右衛門三回忌追善
2023年9月2日(土)~25日(月)
昼の部:祇園祭礼信仰記・土蜘・二条城の清正
夜の部:菅原伝授手習鑑 車引・連獅子・一本刀土俵入
(余談)ついに松竹歌舞伎会入っちゃった!!! あ〜〜〜あ!!!!!
祇園祭礼信仰記 金閣寺
ざっくりとしたあらすじ:
天下を狙う松永大膳は、時の将軍・足利義輝の母慶寿院尼を金閣寺に幽閉する。
また同時に思いを寄せる絵師・雪姫を捕え、寺の天井に龍を描くか、自分の女になれと迫るものの、雪姫には拒絶されてしまう。
此下東吉は松永大膳に士官を願い出るものの、それは慶寿院を救い出すための潜入であり……。
夫が処刑されることになり、桜の木に縛り付けられた雪姫が奇跡を起こすくだりが華々しく美しい、金閣寺を舞台にした物語です。
きちんとしたあらすじはこちら。
松永大膳:中村 歌六
雪姫:中村 児太郎
狩野之介直信:尾上 菊之助
十河軍平実は佐藤正清:中村 歌昇
松永鬼藤太:中村種之助
慶寿院尼:中村 福助
此下東吉後に真柴久吉:中村 勘九郎
華々しい……! 桜の咲く金閣寺が舞台なので、舞台上が豪華絢爛。大迫りで金閣寺が建物ごと上下するのもすごい……! 三等席で見ていたのですが、次かかる時はもう少し良い席で見ようかな……となりました。とても見応えがあって面白かった。
雪姫が、きちんとお姫様のまま、夫を殺されるのを悔しがり恨みを募らせる様がとても素晴らしかった。鬼になったりせずに、お姫様のままなんですよね。お姫様のまま恨み、状況を打開しようとどうにか動いて、奇跡を起こす。こういう強い女は大好きです。それでいて縄を解いて夫のところに向かう際に、ちょっと刀の反射で髪の乱れを気にする。強く可愛い、情愛に満ちた人物像でとても好ましい。
松永大膳が主人公らしく、最後討ち取られるところは描かないという様式美、悪役が主人公なんだ?というところもあるし、主人公だから顔をたてるというか、そういう美学のあり方も面白いな〜と思った。ばっさり討ち取られちゃっても面白いと思うけどな、美学の差ですね。
そのほか細かいこと
元は文楽の演目とのことで、あの金閣寺の大迫りの仕掛けとか、文楽版も見たい〜〜〜〜!!!!! どうなっているんだろう、とても気になる。
あんまりどか桜で、黒子さんが足を滑らせたのを見てしまった。大丈夫?
松永大膳、龍を描くか俺の女になれ、は、女を口説くの下手すぎでは?(野暮)横恋慕してるならもうちょっとこうやりようが…………。まあ口説くというあれではないことはわかっていますが……。
倶利伽羅丸(刀)を夕陽に反射させて出現した龍、なんか思ったよりちっちゃくてもっちゃりしてて柔らかそうで面白かった。なんか厳つい龍じゃなくていいんですか?
雪姫の夫、何もしてないのに処刑されかける。一番不憫。
(休憩)
土蜘
ざっくりとしたあらすじ:
源頼光・平井保昌・頼光四天王による土蜘蛛退治の舞踊劇。
病に伏せる源頼光の館に、智籌と名乗る叡山の僧が現れ、病を治す祈祷をするというが……。
きちんとしたあらすじはこちら。
叡山の僧智籌実は土蜘の精:尾上 菊之助(代演の日にみました)
源頼光:中村 又五郎
番卒太郎:市川 高麗蔵
番卒次郎:中村 歌昇
渡辺綱:大谷 廣太郎
坂田公時:中村 鷹之資
碓井貞光:中村 吉之丞
卜部季武:中村 吉二郎
太刀持音若:中村 種太郎
石神実は小姓四郎吾:中村 秀乃介
巫子榊:中村米吉
番卒藤内:中村 勘九郎
平井保昌:中村 錦之助
侍女胡蝶:中村 魁春
叡山の僧・智籌が言わずもがな土蜘の精なわけですけれども、この僧の出立からすらも漂う妖しさが素晴らしかった。
イヤホンガイドで予習をしていたので知っていたはずなのに、ほんとうに音もなくすっぽんのところに立っており、とても驚いた。その動作ひとつひとつに音がない。僧の姿を見破られた後に、床を這うように逃げ帰るのが本当に蜘蛛の動きのようで、より怪異らしくてとても良かった。土蜘さんかっこいい。
松羽目物(学び:能・狂言の演目を歌舞伎に移した作品、正面に大きな松を描いた板を使用する)の時、間狂言(一本のお話の間に違うものが入る?)は、必ずあるんだろうか。
源頼光の従者たちが土蜘退治に集められたもののやっぱり怖いので、庭にある石神様に祈ろうとするユーモラスな小話だったのですが、石神様が子役さんで大変可愛らしかったのと、それをものすごくにこにこ見つめている中村勘九郎を目撃してしまい、ちょっと笑ってしまった。すっごいにこにこだった。
土蜘が本来の姿を表し、戦いとなる場面。
蜘蛛の糸で攻撃するあの糸、あまりに美しく投げるので(そして黒子さんに回収される)技術だな〜〜〜と思いました。あと衣装や、僧の時に持っていた扇子もですが、蜘蛛の巣と雲?の柄で構成されていてわかりやすいし洒落に富んでいる。歌舞伎の衣装ってこういう結構直球な事物をデザインに落とし込んでいるのが面白いなと思います。
またあの茶色の隈取りも、それ自体が蜘蛛のかたちのようにも見えて、全身で本性を表すのが面白いです。
松羽目物、幕が開いた瞬間になんとなく少し身構えるのですが、土蜘は見ていて派手で華やかで楽しかったです。
そのほか細かいこと
歌舞伎は役名で、「〇〇実は××」のように最初から正体を教えてくれるのが面白い。ネタバレとかいう概念がほぼない上に、特段知ってても面白さは損なわれないからこうなっているんだろうか。
頼光四天王って平井保昌は含まれないんだ……!(今更)花道に出てくる人を数えていて、一人多くない?と思って気がついた。酒呑童子退治の時も……見ていたはずなのに……。
二条城の清正
ざっくりとしたあらすじ:
徳川家康から二条城での会見に呼び出された豊臣秀頼。
その帰路の船上で、加藤清正と豊臣秀頼が語らう。
きちんとしたあらすじはこちら。
加藤清正:松本 白鸚
豊臣秀頼:市川 染五郎
斑鳩平次:松本 錦吾
静かでじっっっくりとしたお話だった……。
場面もただ船の上だけ、登場人物もほぼ二人だけ。
船の先端の飾りが揺れたりはしているけれども、最後の最後に船が進路を変え大阪城が見えて夜が明けるまではほぼ動きもない。
ただその地味さが、清正公と豊臣秀頼の語らいをよく聞かせる。
たぶん両人ともに、自らの行く末が、どこかわかっているのだろうなあ。
短いお話だけれども、ぐっと観客を引き込んで、しんみりと幕になりました。