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【歌舞伎鳩】与話情浮名横櫛・連獅子(鳳凰祭四月大歌舞伎)

歌舞伎座新開場十周年記念 鳳凰祭四月大歌舞伎
2023年4月2日(日)~27日(木)
昼の部:新・陰陽師
夜の部:与話情浮名横櫛・連獅子




はじめに

記憶違いでなければ、東京国立博物館の常設室に歌舞伎の室があり、そこに映像が展示されている(常設かは不明)。
もともと能や歌舞伎は衣装や面の展示を見るのが好きだったが、今思うと歌舞伎の映像をきちんと見たのはそれが初めてだったかもしれない。

たしか京鹿子娘道成寺で、2分くらいの短い映像だったと思う。
そのたった2分の映像を初めて見た時、そのあまりの美しさに衝撃を受けた。
清姫(と思っていたけれど、歌舞伎では白拍子花子という役なのですね)の所作や表情、風情すべてが言葉を失うほど美しい。
気づけばぼんやり見惚れていて、何周見ていたかも覚えていないが、なるほど美しい女に狂って国が傾く、というのはこういうことか、とその場で理解したものだ。

歌舞伎は、いつかは見たいと思いながらも、見るならいっとう良い席で、なんて思っているうちに機会を逃してしまっていた。
そうしているうちに上記の映像を見て衝撃を受け、それでまたずるずると今年になるまでいたのであるが(映像を見たのも数年前のことである)、ふと思い立って今年の四月、ようやくチケットを取る気になったのは、前述の白拍子花子を演じていた坂東玉三郎が歌舞伎座に出演していることに気がついたからである(名前を覚えていたのが、私としては衝撃の度合いを物語っている)。

ある金曜日に一念発起し、その週の日曜日のチケットをおさえた。
一等席、2階1列下手側の端っこであったが、そもそも四月に入ってからその席を押さえられたのも運の良いことだ。

こうして、初めての歌舞伎に足を運ぶこととなった。
以下、その際の観劇の感想ですが、このように一切の知識のない鳩の感想ですので、どうぞ、お手柔らかにお願いいたします(腰の引けた鳩)。


いざ歌舞伎座

いつかは入ってみたいなアなどと、いつも呑気に目の前を通り過ぎていた歌舞伎座

劇場にならいくらか足を運んでいるものの、歌舞伎座には入ったことがなく、それはもう何はともあれ、緊張しました。
戦々恐々の鳩、あまりに恐れすぎて、前日までに歌舞伎座のフロアマップを覚える始末。
事前にイヤホンガイドも借りて、準備万端です。
*イヤホンガイドとは:上演されている舞台の進行に合わせて、良い感じの解説をしてくれる音声ガイドです。どういう仕組みなのあれ。

入ってすぐ左に筋書すじがき売場があり(学び:歌舞伎ではパンフレットを筋書と呼ぶ)そこで筋書をゲット。
売店を物色したり、三階で売っているめでたい焼きを買って食べたりしながら開演を待ちました。

四月は、昼の部と夜の部に分かれており、観劇したのは夜の部
与話情浮名横櫛と連獅子です。


与話情浮名横櫛よわなさけうきなのよこぐし

ざっくりとしたあらすじ:江戸の小間物問屋の若旦那・与三郎と、評判の芸者だった(現在は木更津の親分の妾)お富の恋物語。
偶然の出会いからうっかりお互い惚れてしまい密通するものの、お富の旦那にバレてしまったことで、お富は海に身を投げ、与三郎はなぶり斬りにされ海に投げられる。
数年後、助けられていたお富がまた別人の妾宅に暮らしているところに、こちらも生きながらえ小悪党となった与三郎が、そうとも知らず強請りに入り……。
きちんとしたあらすじはこちら

偶然の出会いから一目惚れをするまでが「木更津海岸見染きさらづかいがんみそめの場」。
密通してバレて、両者散々な目に遭うのが「赤間別荘あかまべっそうの場」。
時が経って、違う身分で再会する場面が「源氏店げんじだなの場」。
この「赤間別荘の間」という場面がかかるのがとても珍しいらしい(10数年ぶり?)。
なんだか歌舞伎ってそこが分かりにくく、面白いところですよね。
お話の初めから終わりまで抜けなく見たほうが全部分かって良いのでは? と思っていたのですが、かといって人気の場だけを見てもきちんと面白いようにできている。
あと、通して上演すると何時間かかるか分からないような演目もあるようなので、人気の場だけでも見て楽しめるというのは良いですね。

さて、あまりの美しさに惚けてしまったその人を生で見た第一の感想としましては、一声出した瞬間にもう女性としか信じられなくてここでもまた驚いてしまった(映像は舞の舞台だったので、声はなかった / たぶん)。
元・評判の芸者であり、現在は土地の親分の妾、というところにもう偽りがなく、説得力がすごい。
そして何より美しく、そりゃあ一目惚れもしますよねあれは。しようがない。
対する与三郎は片岡仁左衛門が演じており、こちらもあんまり好青年のすっとした若旦那で、こっちもこっちでそりゃあ一目惚れしますよね……と思いました(学び:片岡仁左衛門と坂東玉三郎のコンビは"にざ玉"と呼ばれ大変人気 / 知らずに見に行きました……)。


  • 木更津海岸見染の場

運命の出会いをしてしまって、与三郎がお富に見惚れて羽織を落とす、という演出、何をどうしたら思いつくんですか……?
一瞬で心を奪われてしまって、心ここに在らずで羽織っていた衣服が脱げたことにも気がつかない、という演出、下手なことをするとコミカルにも思えてしまうのに、あまりにドラマチックで素晴らしかった。
しかも与三郎はいいところのお坊ちゃんなので、羽織の裏もお洒落な色柄(イヤホンガイドのお姉さんに教えてもらいました)。
演出から衣装からすべてが完璧で、端的にずるいと思いました。
こんなの演劇でないとできない。
小説に書こうと思ったら冗長で、とても書けたものではないと思う。

廻り舞台で場面転換するのが、本当に大掛かりな場面転換で面白いなと思った反面、海岸の背景が幕?に描かれたものだったり、置いてある椅子(数台ある)の足に紐が括って繋げてあって、それを舞台袖から引くことで場面を変えたり、大掛かりなものと、とても原始的でアナログなものが混在してるのが面白かった。
廻り舞台自体は見たことがあったけれども、あの紐を引いて道具を動かしたのはむしろ初めて見ました……(学び:廻り舞台は歌舞伎発祥)。

そういえば、あの煙管ってどうなってるんですか?
ほんとうに火をつけてふかしてるの……?


  • 赤間別荘の場

与三郎・お富の秘密の逢瀬的な濡れ場があり、うっかり劇場で声が出るところでした。\キャア/
情感たっぷりに演出されるので、ほんとうに秘密を覗き見ているような妙な背徳感に襲われてそわそわした。
しかしバレて与三郎が捕まりそうになっているあたり、お富の逃げ足早くないですか……?(もしかすると鳩が読み取れていないだけかもしれない)
濡れ場と打って変わっての、なぶりながら斬られる場面、なかなかの緩急で引き込まれました。

殺陣などのシーンの時に舞台袖で鋭い音を鳴らす人がいることを初めて知った(学び:ツケ打ちさんという・擬音は"バタバタ" / "ペンペン"と思った、すみません)。
上手の見えるところにいらっしゃるが、役者さんの動きを見ながら合わせているから、舞台上の見えるところにいるんだろうなあ。


(ここで一回目の休憩)
歌舞伎って休憩がたくさんあるんですね。
二階ロビーに錚々たるメンツの絵がかかっており、アイスもなかを食べながら眺めました。
川端龍子の獅子と牡丹の絵が好き。


  • 源氏店の場

湯上がりのお富がまたなんと婀娜っぽい。
白粉や紅をさす所作の美しさたるや。
そしてそれと強請りに対するそっけなく鬱陶しがっている態度の差がとても良かった。

ここで強請りになった与三郎の登場ですが、小石を蹴っているところとか、黙って聞いているところとか、とにかくその所作が、育ちの良さが抜けきっていないのが見事に表現されていた。
好青年感が地にあるものだから、なんだかちょっとヘタレっぽいのがまた面白い。
しがねえ恋の情けが仇」から始まるお富に詰め寄る長台詞、音のリズムが小気味良くて言ってみたくなるし、すっと入り込んできて覚えてしまうので好きだなあ(学び:この台詞のリズムを七五調という)。

ラストは鳩としては予想外のオチだったけれども、こういう定番のものはすっきり終わって良いよな〜と思いました。


(二回目の休憩)
ラムネ菓子を買ったりなどしていたが、もしかして:おやつばかり買っている……?

たぶん席から撮ったと思う(2階1列下手側の端っこ:緞帳は東山魁夷)

花道の奥の出入り口の方(学び:揚げ幕という)は当然座席の下なので見えないけれども、花道のちょうど良いとこ(学び:七三という)は良い感じで見えるし、まあまあ舞台に近いしで良い席だった。
もしかして同じ列の上手側なら花道がもう少し奥の方まで見えて良いのかな?
花道の演技があるたびに、二階下手桟敷席の人たちが総立ちで覗き込むのがちょっと面白かった。
他の劇場では、開演中に座席を立つところなんて見たことがない。
でも確かに二階・三階の下手横側の席は、座っていては花道が見えないのかも。


連獅子れんじし

歌舞伎といえば……! のあれですね、紅白の長い髪をブンブン回す、あの演目、という知識のみありました。


おおまかな内容:

  1. 二人の狂言師が「獅子が我が子を千尋の谷に落として、這い上がってきた子を育てる」という故事を舞う

  2. 宗派の違う二人の僧侶が、己の宗派を語り優劣を競う(間狂言あいきょうげん「宗論」)

  3. 獅子の精が舞う

詳しい内容はこちら


狂言師右近後に親獅子の精:尾上松緑
狂言師左近後に仔獅子の精:尾上左近
僧蓮念:坂東亀蔵
僧遍念:河原崎権十郎


このポスタービジュアルの写真、とても好き。

牡丹の乱れ咲く山、その花のむせ返るような匂いと、蝶に遊ぶ獅子、すべてがそこに見えた
今までそのビジュアルのみ知っていて内容を知らなかったから何もわからなかったけれども、文脈を知ると途端に解像度が上がる。すごい。

間の狂言がコミカルで面白かった。
己の宗派のほうが優れている、と言って言い争っているのを滑稽に描く、というのはブラックジョークに入るのだろうか……?
それともこういう風に滑稽に見えるものだから、優劣をつけようとするのはやめなさい、といったような教訓を面白おかしく表現しているのかな……?

親獅子と子獅子の迫力・動き方の重さの差。
どっしり構えて重厚感のある安定した親獅子と、勇壮で軽快に、若い力強さ溢れる子獅子。
その動きの差が見事に合わさって一通りの舞踊を作り上げているのがとてもとても良かった。
去年の年末か今年のお正月に、たまたまテレビでぼんやり連獅子を見ていたような気がするけれども、これは本物を見ないと知り得なかった感動だと思う。
板を踏み鳴らす音の迫力や、その場で空気が動いている感じがとにかく良い。
これまでビジュアルだけは知っていたけれども、その魅力を何ひとつ知らなかったんだなと思い知らされた。
これだから本物を見ることはたいせつ


これにておしまい。

能は昔見たことがあって、どれだけがんばっても言葉が微妙に分からないことがネックだと思っていましたが(それでも面白いし好き)、歌舞伎は多少は現代の言葉へのチューニングがしやすい
イヤホンガイドも借りればなお良し、という感じでした。

しかしとにかく面白かった。
演劇は、今ここでない世界を、目の前に現してくれるところが好きです。
四月の演目は、普遍的な人間ドラマと、勇壮な踊りだったので、その点も初心者には良かったのだと思う。

これからも面白そうな演目があれば見に来ようかな〜などと、呑気なことを思いながら歌舞伎座をあとにした鳩でありましたが、この後なぜか毎月歌舞伎を見ることになるとは、この時の鳩は思いもしていないのであった……。

つづく


イースターのうさぎらしいパン(ちょっと潰れている)


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