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(詳細ver)外国人の短期滞在でも高額医療が受けられるって本当?
近年、「外国人がわずか90日の滞在でも高額療養費制度の恩恵を受けられるのではないか」という指摘が各方面からなされています。
中でも国民民主党の玉木雄一郎代表が、「外国人やその扶養家族が短期間の滞在で数千万円相当の医療費を負担軽減できる仕組みは、見直すべきではないか」と問題提起して話題になりました。
今朝のウェークアップでも指摘しましたが、外国人やその扶養家族が、わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる現在の仕組みは、より厳格な適用となるよう、制度を見直すべきです。
— 玉木雄一郎(国民民主党) (@tamakiyuichiro) February 15, 2025
現役世代が苦労して支払う社会保険料は、原則、日本人の病気や怪我のために使われるべきです。
今回の記事では、この問題の背景と、なぜそうした事態が起こり得るのか、さらに今後の制度見直しの選択肢について考えてみます。
*本記事はよりヲタク向けの記事となります。シンプルで分かりやすい記事は下記をご覧ください。
外国人の短期滞在と高額療養費制度の現状と課題
1. 現在の制度の適用条件
◾️外国人の健康保険加入要件
日本の公的医療保険(国民皆保険)制度では、原則として国内に3ヶ月を超えて滞在する全ての人に加入義務があります。2012年の住民基本台帳法改正により、それまで「1年以上の在留期間」が必要だった要件が緩和され、在留期間が3ヶ月を超える外国人も住民登録の対象となり、国民健康保険への加入が義務付けられるようになりました。その結果、留学や就労などで3ヶ月以上の在留資格をもつ外国人は必ず公的医療保険に加入しなければなりません。
在留期間が3ヶ月以下の場合は加入対象外ですが、当初の在留期間が3ヶ月以下でも契約書などにより「実質的に3ヶ月を超えて滞在すること」が確認できれば加入が認められるケースもあります。いずれにせよ、法律上は日本人と同様に一定の在留資格と期間を満たす外国人には公的医療保険への加入義務が課されているのが現状です。
◾️健康保険における被扶養者の適用基準
公的医療保険では被保険者本人だけでなく、その扶養家族も一定の条件下で保険適用を受けられます。扶養対象となる親族の範囲や収入要件は日本人の場合と同様で、主に配偶者、子、親などで年収130万円未満(高齢者の場合は180万円未満)といった基準があります。
以前は外国人被保険者の「海外在住の家族」も、この要件を満たせば扶養家族として日本の健康保険に加入させることが可能でした。しかし2020年4月の法改正で制度が見直され、現在は扶養家族として認められる親族は「日本国内に住所(住民票)があること」が追加要件となっています。つまり、外国人労働者が本国に残している家族については、生計を扶助していても日本国内に居住していなければ健康保険の扶養対象にできなくなりました(海外留学中の子どもなど一時的に国外にいるケースを除く)。
これにより、「来日していない家族まで日本の保険にただ乗りさせる」ような仕組みは制度上排除されています。
◾️「90日滞在で高額療養費制度利用」は可能か
国民民主党の玉木雄一郎代表が指摘した「外国人やその扶養家族が、わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる」というのは、上記のように3ヶ月(約90日)以上の在留資格をもって公的医療保険に加入した場合の話です。日本の公的医療保険に加入すると、被保険者は日本人・外国人を問わず窓口負担3割(または1割等)で診療を受けられ、自己負担額が高額に及んだ場合には「高額療養費制度」により自己負担上限を超えた分が後日払い戻される仕組みになっています。
この高額療養費制度は健康保険法等に基づく正当な給付であり、一旦被保険者となれば加入直後から適用除外期間なく利用可能です。したがって、在留3ヶ月超で健康保険に加入した外国人は、日本人と同様に高額療養費制度の恩恵を受ける権利があるというわけです。法的には特例や国籍要件は設けられていないため、制度上「90日の滞在で高額医療が受けられる」こと自体は事実と言えます。
玉木氏は、その現状が公正かどうかを問題提起していますが、現行制度上は適法な被保険者である以上、国籍や滞在期間の長短にかかわらず高額療養費の給付対象となるのが実情です。
2. 実際の運用と課題
◾️外国人による制度利用の実態
日本の公的医療保険に加入している外国人は年々増加しており、当然ながら通常の診療や高額療養費制度も利用しています。厚生労働省の調査によれば、外国人が国民健康保険加入後半年以内に高額(自己負担額80万円超)の治療を受けたケースが、ある年度で1,597件報告されました。
一見すると「加入してすぐ高額診療を受ける外国人」が相当数いるようにも見えます。しかし、同調査で実際に不正な在留資格による給付の疑いが認められたのはわずか2件(他に出国済みで詳細確認できなかった例が5件)に過ぎないことが判明しています。つまり、ほとんどのケースは正規の在留資格で来日した外国人が結果的に早期に高額医療を必要としたものであると考えられます。
また、年間の外国人の医療保険受診総件数(レセプト件数)は約1,489万件にも上り、その中で高額療養費を短期で利用する事例はごく一部です。制度の想定外の利用は現時点で統計上は限定的ですが、ゼロではない点は留意が必要でしょう。
◾️制度悪用の事例と指摘される問題点
一部では、公的医療保険制度の「抜け穴」を狙った悪用事例も報告されています。例えば、本来であれば「医療滞在ビザ」を取得しなければ医療目的での来日はできず、その場合は公的保険に加入できず全額自己負担となります。しかし、留学や経営など他の目的を装って在留資格を取得し、健康保険に加入した上で高額な治療を受けて帰国する外国人が増えているとの指摘があります。
実際に、中国をはじめアジア諸国から来た患者が、日本で高額な肝炎治療や抗がん剤治療、移植医療などを自己負担1~3割で受けるケースが見られました。特にがん免疫薬の「オプジーボ」など高額な新薬が登場する中、日本の高額療養費制度で患者負担に上限がある仕組みが海外から見ると「魅力的」に映り、医療費抑制を目的として意図的に制度を利用する動きにつながっているとの指摘です。さらに、日本在住の行政書士などがブローカーとして「保険証の入手法」を指南する例も報じられ、制度の盲点を突いた不正行為が組織的に行われている可能性も懸念されています。
具体的には、経営・管理ビザを取得した外国人経営者が本国から親族を呼び寄せて治療を受けさせた例や、高額治療後に高額療養費の払い戻し(自己負担上限超過分)を受け取った例などが報道されています。過去には治療後に保険料を滞納したまま帰国してしまうケースもあり、こうした悪質な利用は日本の制度への不信感を高めています。
玉木氏も「現役世代が苦労して支払う社会保険料は、原則、日本人の病気や怪我のために使われるべき」と述べており、短期滞在の外国人による巨額医療費の請求は制度の公平性を揺るがす問題だと指摘されています。
◾️日本人の社会保険料への影響
公的医療保険は相互扶助の制度であり、加入者全体の保険料や税金で医療費を支えています。短期間しか保険料を納めていない外国人が高額の給付を受ければ、そのコストは他の加入者(多くは日本人)の負担に回ることになります。悪質な不正・不払い例があれば、本来得られるはずだった保険料収入が失われたり、高額な給付分がまるごと保険財政の負担となったりします。
医療経済の専門家からは、「日本に居住していない多数の外国人に制度を悪用されたら、日本の医療保険制度が崩壊しかねない」という強い危機感も示されています。現に厚生労働省も事態を重視し、自治体から情報収集するとともに保険加入時や給付時の審査強化などの対策を検討し始めています。制度への信頼を守り、日本人が安心して保険料を払い続けられるようにするためにも、不当な利用による財政圧迫リスクを軽減する措置が求められている状況です。
3. 他国の類似制度との比較
日本のように国籍を問わず居住者に公的医療保険を適用している国は多くありません。多くの先進国では、短期滞在の外国人が自国の公的医療制度にただちにアクセスできないよう、さまざまな仕組みを整備しています。以下、主な例を簡単にまとめます。
◯アメリカの場合
・国民皆保険制度は存在せず、公的医療保険はメディケア(Medicare)やメディケイド(Medicaid)のみ
・基本的に米国市民や永住者が対象で、短期滞在の外国人はほぼカバー外
・緊急医療以外は民間保険や旅行保険を自己手配する必要があり、高額療養費制度のような仕組みはない
◯イギリスの場合
・NHS(国民保健サービス)を利用するには通常居住者(Ordinary resident)として認められる必要があり、6か月以上の在留資格が目安
・6か月超滞在ビザを申請・更新する際に「移民健康付加料(IHS)」を年額数百ポンド前払いする
・短期滞在者(6か月未満)は原則、NHSの通常サービスを受けられず、緊急医療以外は自己負担
◯ドイツの場合
・国内在住者には公的医療保険(GKV)または民間保険(PKV)への加入義務
・公的保険料は所得連動で最低でも月額数百ユーロほどかかり、日本のように数千円で加入できるわけではない
・強制保険+相応の保険料負担があるため、短期滞在で高額医療を低負担で受けるようなケースはほぼ生じない
4. 見直しの必要性と提言
日本の高額療養費制度について、外国人短期滞在者でも利用できてしまう現状には制度上の隙があるのは確かです。今後、制度の公平性を維持しつつ悪用を防ぐためには、以下のような見直し策が考えられます。
①在留期間要件の厳格化
・高額療養費制度の適用対象を、例えば「6ヶ月以上、もしくは1年以上」日本に滞在する見込みのある者に限定
・加入自体は現行通り義務づけつつ、加入後間もない期間を高額療養費の給付対象外とする(6ヶ月の待機期間など)
・ただし、加入直後に重病や事故に遭った人への対応をどうするかは慎重に検討が必要
②保険加入審査の強化
・短期滞在や高額療養費目的の可能性があるケースのチェックをより厳密に
・在留資格・年齢・健康状態の申告を義務化し、不自然な場合は入管当局と連携して調査
・厚労省が示すガイドラインを法令上で明確化する
③扶養家族適用範囲の徹底
・2020年の法改正で海外在住親族の扶養加入は原則不可能になったが、短期ビザ(90日等)で呼び寄せた家族の扶養認定も厳格に制限
・実質的に日本に居住していない親族を保険適用から排除する運用を徹底
④不正防止策の強化
・医療滞在ビザの厳格運用や、留学・経営ビザ申請時の審査を強化
・保険者・医療機関・入管当局の情報共有によって、ブローカーや不正請求を摘発
・未納保険料の回収や再入国禁止などのペナルティ導入も検討
⑤適用対象の限定や特別制度の創設
・一部には「社会保険料による給付は日本国民に限定」「外国人には民間保険加入を義務づける」などの強硬論もある
・しかし、国籍のみで線引きするのは国際的批判や外国人労働者への不当な制限につながりかねない
・現実的には一定の居住・納付実績を要件化したり、高額療養費申請時の書類・審査を強化するなどの方法が検討課題となる
これらの提言はいずれも、制度の持続可能性と公正さを確保するためのものですが、同時に日本で働き生活する外国人が増加している現実も踏まえなければなりません。
・外国人の労働力や社会保険料は、日本社会にとっても貴重な支えになっている
・悪用を防ぎつつ、まじめに就労・納付している外国人を排除しないバランスが重要
日本の社会保険制度の公平性を守りながら国際的な信頼を損なわないよう、慎重かつバランスの取れた制度改革が求められます。例えば、在留外国人コミュニティへの制度周知徹底や、加入者の多国籍化に対応した運営の透明性向上なども併せて進めるべきでしょう。最終的には「支払った保険料に見合った適正な給付を受ける」という原則を再確認し、悪用の芽を摘み取る仕組みを整えることで、誰もが納得して支え合える医療保障制度へと見直していくことが肝要です。