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性同一性障害特例法の最高裁判決が出た

前回の記事を書いて半月、あっという間に次の判決が出てしまいました。

裁判がチョッパヤで進んだわけではなくて、別々に進んでいた裁判の結果がたまたま同じ時期に重なった結果です。
でも前回は地方裁判所、今回は最高裁判所大法廷という、ちょっとやそっとでは開かれない場所での違憲判断だから、そりゃ重い判断です。

そしてTwitterとかYahooニュースのコメント欄を見ていると、やっぱり「男性器付いたままの男性が女性用風呂に」を言っている人が多いぽい。

わたしの意見は、最初の記事を書いたときから変わっていなくて、「軽率に煽るような人達が言うようなことは国会議員の人も裁判所の人もちゃんと考えてるよ、だから話をちゃんと聞いた上で判断しようよ」です。

なので今回も、最高裁判決を読み解きながら、どういう内容なのかを読み解いていきたいと思います。

判決原文はこちら(pdf)
令和2年(ク)第993号 性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件 令和5年10月25日 大法廷決定

生の判決は読みづらいということであれば、東京新聞の記事がとても詳しかったです。

どういう判決が出たの?

実は今回の判決は、「違憲だから訴えた人の主張を認めます」という判決にはなっていません。「もう一回高等裁判所で判断して」という判決です。

「差し戻す」という判決です

ニュースとか見ていると、「規定は違憲で無効とする新たな司法判断を示した」と報じられているのですが、この微妙な食い違いが、たぶん今回の判決最大のポイント。

2つの手術要件

わたしも判決読むまで気づいていなかったのですけど、性同一性障害特例法の手術要件って、実は二つあるのです。

性別変更、生殖不能の手術要件は「違憲」 最高裁決定(日本経済新聞)より

太字で書かれている二つです。あんま詳細に説明すると生々しくなっちゃうのですが、つまり性器ぽいものと、生殖能力の2つです。
事故で性器を失ってしまっても、精子を採取して生殖医療で子供作ってしまう事例とか聞いたことがあるので、たぶんそういうイメージ。

で、今回の判決では、④は違憲、⑤は高裁差し戻しになりました。
つまり、「性別を変更するために生殖能力を奪うことを強制するのは駄目。変更後の性器が必要という項目については、もう一回検討」です。

外観要件も違憲という意見もあった

東京新聞がすごくわかりやすい図を作ってくれているのですが。

性別変更の「手術要件」は違憲  最高裁が初判断(東京新聞) より

三人の裁判官からは、反対意見が出ています。これは「いまの規定は合憲だ」という反対ではなくて、「外観要件も違憲だ」(さっきの図の④⑤ともに違憲)という違憲です。今回の判決よりさらに厳しい…!

つまり裁判官の皆様は、トランスジェンダーが性別を変更する際に手術を受けなきゃいけないのは違憲というところでは完全一致しているのです。

じゃあなんで違憲判決じゃないの?

最大のポイントはここです。この流れからしたら、もう全部違憲判決、性別の変更を認めます、であってもおかしくなかったと思うのですよね。

どうしてそこで止めたかな

生殖規定(④)については、様々理由を説明した上で違憲と明言しておきながら、外観規定(⑤)について検討するところでいきなりブレーキかけて差し戻した理由ってなんなのでしょう?

これはわたしの推測なのですけど。みんな言っている「社会が混乱する」ことを裁判所も懸念しているのだと思うのですよ。

前にも説明したとおり、裁判所は、法律が憲法に合致するかを判断することはできますが、法律を作ることはできません(三権分立の原則)。性同一性障害特例法の規定がダメということはできるけど、どう直すかを考えるのは国会の仕事なのですね。

裁判所としてはどう考えてもダメです、だけど、違憲判決を出して完全にNOということにしてしまうと、これ社会が大混乱だよね、それよりは、違憲だよといいつつ差し戻して時間を稼いでおくから、今のうちに法律をなんとかしなよ?たぶんそういうメッセージだと思うのです。

実際、補足意見として、こんなのが出されています。

本決定により本件規定が違憲無効となることを受け、立法府において本件規定を削除することになるものと思料されるが、その上で、本件規定の目的を達成するためにより制限的でない新たな要件を設けることや、本件規定が削除されることにより生じ得る影響を勘案し、性別の取扱いの変更を求める性同一性障害者に対する社会一般の受止め方との調整を図りつつ、特例法のその他の要件も含めた法改正を行うことは、その内容が憲法に適合するものである限り、当然に可能である。
本決定を受けてなされる法改正に当たって、本件規定の削除にとどめるか、上記のように本件規定に代わる要件を設けるなどすることは、立法府に与えられた立法政策上の裁量権に全面的に委ねられているところ、立法府においてはかかる裁量権を合理的に行使することが期待される。

令和2年(ク)第993号 性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件 令和5年10月25日 大法廷決定

違憲判決の出た規定は削除するしかないよ、でも、その代わりになんか規定を設けることはアリだよ、そこは立法府(国会)の役割だよ

この規定はもう駄目だけど、単純に削除したら大混乱だから、そうならないように法律とかルールを整備してね、ってことです

三権分立は大事な原則なので、裁判所が国会になんかしろと命令することはできません。だから命令はしないけど、こういうふうにすることは可能だからね、早よ手を打ってね、そうじゃないともう違憲判決出すしかなくなるからね?そういうことです。

まとめ

性同一性障害特例法の手術規定に関する最高裁判所大法廷判断がどういう構成になっているか、という説明をしました。

わたしの意見は、最初の記事を書いたときから変わっていなくて、「軽率に煽るような人達が言うようなことは国会議員の人も裁判所の人もちゃんと考えてるよ、だから話をちゃんと聞いた上で判断しようよ」です。

実際今回の判決についてもちゃんと読めば、みんなが騒いでいるようなことは全部検討されていることがわかります。

軽率に反応したくなる浅薄なツイートや画像だけみて騒ぐのではなくて、実際何が起きているのかをちゃんと把握した上で反応してほしいなと思っています。

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