キルギスの山を2600km歩いてみようとしました【準備編】
「次の夏は、キルギスを横断してみようか」
その話が持ち上がったのは2020年の12月
バルカン半島のVia dinaricaというトレイルを1500km歩く計画を立てたものの、雨が多くコロナも相まって、わずか20%しか歩けなかった2ヶ月後のことだった
【準備編】
さて、私は餅食べたさに年明け早々緊急帰国し、私達は キルギス:日本 で約3ヶ月遠距離にあった
齷齪働く私を他所に、彼は着々と準備を進めていた
「全部で2600kmになりそうだよ」
そう報告があったのは1月後半
5月から10月にかけて南西Batken州からIssyk-kul州まで北上していく計画
「トレイル」と書いたが、地図上で歩けそうな場所を繋いでいっただけの道が大半を占める
Locus mapと旧ソビエト軍地図でルートを作成し、Google Earthの衛星写真で川の大きさやトレイル、氷河の状態を確認する
といった手順で計画を立てた
一番の壁は、情報の少なさだ
特に南西部タジキスタンとの国境にあるTurkestan rangeは、一時ISILの巣窟になっていた過去もあり、登山者はほぼいない
実はキルギスの山を歩くのはこれが2回目だ
2年前のTurkestan rangeでは、ルート変更して最終的に辿り着いた土地が、村ではなくキルギス軍のキャンプ地で、軍の車で町まで送ってもらったという、ほろ苦い思い出がある
※多くの地域で国境許可が必要になります
2年前、人間は渡れるがロバは渡れないと説明された橋
英語での情報はほぼない状態で(ロシア語なら多少あるが、ガイド付きアルピニストなので要所が異なる)
• 川は渡れる大きさなのか(基本歩いて渡る)
• 地図上の橋は本当にあるのか
• モレーンの状態は歩きやすいか
• 氷河にどの程度のクレバスがあるのか
• 全てのトレイルが歩ける状態にあるのか
などと、どんなに入念に調べても不透明な部分が大半を占めていた
ちなみに、私達は技術を要する登山はしない
練習不足で慣れないロープを使うより、迂回してでも安全な道を歩こう
というのが私達の理念であった
しかし、全てを終えて、そんな理念山には通用しないので、ロープワークちゃんと勉強しようと誓いました
※全登山者から「山を舐めるな!」とお叱りが来そうですが、私達も真剣でした
ちなみに、今回私達が使用したのは、彼が設計•縫製したテント(900g)
トレッキングポール2本で建てる仕様で、Albanian alpesやトルコのCarian trail、そして今回のキルギスも、私達の命を守ってくれました
悩みの種は、なんと言っても食料調達方法だ
8-20日間山を歩き、町へ行き食料調達し、山に戻る……それの繰り返し
2600kmを12区分し、歩みを進めることにした
(山の麓から町までのマルシュルートカが一番難関だったりする)
標高の高いキルギスでは、4000m以上の峠を何度も越えることになる
完全な横断とは言い切れないが、これが一番現実的だ
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さて、食糧計画の担当は基本的に私だ
「焼き米」という、日本古来の米の保存方法を発見し、今回はこれを試してみよう!と意気込んでいた
「再来週の土日にでも試しに作ってみようかな!」
と話していたが、思いの外彼は行動が早かった
「米 6kg 買ってきた!今から乾燥させる!」
彼がそう言ったのは、焼き米を提案した3日後
なんと彼はせっせとアルファ米を作り始めたのだ
作り方は簡単
炊いた米を洗い、60℃のオーブンに入れて12時間乾燥させる
という、なんとも環境負荷の高そうな方法だ
しかし、ここで彼の「作りたいスイッチ」が入ってしまった
「今日じゃがいもを20kg!」
「今日は豆を2kg!」
「今日は卵を80個!」
そう、キルギスの美味しい水が生んだ貴重な電力をフル稼働させ、寝る間も惜しんで乾物を作り始めたのだ
古来より乾物文化のある国で育った私としては
「そ…そんなに電力使わなくても…(ましてや超乾燥地帯キルギスにて)」
しかし、有り難いことにたった1週間で60日分の夕飯の基礎が完成したのだ
その間彼はカロリー計算にも夢中になり、こんなグラフを作成していた
私はざっくりと栄養素を計算し、足りないものを他の食材やビタミン剤で補うことに
絶対に不足するのはビタミンC
熱に弱いビタミンCは乾物類では補給できないのだ
しかし、夏の低地では、ラズベリーやワイルドストロベリー、シーバクソンやマロウなどを摘むこともできたので、ビタミンCを補給できる日もあった
次はもう少し野草の知識も増やして、低山で食べられるものを増やしていこうと思う
完成した献立表はこちら
【朝】
●グラノーラ
●煎餅
◎粉末コーヒーミルク
◎ナッツ&ドライフルーツ
◎ピーナツバター
【昼】
◎クラッカー
◎ナッツ&ドライフルーツ
◎サラミ
◎チーズ
◎レバーペースト
◎干し芋
◎干しイカ or 干し魚
【夜】
《一例》
*豆カレー
*肉味噌雑炊
*ピリ辛海老麺
*ポテトサラダ
●じゃがいも20kg
●米6kg
●豆2kg
●卵80個
●にんじん2kg
●トマト2kg
●玉ねぎ2kg
●グラノーラ
●ネギ
●パクチー
●ニラ
●ガーリックチップス
●肉味噌
◎干し椎茸
◎干し海老
◎干し豆腐
◎わかめ
◎昆布
◎鰹節
◎スパイス多種
◎ブルグル
◎蕎麦の実
◎豆麺
◎チョコレート
●わたしたちが乾燥させたもの
◎ 購入したもの
※食事の一部。バザールの靴屋を巡ってシリカゲルを集めたが、なくても食材がカビることはなかった。ナッツやドライフルーツはバザールで購入。
後に、山で出会った栄養士にメニューを見てもらうと「ほぼ完璧!」と御墨付をいただきました。次はもっとレンズ豆の比率を高くします。
全て乾燥させたため、野菜類はかなり軽くなった
重量はざっくり1日1人1kg前後になった
10日の行程で
ベースウェイト5kg+食料10kg+水2kg=17kg/人
測ってないから実際の重さがどれぐらいだったか定かではないが、こんな感じだったと思う
ちなみに、私は彼と身長40cm、体重35kg差があるので、荷物をかなり多目に持ってもらった
それでも、最後を締め括ったEngilchekセグメントは、15日まで短縮しても重すぎて心が折れそうになった
これからの誓いはこう
「10日以上の行程は組まないこと」
これは、食べるの大好きな私達が、食べ物を妥協せず最大限に楽しむための誓いでもあった
歩いてみて難しく感じたのが
行程の不透明さによる、食料の過不足
これは、既存のトレイルでちゃんと準備すればほぼ起こり得ないことだろう
しかし、今回はトレイルの状態と天候によって行程が前後する
予定+2日分持ち歩いたが、連日雪や雨に見舞われたりして、予定変更の連続だった
食料が足りなくなることはなかったが
「このままいくと足りなくなりそう、でもこの渓谷を下ったらタジキスタンの飛び地に入るから違法になる」
という精神状態で歩く山は、楽しいからはかけ離れていた
最終的に、2600kmを歩くことは断念し、1000km+で今回のトレイルを終えた
主な要因は
①6月に彼が1ヶ月体調不良に陥った(町で待機)
②新鮮さが失われてきた
③山の食事に飽きた
④そもそも達成することに拘りがない
特に私達にとって、食事面はとても大きかった
かなり工夫して、味のバリエーションも多かった方だ
アメリカのPCTやAppalachian Trailなど、有名なロングトレイルを歩く人はピーナツバターをベロベロ舐めて歩いてるという
私が彼と初めて山で出会った時も、彼の食料は
クッキー、ジャム、ピーナツバター、スニッカーズ、ナッツとドライフルーツ
といった感じだった
私は食事に妥協できないので、二人で歩き始めてからは工夫を重ねてきた
これまで、6日以上の縦走をすると、町に戻った時に暴食したり、甘いものに走ったりしてきたのだが、これはカロリー不足の証
それでは筋肉がちゃんとつかないので、今回はカロリーや栄養バランスも考えて献立を考えた
それでも「もう山はしばらく結構です」というほど、私達は山の食事に飽きてしまった
レバーペーストなんてキャットフードにしか思えなくなり、最終的に野良猫にあげた
歴史的に見ても、食事に拘りのない国は戦争で強かったとか、アングロサクソンは何でも食べたから世界制覇できたとか言われてきたが、私は「グルメなんで凡人止まりで結構です!」
と声を大にして言いたい
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さて、いつもの如く食べ物だけでここまで終わってしまったので、続きはまた次回
ここまで読んでくださり、ありがとうございました