Ciliumで実現するレイヤー3・4・7のトラフィック振り分けとは?
コンテナ環境やクラウドネイティブなインフラでは、アプリケーション同士の通信をどのように管理するかが非常に重要です。その中で注目されているのが、eBPF(Extended Berkeley Packet Filter)技術を活用したCiliumです。Ciliumはネットワークトラフィックをレイヤー3(ネットワーク層)、レイヤー4(トランスポート層)、そしてレイヤー7(アプリケーション層)という異なる階層で制御できる強力なツールです。
今回は、各レイヤーでCiliumが何を基に振り分けを行い、どのような場面で役立つのかを解説します。
レイヤー3(ネットワーク層):IPアドレスに基づく振り分け
ネットワーク層は、通信をどこに届けるか、つまり経路を決める役割を担っています。Ciliumでは、レイヤー3で以下の情報を基に振り分けを行います:
送信元IPアドレス
宛先IPアドレス
ルーティング情報
たとえば、Kubernetes環境ではPod間通信のルート設定にこのレイヤーが活躍します。Ciliumは各PodやノードのIPアドレスを解析し、通信を適切な宛先に届けるためのルーティングを行います。eBPFを活用しているため、これらの処理は高速かつ効率的です。
具体的な例として、特定のIPアドレスの範囲(CIDR)からのアクセスをブロックしたい場合、レイヤー3でそのポリシーを適用できます。これにより、不審なトラフィックを早い段階で遮断することが可能です。
レイヤー4(トランスポート層):プロトコルやポート番号による振り分け
トランスポート層では、通信の送受信を確実に行うための制御が行われます。Ciliumはこの層で、以下の情報を基にトラフィックを振り分けます:
トランスポートプロトコル(TCP、UDP、ICMPなど)
送信元ポート番号
宛先ポート番号
たとえば、HTTPトラフィック(TCPの80番ポート)を特定のサービスにルーティングしたり、MySQL(3306番ポート)へのアクセスを制限したりといった制御が可能です。また、UDPを使用するDNSのようなプロトコルに対して異なるポリシーを適用することもできます。
Ciliumがトランスポート層の情報をもとに柔軟なネットワークポリシーを提供できるのは、eBPFによってトラフィックをリアルタイムで監視・制御できるからです。この技術により、複雑なポリシー設定も低オーバーヘッドで実現できます。
レイヤー7(アプリケーション層):アプリケーションデータの解析による振り分け
アプリケーション層は、実際にユーザーが利用するサービスに関連する部分です。この層でCiliumは、HTTPやDNSなどのアプリケーションレベルのデータを解析してトラフィックを振り分けます。具体的には以下のような情報を活用します:
HTTPリクエスト(URIパス、メソッド、ヘッダー情報など)
DNSクエリ(ドメイン名やクエリタイプ)
TLS通信でのSNI(Server Name Indication)情報
gRPCやKafkaといったプロトコル固有のデータ
たとえば、HTTPリクエストのURIパスに基づいてトラフィックを振り分けることができます。/api/v1はサービスAに、/api/v2はサービスBにルーティングするといった制御が可能です。また、DNSクエリを解析して特定のドメイン名だけ許可する、Kafkaのトピックごとに通信を分けるなど、アプリケーションレベルの詳細な制御も実現します。
これらの高度な振り分けには、Envoyプロキシとの連携が使われることが多く、CiliumはEnvoyが解析した情報を基にポリシーを適用します。これにより、アプリケーション層のトラフィックを柔軟かつ精密に管理できます。
Ciliumを活用したトラフィック制御の魅力
Ciliumが提供するレイヤー3・4・7でのトラフィック振り分けは、それぞれ以下のようなシナリオに活用できます:
**レイヤー3(ネットワーク層)**では、IPアドレスに基づくアクセス制御やルーティングを効率的に実現。
**レイヤー4(トランスポート層)**では、ポート番号やプロトコルごとのトラフィックを分離し、ネットワークポリシーを柔軟に適用。
**レイヤー7(アプリケーション層)**では、アプリケーションデータの中身を解析して詳細な制御を可能にする。
これらの層で制御を組み合わせることで、セキュリティを強化するだけでなく、トラフィックの最適化やサービス品質の向上も期待できます。eBPFの活用により、これらの処理が従来のソリューションよりも軽量でパフォーマンスに優れている点も魅力です。
Ciliumを活用することで、あなたのネットワーク運用に新しい柔軟性と強力なセキュリティをもたらせるかもしれませんね。