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crictlとdocker:使い分けが進むコンテナ管理ツール

コンテナ技術が普及する中、crictl と docker はそれぞれ異なる場面で活躍するツールとして注目されています。一見似ているようでいて、実はその設計思想や用途に大きな違いがあるんです。この記事では、その違いを背景も含めてひも解いてみます。


crictlとdocker:何が違うの?

コンテナ技術に触れると、まず出会うのが docker。開発環境での簡単なコンテナ実行から本番環境の運用まで、幅広く使われています。一方、crictl は主にKubernetesの世界で存在感を発揮するツール。具体的に見ていきましょう。

1. 用途の違い

  • crictl
    Kubernetesクラスター運用に特化しており、主に CRI (Container Runtime Interface) に対応したランタイム(例: containerd, CRI-O)と直接やりとりするために使われます。KubernetesでのトラブルシューティングやPodの操作に便利です。

  • docker
    Docker Engineを操作するツールで、ローカル開発や単体でのコンテナ管理が主な用途です。開発環境をセットアップしたり、単独で動作するコンテナを手軽に扱いたいときに便利です。

例えるなら…

crictl はKubernetesという組織の「専属エンジニア」。その現場に特化した知識やスキルを持っています。
一方、docker は「なんでも屋」の便利屋さん。特定の環境に縛られず、いろんなところで頼りになる存在です。


2. サポートするランタイム

  • crictl
    CRI互換のランタイム(例: containerd, CRI-O)に対応。Kubernetesが特定のランタイムに依存しない仕組みを目指した結果、これらのランタイムが中心になりました。

  • docker
    Docker Engine専用。これにより、Docker独自の仕組みやエコシステムが活用できますが、CRI互換のランタイムとは直接やりとりできません。


3. コマンドの違い

どちらもコンテナ操作用のコマンドを提供しますが、設計の違いが随所に表れています。

  • crictl
    Kubernetes環境に特化したコマンドが多いです。たとえば、Podの一覧を確認するには crictl pods という専用コマンドを使用します。

  • docker
    イメージのビルド(docker build)やネットワーク管理(docker network)など、幅広い操作が可能。汎用的な機能が豊富です。


crictlが生まれた背景

crictl の登場には、Kubernetesの進化とコンテナランタイムをめぐる課題が大きく関わっています。

1. Kubernetesの理想と現実

KubernetesはもともとDockerをメインのランタイムとして使用していました。しかし、次第に「ランタイムに依存しないプラットフォーム」を目指すようになります。その理由は、DockerにはKubernetesには不要な機能が多く、運用において非効率だったからです。


ランタイムに依存しないプラットフォームとは?

「ランタイムに依存しないプラットフォーム」とは、特定のコンテナランタイム(例: Docker)に縛られず、さまざまなランタイムを自由に利用できる仕組みを指します。

具体的には、KubernetesがDocker以外のランタイム(例: containerd, CRI-O)でも動作できるように標準化した仕組みを採用したことです。これにより、Docker特有のデーモン(dockerd)を起動しなくても、直接コンテナ操作が可能になりました。

たとえば、以下のような場面が挙げられます:

  1. Dockerをインストールせずにコンテナ操作
    通常、open -a docker などでDockerデーモンを起動し、docker コマンドを使用します。しかし、KubernetesではDockerを使わずに、crictl を通じて containerd を操作することでコンテナ管理ができます。

  2. 異なるランタイムの切り替え
    DockerからCRI-Oに移行する場合でも、Kubernetes側の変更はほとんど不要。これが「ランタイムに依存しない仕組み」の強みです。


2. CRIの登場

2016年、Kubernetesは CRI (Container Runtime Interface) を採用。これにより、Kubernetesとランタイムの間に標準化されたインターフェースを設け、Docker以外の軽量なランタイム(例: containerd, CRI-O)も利用できるようになりました。


3. crictlの読み方

日本語では、crictl は「クリクトル」と読みます。英語の「CRI (Container Runtime Interface)」と「ctl(controlの略)」を組み合わせた名前です。実際に発音するときは、「クリ」と「トル」をやや強調して読むと伝わりやすいです。


4. Dockerシム廃止の衝撃

2021年、KubernetesはDockerを間接的に利用する仕組み「Dockerシム」を廃止しました。これにより、KubernetesでDockerを使う運用は非推奨となり、crictl がKubernetesの標準ツールとして注目されるようになります。


まとめ:どっちを使うべき?

  • Kubernetesを運用するなら
    crictl が必須です。Kubernetesのネイティブな仕組みを活かした運用が可能になり、トラブルシューティングもスムーズに進みます。

  • 単体のコンテナ管理や開発環境では
    docker が最適。手軽さと汎用性が魅力で、開発者にとってはおなじみのツールです。

これからコンテナ技術を活用しようとしている方も、すでにKubernetesを運用している方も、状況に応じて crictl と docker を使い分けることで、より効率的に作業が進むはずです。

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