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コンテナ実行の中核「runc」の内部ロジック

コンテナ技術を深掘りしていくと、必ず出てくるキーワードのひとつが「runc」です。DockerやKubernetesといったツールの裏側で活躍するこのruncには、コンテナの実行を支える重要なロジックが詰まっています。

この記事では、runcの内部ロジックを詳しく解説し、その軽量性と柔軟性の理由を探ります!


runcとは?

**runc**は、コンテナの実行を実際に行う低レベルのランタイムツールです。
OCI(Open Container Initiative)の仕様に準拠しており、コンテナの作成、分離、リソース制御、セキュリティ設定といった「コンテナ実行の根幹」を担っています。

シンプルな設計ながら、以下のような多くのロジックが詰め込まれています。


runcの内部ロジック

1. コンテナの作成

runcは、OCI仕様に基づいてコンテナを作成します。具体的には次のような処理を行います:

  • プロセス設定
    コンテナ内で動かすプロセス(例: /bin/bash)を設定し、環境変数やコマンド引数を準備します。

  • ファイルシステムのセットアップ
    ルートファイルシステムを指定して、ホストから隔離された空間を構築します。これにより、コンテナ内はホストとは別の独立した環境に見えます。

  • 名前空間(namespaces)の分離
    PID(プロセスID)、ネットワーク、マウントポイントなどを分離して、コンテナ内の環境を完全に隔離します。


2. cgroupsによるリソース管理

runcは、Linuxのcgroups(制御グループ)を利用して、コンテナのリソース使用量を制御します。これにより、ホスト全体の安定性を確保しつつ、コンテナ間でリソースを公平に分配します。

  • CPUリソースの制限
    コンテナごとに利用できるCPUの割合を制限。

  • メモリ制限
    コンテナが使えるメモリの上限を設定し、メモリ不足時の挙動(例: OOM)も制御。

  • ディスクやネットワークのI/O制御
    ディスクアクセスやネットワーク帯域の使用量を調整。


3. プロセスの分離と実行

runcは、Linuxのclone()システムコールを利用してプロセスを分離し、次のような安全で隔離された環境を構築します:

  • UID/GIDのマッピング
    ユーザーやグループIDをホストとコンテナ内で再マッピング。

  • 権限の制御(CAPABILITIES)
    必要最小限の権限だけを持つよう設定し、不要な特権を削除します。

  • システムコールの制御(seccomp)
    セキュリティを強化するため、使用できるシステムコールを制限。


4. プロセスの監視

コンテナのプロセスは常に監視されています。プロセスが停止した場合や異常が発生した場合は、必要に応じて停止や再起動を行います。この仕組みにより、ホスト側からコンテナの状態を正確に把握することができます。


5. OCI仕様への準拠

runcはOCI仕様に基づいて動作しているため、以下の機能が備わっています:

  • config.jsonの読み込み
    コンテナ設定(例: 環境変数、リソース制限)を記載したJSONファイルを解析し、その内容を反映。

  • バンドル形式のサポート
    OCIバンドル(ルートファイルシステム+設定ファイル)に準拠したコンテナ構築が可能。


6. 軽量で柔軟な設計

runcは「コンテナを実行する」ための最小限の機能に特化しており、次のような利点を持ちます:

  • 独立性
    Dockerの一部として使われますが、単独でも動作可能。PodmanやKubernetesでも利用できます。

  • シンプルさ
    必要最低限のロジックだけを持つため、リソース効率が高く、柔軟性もあります。


runcのユースケース

Dockerとの連携

Dockerは高レベルのインターフェースを提供し、内部でruncを利用しています。
例:

Docker CLI → Dockerエンジン → containerd → runc → コンテナ実行

Kubernetesでの利用

KubernetesはDockerに依存せず、直接runcを利用することも可能です。CRI(Container Runtime Interface)を介して、軽量なランタイムとして動作します。


わかりやすい例え:runcは「現場作業員」

もしDockerやKubernetes全体を「物流システム」に例えるなら:

  • Dockerは「物流会社の本社」
    顧客(ユーザー)からの依頼を受け付け、全体を管理します。

  • containerdは「物流センター」
    各地に荷物(コンテナ)を効率よく振り分けます。

  • runcは「荷物を実際に運ぶ作業員」
    コンテナの実行という具体的な作業を担当します。


runcのメリット

  1. 軽量で高効率
    コンテナ実行に特化しているため、無駄がなく高速。

  2. 標準仕様に準拠
    OCI準拠のため、他のツールやシステムとの互換性が高い。

  3. 柔軟な利用方法
    Docker以外の環境(例: PodmanやKubernetes)でも利用可能。

  4. セキュリティ対応
    権限制御やシステムコール制限など、安全性も高い。


まとめ

runcは、コンテナ実行の「職人」として、DockerやKubernetesの裏で活躍する重要なツールです。その内部には、プロセスの分離やリソース制御、セキュリティ設定など、コンテナを安全かつ効率的に動かすための多くのロジックが詰まっています。

シンプルな設計と標準準拠により、コンテナエコシステムの基盤として信頼性の高い役割を果たしているのです。
もし興味があれば、ぜひruncを単独で試してみるのもおすすめです!


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