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【お仕事系ショートストーリー】#01 正月明けのゆううつが晴れた日
「はぁ……正月終わったばかりなのに、もう仕事か……」
僕は朝の通勤電車の中でため息をついていた。
休み明けの仕事は、どうしてこうも気が重くなるのだろうか。三が日が終わったばかりの寒い朝、ギュウギュウ詰めの電車は、まるで僕の心を映し出しているかのように息苦しかった。
「おはよう、今日も頑張ろう!」
会社に着くと、先輩の明るい声が耳に飛び込んできた。
僕は無理やり作った笑顔を返しつつ、心の中では「この人、なんでこんなに元気なんだ……」と思っていた。
「どうした?元気ないな」
早速、気づかれてしまった。
僕は溜息をついて、素直に答える。
「正月明けで気が重くて……。なんか、やる気が出ないんですよ」
「まあ、気持ちは分かるよ。でもな、ちょっと考え方を変えてみるといいかもしれないぞ」
先輩は僕の隣に座り、穏やかな声で話を続けた。
「指示されてやる仕事って嫌だよな。頑張ってやっても色々注文もつけられるし、モチベーションが下がりやすい。でも、自分から手を上げてやる仕事は違う。意見が通りやすいし、だからこそやりがいも感じられる。受け身でやるんじゃなくてさ、思い切って『最高にやる気になってみる』ってどうだ?」
その言葉を聞いて、戸惑った。
「最高にやる気になる? そんな気力なんて今の僕にはない……」そう思ったけれど、妙に心に残る言葉だった。
先輩は続ける。
「正月明けって、誰でもやる気がなくなる時期だろ? だからこそ、逆に気合を入れれば、周りとの差をつけるチャンスだと思わないか?」
確かに、その視点はなかった。
いつも与えられた仕事を「こなすだけ」で、自分から積極的に取りにいったことなんてほとんどない。
指示された通りに動いて不満を抱くよりも、自分から動く方が気持ちも変わるかもしれない……。
次の日、僕は自分が関わっているプロジェクトについて、改善点をまとめたメモを上司に提出してみた。特に指示されたわけではなく、自分の意志で取り組んだものだ。
すると上司からは思った以上に良い反応が返ってきた。
「お、これはいいな。この方向で進めてみようか」
言われた瞬間、今までにない達成感を覚えた。
指示されてやった仕事ではなく、自分から提案して認められたことで、こんなにも気持ちが前向きになるなんて……
それから数日が経った頃には、正月明けの憂鬱な気分は消え去っていた。
不思議と毎朝の出社も前ほど苦ではなくなっていた。
先輩の言葉がなければ、今も不満を抱えたまま仕事をしていただろう。自分から動いてみることで、仕事の見え方も変わるものだと実感した。
「先輩、この前はありがとうございました。おかげで気持ちが変わりました」
そうお礼を言うと、先輩はいつものように軽く笑って答えた。
「いいってことよ! これからも自分から動いてみるといいよ。あ、今日の俺のモチベーションは、美味しいお蕎麦屋さんを見つけることなんだ。付き合ってくれるよな?」
この正月明けの一件をきっかけに、僕の仕事への向き合い方は大きく変わった。
「受け身ではなく、最高にやる気になってみる」
その言葉を胸に、僕は今日も新しい仕事に挑んでいる。