僕の小規模な退職 その23
この土地に来てアスパラの美味しさを知った。
6年前に転勤でこの土地にやってきた。
会社の雰囲気に馴染め無かったこともあってか、あまりこの土地が好きになれなかった。
来た当初はそこまで嫌々だったわけではない。
だけど、いつからかイヤなことばかりに意識が向くようになってしまった。
日照時間。気温の寒さ。信号無視する人々。路上駐車の多さ。などなど。
そういったもの全てがイヤになっていた。
そんな気持ちで過ごしていた時期のことだ。
春になり、近所のスーパーに買い物に行った時のこと。
野菜売り場に「アスパラ」コーナーが出来ていた。
とても太い地場産のアスパラがずらり。
「で、デカ…。ふ、太…。」
実をいうとあまりアスパラが好みでは無かった。
嫌いほどでは無いので食べることはできる。
しかし、固い部分の筋っぽさが食感としてあまり好ましく無く、自ら積極的に買い物かごに入れることなど無かった。
だが、何を思ったのかその時の自分。
ついついアスパラを自らの手で買い物かごに入れたのだった。
売り場に圧倒されたのかもしれない。
POPが心を打ったのかもしれない。
いや違う。
そのアスパラの見事なまでの巨大さ、極太さにただただ興味を惹かれただけなのだ。
「こんなに売り場も力を入れているんだ。どうれお手並み拝見」
みたいな高飛車な気持ちだったかもしれない。
「こんな巨大なアスパラ見たことない。家に帰って写真撮ろう」
みたいなミーハー気分だったかもしれない。
帰宅後、売り場のPOPに書かれていた言葉を信じそのままフライパンで焼いてみた。
う、うまい…。
こんなに太いのに固くない…だと…。
筋っぽい部分が無いだ…と…。
なんともみずみずしい食感…。
口の中にアスパラの味が広がるぅぅぅ。
「うーまーいーぞー!」
自分が味皇だったら口から光線を出しているところだ。
それからというものスーパーに行く度にアスパラを買うようになった。
毎週のように食べる。
何度食べても飽きない。
この美味しさを家族にも食べさせたい。
どうにかできないものか。
と思ったら「アスパラギフト」なるものがあるではないか。
早速注文。
後日アスパラが届いた家族から連絡。
その見た目のインパクトと味覚のうまさに同様の反応。
こんな良いものがあったなんて生まれて3×年(当時)知らなかった。
それでちょっとこの土地のことを見直した。
そんなアスパラも季節食材。
初夏を迎える頃には店頭から姿を消してしまう。
早く来年の春にならないかな。
そう思いながら毎年過ごした。
そしてまた、今年も店頭に並ぶ季節が到来。
我が家の食卓にはアスパラが並ぶ。
44歳。推定無職。アスパラの季節。