【見習い日記⑮】 気持ちよく「ありがとう」が言えたんよの話
感謝の気持ちを伝えるのは難しい。
今日も仕事が忙しいが少しだけ話を聞いて欲しい。
仕事や日常生活において、「ありがとう」と言う回数は多い。しかし形式的に「ありがとう」と言うことが多いのも事実である。結果 その言葉自体に「ありがたみ」が無くなっているのではないか。それ故に出がらしのお茶のように感謝の気持ちも薄れてしまっている気がしてならない。
昔お付き合いしていた方のお父様が当時JAの茶業部で働いておられた。ある日、新銘柄のお茶を開発し商品化までこぎ着けたこともあり、お茶が大好きなボクの母にプレゼントしてくれた。ボクはそのお茶を実家のテーブルに置いておいた。しばらくして彼女がうちへ来た時「お茶でも飲んで行きなさい!色も味も薄くて全然美味しくないお茶だけどごめん!」と言ってそのお茶を出した。そう、前段部分を説明し忘れていたのだ。そのあと母に烈火のごとく怒られたことは言うまでもない。
おっと、「お茶」「薄い」のワードに引っ張られて関係ない話をしてしまった。時間がない。本題に戻そう。
「ありがとう」は本来、「有り難い」=「滅多にない」ということである。もともとはお釈迦様のお言葉だそうだ。毎度のことだが詳しい話はよく分かんないので割愛させていただく。
何事にも感謝の気持ちを持っているし、有り難いことだと思っている。そしてその気持ちも必ず伝えるように心がけている。しかしその「ありがたみ」の程度によって、「ありがとう」の言葉レベルが変わるのだ。皆さんも少なからずそういう所があるのではないだろうか?
「あ、どーも」「さーせんWWW」「あざます!」「サンキュー♫」「恐れ入ります」
感謝の気持ちに優劣を付ける訳ではないが、このように「ありがとう」にも種類があるのだ。
しかし先日、ついに心の底から最上級の「ありがとう」が気持ち良く言えたので 今日はその話を共有したいと思う。
ある日、国道沿いの大型電気店に行った。帰りはどうしても右折で国道に出なければならない。もちろん車の通りは多く、タイミングを見計らっていた時のことである。
自転車に乗ったおじさんがスーーっと近寄って来たのが見えた。自転車の通行の邪魔をしてはいけないと思い 少し車をバックさせた。しかし、そのおじさんは通りすぎてはくれない。むしろこちらに向かって何かを言っている。
「………が……いと…な…いのか!」
窓を少し開けてみる。「はい何ですか?」
「何でオレが止まらないといけないのか!」
「あ、すいません。下がりましたのでどうぞ。」
「何でオレが止まらないといけないのか!」
かなりヤバい。腹から声が出ている。会話が成り立たない。
本来ならばこういう場合はスルーしてその場から消えるのが一番の解決策だが、いかんせん右折で国道に出るタイミング待ちなのだ。
「何でオレがオマエの車を避けて通らないといけないのだ!ここは歩道だ。」
微妙にニュアンスを変化させてきたが「ここは歩道だ」が どうしても気になってしまった。
「いや、おっさんも自転車に乗ってらっしゃいますよね?ここ歩道ですよ?手前には小学校ありましたよね?まさかずっと歩道を通って来られたんですか?しかも点字ブロックの上に止まってらっしゃいますけどどういう了見ですか?カタカタ音がなって楽しいなぁとか思ってらっしゃるんですか?それともオレずっと点字ブロックの上だけ通って来たもんねバランス感覚抜群だもんねとか自己満z…(以下略)」
ボクは思ったことがすーぐ口から出ちゃう体質なのだ。口から飛沫を飛ばしながらめっちゃ早口でまくし立ててしまったが、これで おっさんにも相当ダメージを入れられたはずだ。
「オレはいつもオマエみたいな車を避けて通らされてる。今日も何回も避けた。」
ノーダメであった。やはり全く会話にならない。
しかしここでボクはハッと我に返った。日頃からこうして道を譲っている本当は心優しいおじさんなのだと気付いたからだ。
「なるほど、いつもみんなに道を譲ってるんですね。それでしたら これからも他人に道を譲り続けて生きていく、そんな人生を全うしてください。本当にお疲れさん。ほんとうにありがとう。」
ちょうど右折のタイミングが来たのでそれ以上のリアクションは見ることができなかったが、ボクの皮肉マシマシの言葉とクラクション2回プップーは確実に届いたことであろう。
バックミラーで見るとこちらを見て立ちつくすおっさんの姿が小さく確認できた。心なしかおっさんの顔にも笑顔が見られたような気がした。そして何より1回も噛まずに言ってやったという充足感でニヤニヤが止まらないのであった。やはり「ありがとう」という言葉は皆を幸せにする言葉なのだと思う。
おっといけない。休憩時間が終わってしまう。そろそろ仕事に戻らなければならない。ここまで話を聞いてくれて本当に本当にありがとう。
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