【見習い日記⑧】 それいけノリさん事件簿2】
嬉しいことにまさかのリクエストをいただいたので、今日も1兆個あるノリさんエピソードを皆さんと共有し成仏させていきたい。ノリさんをまだ知らないという方はまずは以下の話を聞いて段取りしてほしい。
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近視眼的な物の見方をしてはいけない。
仕事をするうえで大切なことは状況判断である。枝葉末節にこだわりすぎると物事の大局を見失いかねない。もっと大所高所から広い視野で状況判断しなければならないのだ。
③それいけノリさんホイールキャップ事件
その日は朝から雨が降っていた。
通勤途中の橋が工事中のため片側交互通行で渋滞していた。いつもより到着に時間がかかり、始業開始ギリギリで到着してしまった。
駐車場に着くとそこにはノリさんがいた。珍しい。ノリさんは兼業農家ということもあって、朝イチで田んぼの様子を見てから出社する。そのため始業時間より早めに来て缶コーヒーを飲むのがルーティンなのだ。
「左前のタイヤのホイールキャップが無くなってしまいました。」
悲しげな表情であった。ノリさんはTOYOTAのAQUAに乗っている。その左前のホイールは剥き出しになっていた。
工事中の橋を通る際にただの水溜りに見えた深めの穴にガコンとタイヤが落ちてしまったそうだ。きっとその時に外れてしまったに違いない。
「帰りに落ちてないか確認してみます。」そう言って勤務についた。
しかし、その日のノリさんは絶不調であった。
凡ミスを連発し、それを指摘しても右から左へ聞き流しているように見えた。悪い言い方をすればボサーッとしていた。朝のホイールキャップの一件が頭から離れないのだろう。休憩中には買い直した場合の値段をネットで調べてボクに見せてくれた。
「どうせなら全部外しちゃえばいいじゃないですかーWWW 最初からこうでしたよ的なWWW」
ノリさんには笑えない冗談だったらしい。だんまりを決め込んで空になった缶コーヒーをいつまでも握りしめていた。
そして次の日…。
その日も朝から雨が降っていた。
渋滞中の橋で止まっていると、前方で車を手で制止しながら橋の真ん中を小走りで横切っているノリさんが見えた。危険という訳ではないがかなりの迷惑行為である。そしてゆっくりと車列は進み、橋を渡ってすぐの路肩にノリさんの車が止まっているのを確認できた。
ボクはピンときた。昨日のホイールキャップが見つかったのだ。それであれば仕方ないと思えた。昨日のノリさんの様子を目の当たりにすれば誰しもが同じ感情を抱くだろう。昨晩は眠れなかったに違いない。ボクは自分のことのように嬉しくなった。
駐車場に到着するとすぐ後からノリさんのAQUAが入ってきた。
「おはようございます!」
晴れやかな声であった。昨日とは打って変わって晴れやかな声であった。ボクもそれに応えた。
「おはようございます!良かったですね!」
「昨日は見当たらなかったんですが、今日来る途中で…(以下略」
饒舌であった。昨日とは打って変わって饒舌であった。手に持つホイールキャップは満面の笑みを浮かべながらこちらを見ていた。DAIHATSUのロゴを携えて。
ん!?DAIHATSU!?!?
近視眼的な物の見方をしてはいけない。
ホイールキャップが落ちていたからといって自分の車のそれとは限らないのである。近視眼的な物の見方をすると大切な部分を見逃してしまうのだ。慌てるがあまり、確認する暇も無かったのだろう。工事中の橋で渋滞中の車を制止してまで拾い上げたホイールは同じ境遇の第二のノリさんを生み出した特級呪物だったのだ。
「えー!これも違うのかー!」
そう言うと、後部座席からさらにもう1枚DAIHATSUのロゴのホイールキャップを取り出した。
……近視眼的な物の見方をしてはいけない。
断言して言う。橋周辺以外で落ちているホイールキャップはノリさんのものではない。ホイールキャップで頭がいっぱいであるがために目に付いたホイールキャップは全て自分のものだと錯覚したのだろう。「木を見て森を見ず」のその姿勢が今度は第三のノリさんを生み出してしまったのだ。
「帰りに元の場所に戻してきます…。」小さい声でそう言うと、眉間にシワを寄せながら勤務についた。
その日もノリさんは絶不調であった。
頑張れノリさん。
今日も話を聞いてくれてありがとう。次回があるとすれば「ノリさんお花見ドライブ事件」をお送りしようと思う。
もうそろそろ仕事に戻りたいので失礼する。ではまた。