【見習い日記⑯】 1個って買えんのよねーの話
ボクは「1個」が買えない。
本来なら1個しか要らないもの、例えばコンビニでお茶を1本買ったり、スーパーで卵1パックや本屋で雑誌1冊でさえも買えない。
理由は単純だ。
「客単価が下がる」からだ。
今たくさんの「は?」が聞こえた。しかし時間もないのでこのまま話を進めたい。ボクは忙しいのだ。
「客単価」は「売上 ÷ 客数」である。客1人がいくら買ったんよ?である。同じように「一品単価」がある。これは「売上 ÷ 取引点数」、1品あたりの平均単価はどんくらいなんよ?だ。お店や企業は この「客単価」「一品単価」を上げることで売上UPを目指すのだ。
まあ難しい話はどうでもいいので割愛させていただく。要するにボクが「1個」という最小単位で済ませてしまうと「客単価」「一品単価」が下がり 売上が伸びずお店の方が嫌な思いをするのではないかと要らぬ心配をしてしまうのだ。
当然そんなことはない。お店の方もそんなこと思ってもいない。自意識過剰もいいところだ。しかしこのせいで日常生活に支障をきたしているのである。
スーパーの店頭で焼き鳥屋さんが出店している場合がある。小腹が空いたのでネギマ1本食べたいところだがそうはいかない。あれこれ最低でも10本は買ってしまう。砂ズリ、鶏皮、豚バラ、えのきベーコン、あぁそうだ つくね串を忘れてはいけない。豚足も捨て難い。鶏皮とつくねはタレであとは塩で全部2本ずつおなしゃす!…おっといけない。何を頼むかは今必要ない情報であった。このように意図せず焼き鳥パーリーが催されてしまうのだ。これではエンゲル係数がカンストしてしまう。
ここで皆さんに聞きたい。本当に「1本」買えるのか?と。そしてどのような面持ちで「ネギマ1本ください」と言えば良いのか?と。
それではお弁当屋さんではどうだろう。
大好物の「のり弁当」を1個買いたい。当然買えないのでサラダやミニうどんをブラスでチョイスすることを考える。さらにお弁当屋さんの客単価はいくらぐらいだろうか?と邪推してしまう。客単価を上げるためには「特のり弁当大盛り」にランクアップせざるを得ないのだが、特のり弁当になった途端 白身フライがメンチカツになる。いやボクはソースをしっかり染み込ませた白身フライが食べたいんよ。…おっといけない。今は白飯にワンバンさせて食べたいなんてことはどうでも良かった。結局あれこれ考えるのがめんどくさいので「のり弁当」を2個買うという決断にいたるのだ。
皆さんは本当にお弁当1個を涼しい顔で買えるのだろうか?にわかに信じがたい。なにかコツがあれば教えてほしい。
そして最大の問題がこれだ。ボクは基本的にお一人様でご飯を食べに行くことはない。というか行けない。
それこそ一人前しか要らないからだ。
例えば からあげ定食に何を追加して客単価を上げれば良いと言うのか。不可能である。4人テーブルに1人で座らされでもしたら気が気でない。これはファストフード店でも牛丼屋でもラーメン屋でも同じだ。根本的に一人前が頼めないのだから。
皆さんは本当に4人テーブルに1人で座ってざるそばだけを食べることができるのだろうか?トッピングやいなりの追加も無しに?せめて 天ざるいなりセット にして客単価を上げようとは思わないのだろうか?にわかに信じがたい。
食品以外は全てネットで完結できるので気を回すことは減ったが、何であっても「1個」が買えない。このことを現在一人暮らしの母親に相談したことがある。
ボク「ねえねえ焼き鳥何本買う?」
母親「20本。それがどぎゃんしたとね?」
ボク「じゃあ弁当は?」
母親「2個たい。何が聞きたいとね?」
ボク「でもそんなに要らんよね?」
母親「1個って恥ずかしかたい。私忙しかけんもうよかね!」
遺伝子レベルですり込まれたものだった。
そういえば、子供の頃 家族でご飯を食べに行った際も、お腹いっぱいなのに次から次へ注文していた両親の姿が思い起こされる。そして何より「1個が恥ずかしい」という言葉が気にかかった。ただの見栄っ張りなのでは?とも思えるが、これは客単価を下げることでお店に迷惑をかけてしまうことが「恥ずかしい」のだ。そう解釈しておこう。うん。
そういう母は、去年 北海道へ一人旅に出かけた。北海道の外周をレンタカーで周るという壮大な計画だった。帰ってきて満面の笑みでボクにこう報告があった。
「レストランで1人前が頼めたけん!凄かろ?」
当たり前のことが当たり前ではない、そういう家系なのだろう。しかしボクは知っていた。お土産と一緒に現地から送られてきた大量のお茶の存在を…。
聞けば、北海道は広いので次のトイレにいつ辿り着けるか分からない。そこで、コンビニや道の駅を見かける度にトイレ休憩で停まったそうだ。しかし何も買わずに出てこれず、さらに「1本」が買えなかった為どんどん溜まっていったとのことだった。
そしてこの北海道一人旅を通して母が後悔していることがある。それは、
ソフトクリーム1個が買えなかったということであった。北海道でソフトクリームが食べられない…。このジレンマは想像を絶する。母が道の駅の売店の前を行ったり来たりする姿が想像できた。
おおっと、もうこんな時間だ。それでは仕事に戻ることにする。今日も話を聞いてくれてありがとう。ではまた。