ドラクエたとえ
手術をしても出血しにくくなるという不思議な力を持つありがたい水道水の入ったペットボトルを特別にいただいた。1本3,000円するらしい。それを3本も。そのペットボトルの原料には”水道水”と記載されていて、飲み方はそれを飲料水で3倍量に薄めて飲むといいらしい。ちょうど、部屋のパキラの水やり用が空になった時に近くにあったから使った。朝起きたらぐんぐん伸びることを期待していたけど何も変化はなかった。
3倍に薄めなかったからかな。
そのありがたいお水をわたしに分けてくれた人は病院で知り合った人。
わたしのことをえらく気に入ってくれている。
サブタイプは違うが彼女も今、同じ病気の治療中だ。
わたしのことを超人だと思っている。抗がん剤中に特に不調も訴えずヘラヘラしていたから。受診に行っても点滴をしていてもいつも笑ってるから。
彼女は友達がたくさんいて、その多い友達の友達には乳がん経験者が多くいるそうだ。たくさんの専門用語や情報を知っていてその全てをわたしに教えてくれた。わたしは不真面目なので、ほーと言って聞くけれども先生が言っていることじゃないから聞いた側から忘れていた。
いろんな情報を持っている彼女はいつもその情報から不安を生んでその不安をわたしに話してくれた。
連絡が来るたびに治療の副作用の辛さと一緒に新たに仕入れた情報を教えてくれる。これから先の治療についての情報にまた不安になっていた。
手術が終わって病理の結果受診の時期になると結果はどうだった?と頻繁に連絡が入った。相変わらず副作用の辛さに悩まされている様だった。
副作用緩和の効果がある特定の食べ物をたべないといけないけれど嫌いだから食べれず、よりひどくなっているとのことだった。
pCR(完全奏功)になったことを伝えた。わたし、pCRだったと。
「わたしは5回PCRしたよ」と返事があった。
それはおそらく、いや限りなく100%、コロナの検査のことだと思う。
熱心に病気に向き合って情報を仕入れることも、用語を学ぶこともいいと思う。
でもその出どころはどこでそれから、確かなのだろうか。
人から人伝いに届いた情報は伝言ゲームのようにどこか言葉が変化して置き換わっていないだろうか。
そして何より、彼女は完全奏功というとても前向きな用語を知らない。なぜだろう。
ドラクエで魔法使いはモンスターに攻撃魔法を使う。
強いモンスターであればあるほど攻撃に集中してしまうが、そのパーティには僧侶を入れてみてもいい。いや、戦士や武闘家、賢者。いろんな能力があればいい。
ドラクエの画素数の低い連なる人物たちはいろんな能力の持ち主だけれど、意見の対立もないし文句も言わないから人間よりスムーズだ。魔法使いは攻撃魔法をする。僧侶は守備力を上げる呪文や回復呪文を唱える。果敢に突撃するだけではうまくモンスターと対峙できない。
彼女の中には情報があるが、その中にリアルに彼女が必要とするものがあるのだろうか。そしてその効果や信憑性は確かなのだろうか。
それより、ルカニとかホイミとかあることを知るのもいいと思う。
でもその呪文も登場してすぐは使えない。ダンジョンで何度か戦闘してレベルが上がると使える様になる。
ドラクエはいつだって、主役の勇者が活かされるためには周りの専門家パーティが重要。それぞれの経験値を積んで覚える得意技が勇者を助けてくれる。
わたしは彼女じゃないし彼女は私ではないから物事の受け止め方はもちろん違う。
もしかして彼女は情報をたくさん持っていることが好きなのかもしれない。
彼女は彼女のやり方、考えで過ごしている。それを私はどうこうするでも言うべきでもないと思ってる。
特にこと病気に関してはネガティブな受け止め方は人それぞれより異なってくるから何がその人を傷つけることになるかわからないから。
彼女が少しでも不安なく治療ができるようになるといいなと、連絡が来るたび思う。
「毎日病院に通うと心の病気になってしまうんだって」
これから放射線治療で毎日通院する私に彼女は言った。3日に1回くらいはどこかでランチしようっと、とお店を探していたとは言えなかった。
いつか、彼女も治療が進み放射線治療をすることになった時に今度はわたしからランチ情報を伝えよう。
ドラクエで新しい街に入ると "ここは〇〇の街です"と教えてくれる街の人のように。
彼女がこれからのダンジョンで迷うことなどは伝えることではないと思うから。