自覚できない

先生は、オメガの少し大きめの時計をしていた。
ただそれだけを見ていた。

髪は抜けるし、おっぱいは取り除かれ傷になる。
自分の体なのに、わたしの意志のないところで変わっていく。
髪が伸びたからショートカットにしたいなあ。
夏だから少し襟が広い服が着たいなあ。
当たり前のように選択していたわたしの側の自由が不可能となる。

先生は、手術の予定をずらそうと看護師さんと話をしている。
少しの衝撃を受けてひっくり返った虫のように
駄々をこねているのが40をすぎたおばさん。
わたしなんぞのために、先生が助けるはずだった患者さんの予定が狂ってしまう。

「それは、やめてください」
いい格好しいの性格は良くない。
自分の足はふわふわしているのに、悪い人になりたくないだけで
わたしは、今まで自由にしていた自分の側にまで素知らぬ顔をしようとしてる。

「考えてきてもいいですか」
いまだに往生際が悪いけど、それが精一杯だった。
でも先生は、「今話せるなら話しましょう」とだけ。

「早ければ早いほどいいから すぐにでも」

でも、ダメだった。答えられなかった。
悲しいわけじゃない。逆光の先生みたいにトーンが落ちたわけでも
絶望したわけでもない。わたしのことなのにわたしが知らぬことに
答えを出せなかった。
「少しだけ考えたいです」

考えようとは思ってもいなかったのかもしれない。
でも自覚することができなかった。

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