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標準化は重要だけど、間違った方向に向かいがち。それはお化けのせい!

情報システムのプロジェクトなどで標準化という理想状態を目指すことだけが目的化すると、不毛な結果になります。それは、「スタンダリアン」というお化けのせいなのです。
そのお化けの生態を露わにした本から、一部内容を紹介します。

最初に言っておくけど、標準化や一元化は大事。
きちんと現状を把握している人が緻密に計画を練り上げて標準化を進めれば、素晴らしい改革ができる。それは、間違いない。

ただ、同じ「標準化」という看板を掲げながらも、現状を知らない人が聞きかじりの知識で安易な改革を進めてしまうと、組織全体に大迷惑をかけることになる。
これが、標準化お化けに憑りつかれた状態なんだ。

釣竿を標準化するべきなのか

例えば、こんな話で考えてみよう。
魚釣りをする10人の人が、みんな自分好みの釣り竿を使っている。
バラバラの釣り竿を使うのは非効率だから、一番素晴らしい竿を選んで統一しようという提案があった。

この案について、どういう意見を出すべきか考えてみてほしい。

まあ、この説明だけでは、答えは決まらないね。
実際の状況をもう少し調べないと結論が出せないというのが、この時点での答えかな。

釣り人が初心者ばかりで、狙う魚はすべて同じ。例えば、ワカサギ釣りとか。
こういう場合は、軽くて扱いやすくて安い釣り竿に全部統一するのもいいかもしれない。
ただ、新規に揃えるなら同じ竿を10本買えばいいけど、今回の問題ではすでにみんなが釣り竿を持ってたんでしょ。それを、わざわざ買い替える必要はないだろうね。

じゃあ、上級者が様々な魚種を狙って釣りをしている場合はどうだろう。
この場合は、釣り竿を統一する必要は全くないだろうね。狙う魚種によっても釣り竿の長さや硬さが変わるし、上級者の場合は自分の体にフィットするかどうかも重要。良い竿があることを相互に情報交換するのはいいと思うけど、そのうえで自分に合った竿をそれぞれ選ぶのがいいだろう。

じゃあ、既に持っている釣り竿を買い替えてまで、新しい釣り竿を揃えたほうがいい場合なんてあるんだろうか。
少しはそういう場合もあるだろうね。例えば、みんなが全然釣れていない中で、新製品の釣り竿を持ってきた人がものすごく釣れたとか。タナゴ釣りのような繊細な釣りだと、釣り竿の性能が釣果に直結するからね。
こんな風に釣り竿の性能が全く違うので、全員が新製品に買い替えたほうがいいというケースもあり得るとは思う。

つまり、既に持っているものを買い替えてまで統一したほうが良いというのは、基本的にレアケースなんだよね。買い替えることの費用対効果がよっぽど高いとか、既存のものに大きな問題があるという場合でないと、なかなかメリットは出ないと思う。

個別最適、全体最適という手垢のついた言葉

ところが、会社の組織改革でも、業務改革でも、システム導入でも、とにかくみんな新しいものに飛びついて標準化しようとするんだよね。
理屈は後からつけて、業務が効率化できるとか、サービスが向上するとかいうんだけど。まあ、ほとんどウソだよね。

今回の話を振り返ってみようか。

部長:そうでしょ。まずは、ちゃんと現状を整理しようよ。それから対策を考えよう。全社で揃えるべきものは、しっかり標準化して一元化する。こういう活動を繰り返すことで、個別最適でなく全体最適な状態が実現できるんだ。

部長の言葉は、まさに標準化ありきの思想に憑りつかれてるね。
標準化することでどんな大きな効果があるのか。そういう大事なことをすっ飛ばして、標準化すること自体が目的になっている。
一見もっともらしいことを言っているようだけど、この言葉は全くナンセンスだ。

こういう「お化けに憑りつかれている人」と議論すると、話がかみ合わないことが多いんだ。
「個別最適だとデータの連携ができないから、マーケティング活動に支障が出る」とか。
「個別最適だとシステム経費が高いから、標準化することで経費が下がる」とか。
彼らはこういう理屈を並び立てる。

でも、こういう理屈はその人の想像に過ぎず、全く根拠のない話だ。
だから、いろいろと質問すべきだね。
「マーケティング活動に、今どんな支障が出ているんですか?」
「現在、どれくらいのシステム経費がかかっているんですか?」
こんな単純な質問を繰り出すだけでも、彼らが根拠なくしゃべっていることを露呈できるよ。彼らは現状を知らないんだから。

複雑な現場のことを知らない人ほど、歯の浮くような抽象論でもっともらしいことを言う。自分で何度も発言するうちに、それが真実であるかのように自分で錯覚してしまっているケースもある。若手のコンサルタントとかに、とても多いケースだと思う。

現状可視化の作業効率

コンサルタントの話が出たので、その話を続けようか。コンサルタントのような人は、とにかく最初に現状可視化をしたがる。なぜだか分かるかな?

それは、コンサルタント自身が現状を知らないからなんだ。
実際の業務のやり方をどれくらい知っているかというと、現場の人が100知っているとすれば、コンサルタントが知っているのは1程度。実際の業務なんてほぼ知らない。
そこで、もっともらしい理屈をつけながら、現場の人に業務フローを書いてもらうんだ。業務フローが出来上がれば、それに対してケチをつけるのは簡単だからね。

部長:いやいや。そういう決めつけをするのはよくないよ。
この会社に来るまでは、コンサルファームにいたんだけどね。
現状を可視化すると、業務の問題点が見えてくるんだ。店舗ごとに業務フローを書くことで違いが見えるし、新しいシステムを作るときのインプットにもなる。基本をしっかり押さえていこうよ。

こんな感じだよね。可視化すると問題点が見えるとか、もっともらしい理屈をつける。
でも、現場は大迷惑だよね。自分たちが十分知っていることを、わざわざ業務フローに書き起こすのは本当に大きな手間。

寿司屋の大将に業務可視化をお願いできるのか

例えば、お寿司屋の板前さんに自分の業務を可視化してと頼んだら、まあ怒られるだろうね。魚を捌くときの手順をイチから書き起こすなんて、面倒でやってられない。

「手順が知りたいなら教えてやるから、横で見てな」て、言われるんじゃないかな。

コンサルタントは現場の人に業務フローを書かせることが多いんだけど、業務フローが必要なんだったら彼らが書くべきだと思う。もちろん、現場を見せてもらって、現場の人にいろんな話を教えてもらう必要ことは必要だけど、それだけの情報があればコンサルタント自身が業務フローを書けるはず。
だけど、コンサルタントはそういう泥仕事を避けて、周りの人に押し付けてしまう。

部長の中のお化け(※):
ふー、やばかった。業務フローを書くのは現場の仕事でしょ。こっちに押し付けられそうなところだったよ。我々はあくまで情報システム部なんだから、現場の仕事なんて知ってるわけないですよー。

※ スタンダリアンという標準化お化けが、情報システム部長に取り憑いているという設定です

これが、コンサルタントの本音だよね。こういう人が主導する業務改革やシステム導入では、爆発的に不毛な作業が増える。
何に使うかわからない業務フローをとりあえず作らされて、結局そのフローはほとんど活用されないとか。だから、コンサルタントが嫌いという人が多いんだろうね。
お化けが憑りついた部長も、まさにこういうスタイルを取っていた。コンサルタントだけじゃない。組織の中でも、こういう考え方を持っている人はとても多い。

業務フローを書くこと自体は、たしかに役に立つことも多い。
無駄に細かく業務フローを書き起こす必要はないけども、要点を押さえた形で業務フローをかけば、今後の改善点も見えるし、システムを導入するための前提にもなる。
だけど、この「要点を押さえる」というのが、とても難しいポイントなんだ。だから、業務フローを書いたこともない現場の人に、とにかくフローを書けと依頼するなんて愚の骨頂だね。

まずは、自分自身がいくつかの店舗を回って業務フローを書いてみるというところからスタートすべきだし、そういう標準的なサンプルを示したうえで各店舗の違いを業務フローに追加してもらうというやり方を取るべきだね。



上記文章は、著書「スタンダリアン:標準化お化け」からの一部抜粋です。


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