数値化の罠:知識不足の人ほど数値を求める
ビジネスの現場では、数値化することが頻繁に求められます。神経質で理論重視な人ほど、数字にこだわり、様々な物事を定量化することに血眼になります。しかし、数字を追い求めるほど、その数字は事実から乖離するのです。
数値化の弊害を喝破する本から、そのエッセンスを紹介します。
会話例から、悪い点を考えてみる
例えば、こんな風景を見たことがないでしょうか。
このケースの上司が、典型的な数値化教信者と言えるでしょう。
このような上司の下についてしまうと、部下は疲弊するばかりです。
ただ、上司に反論することも難しいでしょう。上司の主張も確かに正論なのです。組織を束ねる責任者としては、部下を適材適所にアサインすることは重要ですし、そのような判断をするためには、現場のファクト情報が不可欠だからです。
このように、数値化教は理論的な正しさを主張しやすいというのが特徴です。
数値化を主張している本人は、数値化が組織にとって重要と信じていますし、数値化せずに曖昧にごまかす部下を指導することが自分の役割だとすら考えています。
数値化の必要性についてはいくらでも正論を吐くことができるので、この上司を論破できるような部下はなかなかいないでしょう。
数値化教は否定されにくいので、どんどんと信者を増やして現場に増殖していきます。
もし、社長が数値化教信者であれば、副社長も、専務も、事業部長も、・・・という形で数値化教が全社にはびこります。幹部が求めることに対して、部下が正面から「そのような情報は必要性が低いので、もっと本質的な作業に注力しましょう」と訴えたとしても、聞き入れられることはないでしょう。
では、良い例は?
先ほどの会話で、何が問題だったのでしょうか。
その理由を考えるために、同様の例で別の上司の対応方法を見てみましょう。
例1との違いは明らかです。それは、上司自身が現場の状況をよく把握しているということです。
例2の上司は、部下から報告されなくても、昨日に事故調対応があったこと、普段も社内対応やメディア対応が大変であることを熟知して、自らが先にそのことを伝えています。
普段から現場状況を把握しているからこそ、応援要請に対しても、現状リソースのバランスを考えながらも、適材適所の案を瞬時に提案することができたのです。
それに、このような良い上司の発言は固有名詞が多くなります。井上さん、竹本さん、野村先生といった個人名が立て板に水で出てきます。非常に細かなポイントではありますが、現場を熟知しているからこそ、発言の1つ1つにディテールが加わるのです。
例1の上司は、普段の状況を把握していませんでした。だからこそ、部下から報告を受けても状況を肌感覚で理解できず、数値化することを含めて様々な資料を作成することを要求していたのです。
また、このような上司の発言は、固有名詞が少なく、抽象的な表現が多くなるのが特徴です。
「実態が良く分からない」、「ファクトベースで教えて」、「実績で知りたい」、「現状を正しく整理して」、・・・。
この上司の発言は、どんな組織、どんな状況でも成立するような一般的な言葉ばかりが並んでいます。つまり、要員アサイン問題という目の前の問題を解決するための具体的な提案になっていないということです。
このように数値化教信者は、自らの能力不足、知識不足を隠す煙幕として、数値化を求めるという傾向があります。
自分が日常の情報収集や部下とのコミュニケーションを怠っているから、個々の問題に対して機敏に対応することができないのです。しかし、それを真正面から認めるわけにもいきません。そこで編み出された小賢しいテクニックが、質問や指摘という体裁を取りながら自分を納得させるための論拠を部下に作成させるという技なのです。
上記文章は、著書「数値化の罠:低成長の真犯人」からの一部抜粋です。
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