終末の過ごし方3

 ラジオ局の人間とテレビ局の人間とはそれほど接点はない。というのを彼の友人はあまりよくわかっていないのかもしれない。それでも彼は深夜のファミレスで、前に友人からされた提案のことを考えていた。
 彼がいるのは窓際の席で、大通りに面しており、たまにガラス越しの車の音が聞こえる。その少し遠い車の音の感触を、なにより愛しているらしいことを、彼はおぼろげに気づき始めていた。メインの仕事でやっている深夜ラジオが終わったあとのこの時間、思い出したように聞こえる、静寂をわずかに乱す遠い車の音が良いのだ。
 もう早朝に近い。いずれやってくる「そのとき」もこんな時間なのだそうだ。恐れている人も待ちわびている人もいる。彼自身は自分がどう思っているのかわからずにいる。どう思えばいいのか……もしかしたらそんなふうに感じている人間が一番多いのかもしれない。
 彼は冷めかけたコーヒーを飲み干し、気の良いマスターにコーヒーのお替りを頼むところを想像しながら、立ち上がってドリンクバーへと向かった。ボタン一つでこぽこぽとコーヒーを注ぎ、席に戻って窓の外を眺めながら湯気を立てる黒い液体に息を吹きかける。
 ラジオ局の人間とテレビ局の人間とはそれほど接点はない。とはいえ、まったくないというわけではない。長くやっていると、多少なりともツテはできるものだ。彼は友人の提案を再度考える。
 バカみたいな提案。深夜に「天空の城ラピュタ」をテレビで流そうという。「そのとき」の少し前にクライマックスシーンがくるように。シータとパズーが手に手を取り合って滅びの呪文を唱えるあのシーンがくるように。
 バカじゃないかとつい苦笑する。ただ想像すると面白そうだとも思う。twitterやいろんなところでその滅びの呪文が並ぶのだ。きっと壮観だろう。ひどい話だ。企画を出しても通るはずがないと思いつつも、彼はテレビ局に勤める知り合いの顔を思い浮かべていた。
 静寂をわずかに乱す遠い音が聞こえ、それに紛れさせるように、彼はぽつりと小さく呟いた。たった三文字の、誰もが知っているその呪文を。


#終末の過ごし方

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