終末の過ごし方2
老夫婦はそのことを新聞で知った。お互いに顔を見合わせて、何とも言えない表情で、しかし「老い先短いしな」などの言葉で気持ちに折り合いをつけたのだった。
その朝、彼はいつものように食卓で新聞を広げていた。新聞を取っていない家も多いと聞く。老眼で文字が追いにくくなっていた彼も、このまま新聞を取り続けるかどうかを迷っていたところだ。
ルーペを使って文字を拡大しながら、彼は他のことを気にかけていていた。長年連れ添った妻のことだ。どことなくそわそわして、彼の見ていないところで(実際には気づいているのだが)ため息をつくことが多くなった。やはり不安に思うところがあったりするのだろうか。彼自身にそういった気持ちがないとは言えない。どうにか気を紛れさせることができたらと、彼も息をついたりする。
洗い物を終えた妻が、何か決意を固めたような顔で彼のそばにやってくる。彼は一瞬、そばにきた妻のことを気づかないふりをしようか考えたものの、思い直して新聞をテーブルに置き、自分を見つめてくる馴染み深い目を見つめ返した。
「旅行に行きませんか、おじいさん」
一度静かな深呼吸したあと、発せられた言葉がそれだった。
彼は妻との馴れ初めを思い出す。最初に就職した会社の同僚だった。お城巡りが趣味だというのを、人づてに聞いたのがきっかけだ。ここしばらくどこにも旅行に行ってなかったことに彼は気づく。
「どこいきたい?」
彼はほっと笑みを浮かべながらそう聞いた。妻もほっとした様子で、彦根にいきたいとの旨を告げた。「ひこにゃんに会いたいんです」と照れくさそうに。
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