終末の過ごし方1
肉じゃがを作る。台所の窓からオレンジに染まりかけた日が差し込んでいる。ジャガイモ人参牛肉糸こんにゃく。出汁醤油と味醂とお酒と砂糖と。キヌサヤがあればよかったのだけれど、あいにくと買ってくるのを忘れた。
点けっぱなしのテレビが、今がどういう状況なのかを伝えている。台風のときのレポーターを思わせる様子だけれど、雨合羽は着ていない。煽るような焦らせるような言葉が響く中で、でもわたしは妙に落ち着いた気持ちでいる。それはわたしだけでなく、わりと多くの人がそうであるような気がした。
一人分なので、肉じゃがは小鍋で作る。誰かと一緒に食べたい気持ちもあるけれど、タイミングが悪くて、まあしょうがない。
こつん、と何かが踵にぶつかって、わたしは足元に目を落とす。丸い機械がいた。ルンバだ。お掃除ロボット。子猫はのってない。甘えるように足元をうろちょろする。ガーッという、それなりにうるさく、それなりに静かな音が、意識しはじめると耳に入る。
「そう、君がいたね」
身体を折り曲げて、そっと指先でルンバに触れた。お掃除ロボットは自分の機能にしたがって、指先から逃げていく。ガーッと台所の床を滑っていく。わたしは子猫が逃げてくのを見送るような気分で、その丸くてかわいい機械を目で追った。
君は食事を取れないけれど、食事のときに一緒にいてくれないかな。それなりにうるさく、それなりに静かに、ガーッとやってくれてたら嬉しい。
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