花橘
初夏
木漏れ日が一段と美しくなる季節
久しぶりに楽しむ一人の休日
帰り道
お気に入りのショップのショーウィンドウを覗いてみる
新作のイヤリングに見とれていたら
ふっと小さく風が吹いた
慌てて振り返る
振り向く先には誰もいない
ただ五月の光る日差しと
人が行き交う光景があるだけ
なんだ、と思う気持ちと
ちょっと悔しいような気持ちと
振り返ったスピードに
自分でも驚いてしまって
思わず困った笑みがこぼれた
もう一度
そっと風の行き先を見つめる
あの香りが連れてきた
あなたの面影
懐かしいその香りは
人混みの中にやわらかく霞んで
あたたかい切なさと温もりを残して
ゆっくりと優しく消えた
五月待つ花橘の香をかげば
昔の人の袖の香ぞする