【読書】獄門島
かつて流刑にあった罪人の子孫が住む島「獄門島」に、ニューギニアで終戦をむかえた探偵がやってくる。
有名ですがシリーズ初体験。横溝正史の金田一耕助シリーズ「獄門島」。
いま、名探偵と入力したら予測変換で「コナン」と「少年の事件簿」のほうが上だった。孫よ。有名になったのう。
金田一耕助には、若いハツラツとしたイメージがないけど、名探偵として難事件を解決したあと、兵隊になってニューギニアで生活していた。この時点でちょっと驚く。フィクションの名探偵が戦争にとられていたこと。それが当たり前なことに。
その金田一が、戦友の遺言「自分が死んだら、妹たちも殺される」…を受け取り、彼の妹たちが住む獄門島にやってくる。
一見常識のあるように見える和尚さんが丁寧に応対してくれるが、獄門島の島民たちは狂った倫理観で貫かれているのがじょじょにわかってくる。
漁師たちをまとめる権力者の一族がいて、跡継ぎになる男が戦争で死んだら、妹たちも殺そうと狙う、違った一族と対立している。よそ者をこばむ閉鎖的な島は、ふたつの権力で二分しており、戦争で一方の跡継ぎが死にたえることを望む者がいる。
遺言のとおりに、死んだ戦友の妹たちが奇怪な殺されかたをする。ひとり、殺されたあとに「釣り鐘」の中に入れられた状態で見つかるのだが、その姿に島民がぼそっと俳句をよむ。
殺された姿を見て、その姿を句になぞらえる島民。
21世紀の読者は、これを一種のダークファンタジーのように読めるけど、
獄門島の初版は昭和46年。当時の読者は、どれくらいのリアリティを感じていたのかが気になる。
ぼくらはホラー映画やゲームで、ホラーに対する耐性ができている。
柔道の「受け身」を教わるように、スプラッタ映画は笑っていいとか、残酷な殺人は想像しすぎないようにするとか、「ホラーの受け身」を習得している。
獄門島の陰惨な事件も
「あ!これが金田一一族が何度もでくわす、やたら凝った殺人!」
と、怖さの中にちょっと面白みを感じたけど、リアルタイムの読者はどう読んでいたんだろう。
戦争という狂気を体験した人から見れば、連続殺人の動機もも、狂気が漂う因習の島の実在感も、今とは段違いだっただろう。
今読んでも、大掛かりなトリックはともかく、殺人に隠された犯人なりの美学に震えるし、読み返すと冒頭のなにげない会話に隠された意味に気づき、ああ、この時点で始まっていたんだ、と二度震える。十分通用する面白さでした。
視点を変えればコメディになる犯人視点のスピンオフ。その昔、犯人になって完全犯罪を目指すゲームもあった。