M-1グランプリは、笑いの量できまる大会ではありません! 観戦前に抑えておきたい「錦鯉」長谷川まさのりがポセイドンになる動画
審査員、客、芸人それぞれの「面白いと思うもの」の価値観のぶつけあい
海の神、ポセイドンが人々の前に姿を現すぞ。
正確には、水あかだらけの汚い風呂からザパーン!と穴の開いた服で出てきて、空き缶を握りしめて「たいせつな海にゴミをすてやがって・・・」と言ってる、自称神様が地上波に映っちゃうよ!
M-1グランプリ2020がオンエア間近だ。
話題になっているのは、歴代最年長の長谷川まさのりがボケの「錦鯉」
この人のキャラをおさえておくと、M-1に興味がない人の観戦ガイドとしても最適。と思ったけど、どれも冒頭で尿のきれが悪い話とかをはじめてしまうので申し訳ない。
長谷川まさのりさんは、売れない49歳の芸人です。毎日ギャグを考えてネットに上げるなどの訓練をしてきた。最後のほうは苦しくなって
「8年ぶりに♪ 靴買った♪」
と、自分のさんざんな生活をリズムに乗せて言い出していたが、そういうギャグの訓練をしてきた。
有名になったら、道行く小学生とかにバカにされる姿がうかぶ。
芸人の高学歴化が進む中、純度100%のバカを貫く49歳。
家に残していたからあげをネズミに食べられて悔しかったので、布団に入ってからも「ニャ~~」と鳴きまねをして天井裏にいるネズミをおどろかせながら寝た。昔ばなしみたいな生活を送っている。
そんな人が、尊敬するハリウッドザコシショウに「何か面白い映像を撮ってこい」と言われて、撮ってきたのが風呂からゴミを持って浮上して、海を汚した人間に怒る神のコントだ。
誰も見てないようなこの動画に対しても、つねに全力。
海にゴミを捨てる人間に怒る、海の神ポセイドンです(11分から)
自分の左右に暖房と扇風機を置いて、
「ワシは、暑さと寒さの狭間にいる、じいさんじゃ・・・」
というのもある。
(11分前ごろから)
2014年は、お風呂場でマジックができそうでできない。
第七世代と呼ばれる、どこか知的な今のお笑いの流れには全然乗ってない。
けど、何年も前からこんなコメントがある。
売れないとは思うけど、まさのりさん頑張ってほしい
ザコシ軍団の中でまさのりさんが一番ポップだからうれる
2020年からは千鳥、爆笑問題らにはまってゲストで呼ばれるうちに知名度があがって、今年のM-1予選では、出てきた時点で「ホームの空気」が出来上がっていたらしい。
決勝進出者の発表のとき、錦鯉の名前が出ると、彼に負かされた若い芸人までもいっしょに喜んだ。
お笑いしかできない人。それ以外できない人が人生の一発逆転を成し遂げる瞬間が見てみたいのだ。みんな。
M-1グランプリというか、お笑いに興味ないけど、小説や「ことば」に興味ある人にこの記事を読んでほしい。
M-1というのは小説の新人賞。芥川賞に似ているところがあって、おもしろさの量を競うだけじゃない。自分の世界を持っている人。新しい感性の持ち主を発掘する大会でもある。
この大会に出たひとが、ラジオやネットにどんどん出て、日本人の「ことば」の感覚を変えていく。
今年のM-1グランプリは、勢いのある第七世代の大会だと思われていたが、最年長の古き良きバカ丸出し漫才の人が乱入してきた、という構図。
「新しい感性のひと」VS「めげずに続けてきたひと」。
短く言うと「若手」VS「ベテラン」。
顔ぶれを見るとフレッシュさが顔に出ているコンビと、しつこさが顔に出ているコンビに分かれる。
あとは、錦鯉みたいな人を審査員はどう評価するか。ギャグを言ってツッコミが頭を叩く(今の漫才はあんまり頭叩かない)49歳までこれをしてきたこと自体を面白いと思うか、古いスタイルのものを評価しないのか。審査員の価値観にまかされる。
マヂカルラブリーという、芸人でありながらゲームのプログラミングまでやる人や、単独で活動していて、芸歴が長くて「R-1グランプリ」に出場権利がなくなった「おいでやすこが」という人もいます。評価に困るシュールなネタを大物芸人がどうジャッジするかも密かな見どころといえます。「オズワルド」さんらもnote書いてます。
お笑いに興味のなかった皆さんは、お笑い番組じゃない見方で見てみてください。日本の芸人は、どんな言葉や題材をどう喋れば面白いと思っているのかを考えて、秒単位まで計算して磨きこんだ「ネタ」を作る。
ここまでネタが緻密なのは、芸人の数とオーディションの短さが生んだ、日本のお笑い文化特有の現象だそうです。その難しさを少しだけ想像して、審査員、客、芸人それぞれの「面白いと思うもの」の価値観のぶつけあいをお楽しみください。