#私を構成する5つの島本和彦
逆境ナイン
試合のたびに絶対的逆境に陥り、そのたびに立ちあがる野球部のマンガ。
最初から廃部。試合直前に寝ているところを踏まれて、きき腕を脱臼。チームメイトが全員用事とケガで離脱。
たたられてるかのように不幸続きの野球部だが、そのどん底から、ブラックというか、色で現すことができない地獄の練習量と精神論で突破する。
「それはそれ これはこれ!」
の大ゴマが有名だが、このセリフが出た経緯が凄い。
お互いに絶対負けられない、廃部寸前の野球部同士の試合。
正々堂々と、悔いのない勝負をするつもりだったのに、相手校に弁当を差し入れしたら、その弁当が痛んでいて、相手チームが全員体調不良になってしまう。
あまりにも卑劣ではないか。こんな勝ちかたでいいのだろうか。
試合中にかかわらず表情がくもる主人公に、顧問の先生(野球は門外漢)がやってきて
必死で努力していた相手チームに腐った弁当くわせて、ボロボロにした上に試合でトドメをさす。スポーツ漫画としては狂った展開で笑う。
その後、100点差をつけられて主人公以外全員病院送りになってから逆転までのクライマックス。ギャグなのか真剣なのかわからない異常なテンションで駆け抜ける怪作。
燃えるV
人生においてあらゆる勝負で負けたことのない少年が、最後までずっと負けないテニス漫画。
最初の相手が日本ランキングの実力者だが、テニスは試合中にボールを相手に当てても反則にならないと聞いて、顔面にボールをぶつけて試合続行不可能になってなんか勝ったことになる。
テニスのスコア計算が15点ごとじゃないことが理解できずに監督と殴り合いが始まったリ、当たり付き自動販売機と戦って「あたり」を出して勝つ。勝利とは何なのか、テニスとは何なのか。
炎のニンジャマン
「忍者の部活」を立ち上げて、ライバル校の忍者たちと戦う話だった。今読み返して確認した。
なぜ話の内容を忘れていたかというと、途中に出てくるライバル忍者が使う手裏剣のインパクトが強くて、読んだ人みんな、それしか記憶に残らないのだ。
敵が手裏剣を投げてくる!
連続で投げくる!
とどめに大きい手裏剣が飛んできた!
と思いきや本人!
これが忍法カラダ手裏剣である。
自分も手裏剣っぽくなって飛んでくる忍法なのだが、要するに体当たりだから、飛び道具に対しては絶望的に相性が悪くて、全く役に立たずに終わってしまう。
この後、カラダ手裏剣を使うまでの修行の回想シーンに入ったりするので、この技ばっかり記憶に残ってしまい、読んだ後はどんな筋書きだったかほとんど覚えていない。これ自体が忍法・記憶消去みたいだ。
炎の転校生
全国の高校を転校し、その先々で悪の教育委員会の手先となった教師らと戦う少年、滝沢昇。
単に戦うだけでなく、学校ごとに違う部とスポーツで勝負する。
血と汗にまみれてボクシング対決やサッカー対決、時間無制限にしたら翌日になっても終わらなかったバレー対決、本人たちは命がけの「叩いてかぶってじゃんけんぽん対決」。
週刊誌連載ならではの、舞台と競技を次々変える強烈な「引き」でぐいぐい読ませる。
なんでもない一言で相手が戦う意欲をなくしたり、勝敗がうやむやになったり、熱血ヒーロー系のマンガと思わせてギャグで読者をかく乱する。
スポーツ漫画でよくある、
「ボールを投げてキャッチするまでの、実際には1秒ほどしかないはずの時間内に会話をする」シーンをいち早くギャグにして、話の途中にボールが通り過ぎてたり、
必殺技をあみだしても、技の名前を叫ばないと出せないので、長い名前にしすぎて出す前にやられるとか、熱血学園マンガっぽいタッチで熱血マンガのお約束を笑う。島本和彦初期の代表作。
20年以上たってから、ジャニーズ主演で続編ドラマがNETFLIXで配信されたが、島本作品は実写化されたり、キャラデザインを引き受けたゲームの多くが不評なのが興味深い。
作品に音が入ったり実写に置き換わると、とたんに島本ワールドは成立しなくなってしまう。
アオイホノオ
エナジードリンクを始めて飲んだとき「何味だろう」と戸惑った日を覚えているだろうか。
アオイホノオには、人生初のポカリスエットを「何味だろう」と戸惑うシーンがある。
80年代初頭、漫画家志望の学生だったころの作者をモデルにした青年が主人公の青春マンガ。
島本和彦の集大成的な作品で、自伝マンガをベースに、実在する大御所漫画家いじりや、学生時代に出会って今も親友の庵野秀明との嫉妬と友情、80年代アイテムやアニメ好きにはたまらない資料的な面白さ、当時のアニメ好きの生態を熱く描き込み、架空のエピソードも面白ければオーケーとばかりにガンガンにぶち込む。
これ以前にも島本自身をモデルにした漫画家が主人公の作品を描いていて、「うしおととら」の藤田氏に愛あるディスりをかましていたが、アオイホノオでは大物いじりを、内輪受けから一段アップデートした。
あだち充や高橋留美子を読んで
「理解してやろう」
と上から目線で評価する。
大御所への暴言で笑いをとるだけでなく、こういうところに読者が自分を重ね合わせることができる。
こいつは、俺だ。
大勢の前で発言したこともないのに有名人のあげあしを取り、アマゾンで辛口レビュアーきどりで星を付けて人様の作品を「斬った」気になっていた、どうしようもなく恥ずかしい、だが愛おしい俺だ。
自分には才能があると思い込んでいたのに、本当に才能があって努力もしている奴と出会ってしまった絶望でもがく青年。
狭い部屋で汗だくになって動き出す彼の姿に、「作る側」にあこがれたことのある読者は、まだ胸の中でくすぶっている炎がることに気付くだろう。
他の作品では、走り続ける主人公を読者が応援する立場だったが、
今作の主人公ホノオは、作者自身でありながら、読者が自分を重ねる「鏡」でもある。現在連載中。
以上5作。ガキのころは古本屋を自転車で走り回って、全巻そろうのに何年もかかったものもあります。今はかんたんに読めますよ。ぜひ。