ダンスワークショップ参加
私の街になかなか素敵なPLATという劇場があって、そこではアーティストの支援をする「ダンス・レジデンス」というものを行っている。
『国内外で活躍するアーティストに新しい作品創造のための稽古場と滞在場所を提供し、アーティストへの支援・育成をおこなうとともに、ワークショップ・試演会等を開催し、市民とアーティストの交流の機会を設け、舞踊や身体表現を身近に体験していただくプログラム』
というもので、2017年より開始しているらしい。
・・・全然知りませんでした。
にわかにこの街が誇らしく思えてきた!
いや、最近駅前はめちゃ開発が進んでて、子育てしたい街の全国ランキング3位にも選ばれて、見直してきたところだったんだけどね。
勝手にいまさら誇らしく思われても、街からしたら「しらんがな」であろうが、一般市民はそんなもんである。
要するに、ダンス・レジデンスに参加するアーティスト達は、市から支援を受ける代わりに、一般市民に向けて練習を見学する機会を設けてくれたり、ワークショップを開いたりしてくれているらしいのだ。
ジムで一緒にダンスをしている友達に、2日間のそのワークショップに参加しないかと誘われた。
今回主催するのはローザンヌバレーコンクールで賞を取るような国際的ダンサーの小尻健太さん。
当然ワークショップの内容はダンスである。
募集要項に、ダンス経験のない人でもOKとある。
しかし定員は15人。
その大事なひと枠を、私のような中途半端なただのダンス好きのおばさんが使ってしまっていいのかな・・
はじめはあまりの無謀さに辞退しようと思った。
でも無謀レベルは誘ってくれたその友達も一緒。
恥も一人でかくのではなく誰かと一緒だと思うと気が大きくなるものだ。
よく考えれば残りの人生も20%か30%ほどである。
「経験する>>>恥かかない」と思い直し腹を決めて応募した。
ちなみに、ジムで私たちにダンスを教えてくれている先生にも声をかけ、3人で応募したので心強さだけは堅牢だ。
ワークショップ当日。
私たち3人を含め、定員15名分のすべての人が参加していた。
はじめは自己紹介。
15人の自己紹介が終わってみると、1時間が経っていた。
なんという皆さんの熱量!
3分の2ほどの人はダンス経験者のようである。
さらにはみんな若い。
なかには、関東からこのためにやってきた、アメリカへバレー留学する予定の15歳の少年もいたりした。
立ち上がって(自己紹介で座りっぱなしでお尻が痛かった)、やっと体を動かしはじめると思うとワクワクした。
*
いろんなことをしたので全部は覚えていないが、
二人組になって互いの動きを鏡のように真似る
ようなこともした。
体の部位である頭や肩や肘やどこかを主体として、空間に絵を描くように、前後左右に泳がせる。
正面に立つ人は鏡のように、同じ部位を使って描かれた軌跡を自分の体で追う。
必死でお尻をクネらせている私の隣では、身体能力の高く柔軟な若者が、肩を床につけたり次の瞬間には高く伸び上がったりしている様子が視界に入って来るが、気にしてはいけない。
体のどこか一箇所のパーツを使っているつもりでも、動いているうちに肩だか肘だかだんだん自分でも曖昧になっていたりすることもあった。
*
次のミッションは、
バッハの緩やかな調べに合わせてコンテンポラリーダンスの振りを覚える
クラシック音楽に合わせて踊るなんて初めての経験だ。
いつもポップスやR&Bやジャズや、とにかく一定のリズムが刻まれる音楽でしか体を動かしたことがなかったのだ。
振りが全く頭に入らないっ!
私のリズム感のせいなのか?
クラシックで踊る授業がなかった、日本の義務教育のせいなのか?
単に海馬が小さいせいなのか?
クラシックって小節ごとに速さが違うー!
美しいクラシック音楽に、理不尽な責任転嫁までしてしまう。
しかし、そもそもこのワークショップは、正確に覚えたりキレイに踊ることが目的ではなさそうだ。
小尻さんが時折くれるアドバイスにヒントがたくさんあった。
・・視界に入った隣の人の動きに影響されて動いてもいいし・・
・・・相手の動きの始動を感じ取って・・
・・オーケストラの始まりの音に瞬時に反応・・
・・・・正面を向いていなくてもいい・・
定義もルールも正解もなくて、大切なのはもっと感覚的なものなんだな。でもそれが一番難しい。
思えば、見本があるものに対していかにそれに近づけるかの訓練を、私たちはなんども繰り返してきた。
義務教育ではとくに。
その習慣は、自由になってからも基幹プログラムのように作動して、見本の形からはみ出すことに躊躇いや恥ずかしさを感じるようになってしまっている気がする。
これで合ってるのかな
つい、こう考えてしまう。
ぼんやりそんなことを思いながら、でも大事なことをつかめていない気がするまま1日目は終了した。
そうそう、振りも覚えなくちゃ。
2日目
数人の参加者が入れ替わったため、もういちど簡単な自己紹介。
振りの覚えかたについての質問があったため、小尻さんと佐藤さん(もう一人のプロダンサー)をはじめとして、ダンス経験者の人たちがどうやって振りを覚えるかを含めての自己紹介。
半分以上の人は覚えることに苦労をしているらしく、意外であった。
2日目ということもあって、みんなもリラックスした雰囲気だ。
一緒に応募した私たちのダンスの先生はハーフで、少し日本語が苦手である。そして40代だが、もうお孫さんがいる。
「ずっと教えるばかりで、教えられることがなかった。だから振りを覚えるのはホント難しい。私、おばあちゃんだから」と言って、爆笑をさらっていた。
*
いよいよ体を動かす。
いろいろやって全部は覚えてはいないが・・(毎度だな)
間合いを保って相手の歩きに着いていく
ということをした。
二人一組になって、ひとりが自由な軌道で自由な早さで歩き回る。
もうひとりは、前でも横でもどの位置からでも構わないので、間隔をキープしつつ着いていく。
これは、相手の動きを敏感に感じ取って自分の動作に落とし込む感覚を体験するためなのかもしれない。
次は、それを向かい合って鏡のようにやってみる。
相手が前へ動けば、こちらは後ろへ下がり、横へ動けば同じように動く。
さきほどよりも、相手の始動と停止のタイミングを感じ取るために集中する必要がある。
逆に、相手にこちらの始動と停止を感じてもらうには、はっきりとした意思によって、具体的な動きをしなければならない。
ここで、ひとりの参加者の人がとても素晴らしい気づきを発表してくれた。
『コンテンポラリーダンスって、とても抽象的な世界観だと思っていましたが、実はひとつひとつの動作はとても具体的で、明確に意図した、強い意思によるもので組み立てられているのですね。』
そのような内容であったと記憶している。(自信はない)
そうなのか!
全体的にはふんわりやさしい抽象派なのに、解像度を高くして観察すれば一粒ずつの色がハッキリしている点描画のスーラの絵画ような、、、
まろやかな味なのに、選び抜かれた調味料が計算された分量で配合されている極上のお料理のような、、、
私も「抽象的」というイメージにひっぱられていて、伝えたいことにフォーカスしていなかったかもしれない。
作品として抽象的にみえたとしても、
ひとつひとつの要素はすべて「具体的」なもの
なのである。
*
1日目にやった、
二人組になって互いの動きを鏡のように真似る
の難しいバージョンをやる。
相手の使う体の部位とは違う部位を使うのだ。
私はつい先ほど覚えたばかりの、明確な意思を持って具体的な動きをするということを心がけた。
肩や肘はわりと楽に軌道を描けるが、膝やつま先でトライする人たちは、やはり身体能力が高そうである。
私は楽な肩で軌道をつくり、相手は頭だった。
そのとき、「いじわるをするようにじゃなくて」と小尻さんに言われてハッとした。
急に軌道を変えたりして、ついゲームをするような気持ちがあったかもしれないことに気づく。笑
*
後半、
バッハの曲でコンテンポラリーダンスを踊る
がやってきた!!
何回か復習のために全員で踊ってみたあと、人数をすこしずつ減らしていくようだ。
会場のライティングを変え、まるで舞台の上のような雰囲気。
" 4人ずつやってみましょうか "
えー!?(心の声)
見本のムービーを20回くらい観て、それでも完全には覚えられなかった私。
技術も感性も人それぞれ。
小尻さんと佐藤さんが踊ってくれた見本はあるものの、そこに足したり引いたり自分なりのアレンジを加えて、自分なりのアウトプットをすればよろしいのです。
ということは今までの流れで十分理解はしているけれど、やっぱり自分なりの満足のいく踊りにはしたいなー
私の番。
曲がはじまり、動作のない2小節のあいだ。
じっと目を閉じて、このワークショップに参加できたこと、こんなライティングの中で踊らせてもらえること、いろんなことに感謝して、ここにいる幸せをかみしめた。
私にとって、このワークショップで教えてもらったことは、抽象的で漠然としていて、めっちゃ芸術的だなーと思えることの連続で、かたい頭に染み入るにはもっと時間が必要だった。
そして、とても新鮮だった。
小尻さんが2日間のワークショップで私たちに伝えようとしていたことを、自分なりに解釈すると、
「教える側と教えられる側とか、見本や正解があるのではない。人と人が相互に影響しあったり、空間の中で捉えた視覚的なもの、空気の動き、音、そのすべてを感じて、自分の表現に変えてアウトプットすることが大事。」
そんなことだったのかもしれないなぁと感じている。
つけ加えるようで申し訳ないが、
芸術家はクセのある人が多いというイメージを持っていた。
小尻健太さんは、優しそうなプロフィール写真にもかかわらず・・・
じっさいはその10倍以上優しく、チャーミングで、素敵な人でした。
小尻さん、佐藤さん、音響と映像のスタッフの方々、PLATのディレクター、あの場所で出会った若いダンサーたち、気づきを与えてくれた人たち、誘ってくれた友人、ダンスの喜びを教えてくれた私の先生、
ありがとうございました。
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