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6月の夜

虫の声やカエルの大合唱が好きだ。

夜、水を張った田んぼのわきの農道を散歩するとき。
四方八方をカエルの声の大音量に包まれ、目を閉じてその声に体をゆだねる。

虫の鳴き声、鳥の声も混ざっていて、姿の見えない生き物たちの3Dオーケストラを、耳と肌とまぶたの裏で楽しむ。

昼間は人間の世界の片隅に存在しているかいないかすら分からない小さな生き物たちが、夜はその空間すべてを占領して、他の存在をはね返すがごとくエネルギーを放出している。

大合唱のように聴こえるが、個々には合唱しているつもりなどないのだろう。注意深く聴いていると、ひと息の長さもリズムもバラバラで、少しずつずれているフレーズ同士がまた新しいメロディーへとつながっていく。

夜の海で波の音を聞いていたことがある。生ぬるい風が心地よかった。打ちつける水の音をずっと聞いていたいという気持ちと、どこか不安な気持ちが混ざり合って、私はここにいてもいいんだろうかと誰かに聞いてみたくなった。

夜の水田で、私はここにいてもいいの?と誰かに聞いてみたくなる。でもそれは、この空間の中でただひとり、生死をかけた営みに参加していない私が勝手に感じる疎外感なのかもしれない。

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