棒コーヒーとは? 黄金の比率の「ミックスコーヒー」は韓国の国民的コーヒー(『愛の不時着』について#6)
ドラマ『愛の不時着』について、6回目です。
第2話で、リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)が上官から「“棒コーヒー”(막대기커피)を飲まないか?」とすすめられるシーンがあります。これは南朝鮮(韓国)の「ミックスコーヒー」。ほかにも北朝鮮では禁じられているはずの韓国製品が出てくる場面がありますが、ドラマとはいえ北朝鮮の人たちが同じものを手にしているのかもしれないと思うと、とても興味深かったです。
ドラマ『愛の不時着』からのキャプチャー画面
自分が身柄を確保した盗掘者の死亡事故を不審に思ったジョンヒョクが、実は事故に関わっている保衛部(北朝鮮の秘密警察)のチョ・チョルガン少佐に調査の許可を願い出るという、物騒な気配を感じさせるシーンです。大佐と少佐は満足そうにコーヒーを飲んでいますが、彼らのすすめをジョンヒョクはためらいもなく断ります。
一方、第4話では、ジョンヒョクはソウルを恋しがるセリ(ソン・イェジン)のために市場で手に入れたコーヒー豆を朝から焙煎して挽き、留学時代に使ったドリップ器具を引っ張り出してていねいにコーヒーを淹れてあげていたのが、彼の心情も対比できて面白かったです。コーヒーの香りで目覚めるセリは幸せですね。
韓国では甘くしたコーヒーが好まれ、昔から自分たちでインスタントコーヒー粉末に砂糖、クリームをバランスよくミックスして飲んでいたものです。やがて調合済みの「ミックスコーヒー」が自販機に登場し、さらにコーヒー、砂糖、クリーム粉末が黄金の比率でミックスされたインスタントコーヒー「ミックスコーヒー」が商品として発売されました。それが『愛の不時着』に登場した「棒コーヒー」です。個包装のスティックタイプで、カップに入れてお湯を注いで混ぜるだけと便利で、しかも大容量パックなので多くの職場や家庭で常備されるようになり、韓国のお土産としても人気です。
「棒コーヒー」スティックタイプのミックスコーヒー
もちろん今はコーヒー専門店やカフェが増え、ドリップコーヒーも手軽に飲めるようになり、またインスタントコーヒーの種類もたくさんありますが、それでもシンプルで懐かしい味のミックスコーヒーは国民コーヒーとして愛されています。
もうひとつ、ミックスコーヒーが印象的に登場するドラマを紹介します。2014年に放送された『ミセン-未生-(미생)』は、大手商社を舞台にしたヒューマンドラマで、会社での人間関係や雇用問題、さまざまなハラスメントなど現代の韓国社会をリアルに描いています。心に響く名言も多く、「ミセンシンドローム」と言われるほど社会的反響を呼びました。
ドラマ『ミセン-未生-(미생)
http://program.tving.com/tvn/misaeng より
「ミセン(未生)」とは囲碁用語で、生きても死んでもいない、どちらに転ぶかわからない弱い石のことを指し、反対語は生き返った石「完生」になります。ドラマの主人公は囲碁の天才ですが、プロ棋士への夢を絶たれて商社にコネ入社した、社会未経験の新入社員。未熟な自分たちが完生に向かって進んで行くという意味で使われています。
『ミセン』では、会社の休憩室で紙カップのコーヒーを飲んだり、上司のコーヒーを部下が作ったりするシーンが多く、そこに出てくるコーヒーは「ミックスコーヒー」です。中でも会社の屋上でコーヒーを飲むシーンがよく出てきます。屋上から眺めるソウル市内の景色はとても素敵です。働く人なら深く共感できる、人生訓がつまったドラマです。紙カップでミックスコーヒーを飲みながらドラマを見てみると、登場人物たちと屋上で一緒にいるような気持ちになれると思います。