美プラのレビュー 番外その1

美プラのレビュー 番外その1
素材ちゃん

さて、先日予告した通り、今回はちょっと寄り道をしまして、美プラとは括れない製品、HOBBY BASE(イエローサブマリン)の素材ちゃんのレビューになります。

いつもの基本データの確認に入る前に、なぜ美少女プラモではない素材ちゃんをこのシリーズで扱うのかについて、簡単に触れさせてください。


・美プラは布服着用に向かない?

さて、前回ぼくは「そもそも美少女プラモは布服を着用させるのに向かない」という旨の記述をしました。
理由はいくつかありますが、大きなものとしては耐久性の問題と、構造の問題が挙げられます。

まずは耐久性の問題からお話しします。
美プラの素材はABS樹脂やPS樹脂で、造りとしてはムクではなく比較的薄い層になっています。
そのため、完成済み可動フィギュアやドールのようなムクのパーツ、あるいはそれに近い造りをしている製品に比べてパーツ単位の耐久性が低いのが特徴です。

これは加工のしやすさというプラモデルの特徴でもあり、フィギュアやドールと比べて優劣をつけるものではありません。
また、フィギュアに比べてプラモは交換用のパーツを入手しやすいという特徴もあります。
単なる特徴の比較としてご理解ください。

で、なぜ耐久性の低さが布服に向かないという話と繋がるかと言うと、布服は基本的にはパーツに負荷をかけるものだからです。

例えば、長袖のシャツや長ズボンなどは、肘や膝の関節を覆う衣装です。
そのため、関節を曲げる際などに、構造的に弱い関節部分に負荷をかけてしまいます。
人間でも、ぴったりした衣装を着ると、動きにくかったり、手足を曲げにくかったり、そうした経験があるのではないでしょうか。
そのため、布服を着せた美プラの肘や膝などは、布地の負荷に負けて曲げにくいケースや、曲げておいたのに気づいたら布地のテンションに引っ張られてまっすぐになっていたというケースが往々にしてあります。
また、わずかとはいえ継続的に負荷を与えられた関節は、破損リスクが上がります。
これが、耐久性の低い美プラは布服には向かない、という理由です。

続いて、構造のお話。
美プラというものは、当たり前ですがプラモデルです。
そのため、関節部分は基本的にジョイントパーツで繋がっており、ネジやハトメを用いた完成済み可動フィギュアの構造とはその点が大きく違います。
これが布服着用時にどう違うかと言うと、衣装で隠れた関節が外れていることに気づけないリスクがある、ということになります。
久しぶりに布服着用の美プラを持ち上げたら、腕や脚が外れていて落下したというケースや、屋外に持ち出した際にケースから出したら手足が落下したというケースは、思いの他よくある話です。

また、美プラにはドールのようなフラットな素体と異なり、人体にはないディティールが施されている場合が往々にしてあります。
この、人体にない凹凸と言うのは布服着用の際にひっかけて布服を破損させたり、逆にパーツが破損したりする遠因にもなります。
この二点が、構造的に美プラは布服には向かない、という理由になります。

勿論、全てのキットがそうではないですし、運用やメンテナンスでカバーすることは充分に出来ます。
しかし、そうした労力を軽減する方法というのはあります。
「美プラの素体が布服着用に向かない」ならば「布服着用に向いている素体と挿げ替えればよい」という話です。

そして、今回レビューをする素材ちゃんは、その「布服着用に向いた素体」なのです。


・布服着用向きの素体、素材ちゃん

素材ちゃんの本体は、硬めのPVCのムクで構成されています。
そのため、肘や膝などの関節も、美プラの関節よりは負荷に強く、強度があります。
耐久性があるので、布服の負荷による破損リスクを下げられるのですね。
また、関節の外れやすさは美プラと大きくは違わないと思いますが、素材ちゃんはフラットな素体で、余計な凹凸がありません。
そのため、布服を着用した際のボディラインも人体と同じものが出ますし、引っかかるようなことも少ないと言えます。
加えて、素材ちゃんの関節はHOBBY BASEで扱っている汎用関節と同じものなので、万一関節が破損した場合は新しいものを用意するのも簡単です。
また、美プラによって首の接続ジョイントの大きさは異なりますが、素材ちゃんには複数の首軸用ボールジョイントが同梱されていますので、基本的にはひとつ買えばすぐに使うことが出来て、使い回すことも容易です。
これらの点が、布服着用素体として素材ちゃんが優秀であるという理由になります。


・基本的なデータ
さて、前置きが大変に長くなりましたが、例によって基本的なデータと簡単に評価項目を確認していきましょう。


ブランド名
素材ちゃん
(評価試験用にフレッシュMサイズを使用)

メーカー
HOBBY BASE(イエローサブマリン)

入手性(買いやすさ)

イエローサブマリンで容易に購入出来る上、関節パーツ破損の際も保守パーツのみを購入出来る。
(ヨドバシやAmazonなどの通販サイトでも購入可能)

拡張性(組み換えしやすさ)

同シリーズの色違いとも組み換えが出来る。

布服(布服着用のしやすさ)

小物(社外製品の小物との組み合わせやすさ)
○⁺
握り手くらいは付属していると嬉しかった。

価格(手に取りやすい価格帯か)

イエローサブマリンに行けば2000円程度で購入出来るし、家電量販店等でも取り扱いはある(若干価格は上がる)。
素体としては割安だが、追加パーツ扱いでしかないので、〇と評価。

組立てやすさ
○⁺
基本的には完成済みだが、首のジョイントは適したものを選ぶ必要があるし、軸の長さの調節は必要。

体形
S、M、Lの三種類
バストサイズやボディカラーも選択可能(ただしバストサイズは素体のサイズに準拠)。

可動
○⁻
前後屈が苦手なのは仕方ないとしても、肘や膝が90°程度しか曲がらないのは、フラットな素体としては少々物足りない。
ただ、布服着用前提として考えれば、可動域の確保より関節強度と見栄えを優先して二重関節の採用見送りは理解は出来る。

各部軸径

なお、S素体は12.5cm、M素体は13.5cm、L素体は14.5cm。

(2024.11.13 画像追加)

それではここから詳細に見ていきましょう。
とは言っても、布服着用素体として素材ちゃんが優れていることは既にお伝えしていますので、それ以外の内容をまとめていきたいと思います。

まずハンドパーツですが、グリップが2㎜と若干小さめです。
(パッケージの表記は3㎜となっていましたが、実測値は2㎜でした、これが個体差なのかどうかは未検証です)
ただ、素材は軟質なので多少太い物を持たせる場合でも追従してくれます。
また、手首ジョイントの掌側は軸径が2㎜なので、KOTOBUKIYAのキットやTOMYTECのリトルアーモリー用ハンドパーツなどは流用することが出来ます。
ハンドパーツの種類は少なめですが、もしどうしても、と言う場合は他のキットなどから流用することは容易に出来ます。

また、ボディサイズ(S、M、L)やカラー(フレッシュの他にホワイト肌と褐色肌)が豊富なのも素体としては優秀なポイントですし、手足の組み換えなども対応しています。
これは例えば、手足だけ褐色肌と入れ替えて部分日焼けのような使い方も出来るということですし、手足は長めの体形にしたいというような場合にも対応出来ます。
胸やパンツパーツも下着のディティールが入ったものとフラットな物を選択可能ですし、胸パーツは背中までを覆う構造なので、継ぎ目が少なく胸元が見える服装でも気にならないのは好印象です。

可動は多少の不満を感じますが、布服着用を前提にするならば、可動範囲を少なくしてテンションに負けないようにすることや、肘や膝の見栄えを優先して二重関節の採用を見送るのも充分に理解が出来ます。

欲を言えば胸パーツの大きさなども選択可能だともっと良かったのですが、これは体形の違う製品でもワンサイズのみ付属のようですし、体形SとLでも違いはよく分かりませんでした(Webの商品ページを見ただけ、未検証)。
また、異なるバストサイズのパーツを他のキットから流用するのは、構造上少々難しいかと思います。

また、布服着用素体として考えた場合のデメリットとしては、PVCのボディは黒や紺などの濃い色の染料を使った服を長期間着用していると、色移りが起きてしまう点です。
こればかりは各人で注意をして頂く他はありません。

総評としては、あくまでオプションパーツ的な存在ではあるものの、布服着用素体としては扱いやすく、入手性や整備性も高くて、ハンドパーツなどの拡張性も高い、非常に良い製品であると言えます。

ただ、あくまでオプションパーツでありこれ単体で完結する製品ではありません。
布服着用素体ということは、まず組み合わせるキットや着用させる布服が別に必要であるということですし、むしろそちらの価格の方が圧倒的に高くつくでしょう。
また、ハンドパーツなども充実させたいということであれば、さらにお財布は炎上します。
それを理解した上での購入であれば、非常に強くお勧めできます。

いかがでしたでしょうか。
繰り返しになりますが、今回の眼目は向き不向きであり、向いていない=出来ない、やってはいけない、ではありません。
しかしながら、知らずに荒れた道を進むのと、獣道であることを理解して進むのは全く違うものです。
この記事が、『美プラに興味はあるけど、何を買ったらいいか分からない』という方の手がかりになることを願うと共に、望まぬ不幸を避ける一助になれば、大変嬉しく思います。

(2024.11.15 色移りについての注意を追記)


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