一面型によるパーツ複製の方法
ⅩⅣ,パーツの複製。
ここまで、様々な要因で破損したパーツを見てきました。
どのような原因にせよ、破損してしまったパーツは本来ならば破損していないものと交換するのが最も手軽かつ確実な方法です。
しかしながら、旧MMS武装神姫は製品そのものが絶版で、現存数は減る一方であり、手軽に入手できる機会などもなく、価格も高騰する一方です。
よしんば中古なり未開封なりで入手したとしてもそれは既に十余年を経た品であり、経年劣化は免れ得ないものです。
運よく共食い整備に成功したとして、交換したパーツが明日また壊れないという保証は何ものにもできません。
そのため、最後の選択肢として自分の手でパーツを作り起こす、複製という手段をご紹介します。
ただし、これはあくまで非常の手段であり、個人利用の範囲に留めることを忘れないでください。
パーツの複製は、許可なく頒布(第三者への販売、譲渡)した瞬間に著作権に触れる行為です。
・複製とは。
複製とは元になるパーツ(原型)を使って型を取り、そこにパテやレジンを流し込むことで全く同じ形状のパーツを作る手法です。
模型の手法としては、左右で同じ形状のパーツなど、同じ形の部品を複数作るときに用いられてきました。
・複製の手法
複製にはいくつかの方法があります。
大きくざっくり分類すると、あまり準備などの必要がない反面複雑な形状のものを複製するときには不向きな一面型と、複雑な形でも複製ができる反面準備や作業の手間が増える二面型(あるいは三面型以上)に分けられます。
簡単に言うと、型の数で〇面型、という分類をします。
一面型なら型一枚で、片面のみの複製、二面型なら型は二枚で材料を挟み込むので両面の複製ができる、という感じです。
今回はまず、最初の一歩として一面型(片面複製)のやり方をご紹介します。
・必要なもの
一面型の複製に限らず、複製に必要なものは大きく分けて、複製を取るための元のパーツである原型、型を作るのに必要な資材である型材、複製パーツの材料になる複製材に分けられます。
ここでは簡単にですが、型材と複製材について触れておきます。
必要ない方は次の準備の項目まで読み飛ばしてください。
1,型材。
型を作るための材料は、型を取るときには柔らかく、複製を取るときには固くなるという性質が要求されます。
柔らかくなければ原型の細かな溝や形に入り込むことができず、そうした型で取った複製は歪みやモールドの不備などができてしまうためです。
一般的に型材として使われるのは、シリコンを使う場合が多いです。
硬化前のシリコンは粘性のある液体で、細かな細工にもしっかりと入り込んでくれる反面、硬化後は適度な弾力と硬さを持つので、複製作業にも適しています。
難点としては、シリコンを型材として使うためには型枠や計量用の秤など、それを使うための資材も必要になり、全部ひっくるめると1~2万円程度の金額になることでしょう(この時点では複製材の価格を考えていません、あくまでシリコン型を作るためだけに必要な金額と考えてください)。
一面型を作るだけならば、安価なおゆまるという製品が使われるのはそうした事情も関係しています。
おゆまるは熱湯に漬けると柔らかくなる樹脂粘土で、冷えると固さを取り戻します。
粘土なので液状と言えるほどにはならないため、細かなモールドや複雑な形状には不向きですが、簡単な形状の一面型ならば十分に使える性能です。
また、ダイソー等の100均でも取り扱われる程度には安価で入手できます。
どちらが優れているということはなく、特性を理解して好適な条件で素材を選んでやることが大事です。
2,複製材
二面型以上の場合はレジンを使うことが非常に多いです。
というのも、二面型の場合は型に挟み込んで成型するため、エポキシパテなどだと充填するのが難しく、また手間がかかるということが理由として挙げられます(できないわけではありません、念のため)。
レジンであれば硬化前は液状なので、組み上げた型に流し込んで硬化させるだけで出来るので、手間の点では大きく異なります。
一面型の場合、充填の手間がそれほどないためエポキシパテや光硬化レジンを複製材として使うことがあります。
模型用レジンは優秀な複製材ですが、使うまでに準備が必要だったり複製環境に気を使ったりと、手軽な素材ではありません。
また、販売されている分量も多く、少しだけ使うには不向きです。
これも、どちらが優れているとかではなく、自分の条件に合うのはどちらかを考えて選んでやるのがいいと思います。
今回は一面型ですので、型材にはおゆまる、複製材にはパテと光硬化レジンを使う方法を紹介します。
二面型の作成方法やシリコンとレジンでの複製については後述します。
・準備。
一面型は片面のみの形状を複製する方法です。
そのため、型のない側は平面になってしまいます。
今回は一面型で作れる、破損・紛失が起きそうなパーツということで、1st素体の腿スペーサーを例に挙げていきたいと思います。
おゆまるは100均のものを一つ買えば十分です。
パテは確実に余ってしまいますが、ぼくはタミヤの高密度エポキシパテを好んで使っています(使った材料は上にリンクがあります)。
この他には熱湯を取っておく容器や熱湯から取り出すための箸などが必要です(ぼくは例によって空き容器を使っています)。
また、型に複製材を充填する際にヘラや爪楊枝があると便利です。
ヘラは普通の粘土ベラを100均で見繕ってもいいですが、他にも使うことを考えるとタミヤの調色スティックが手軽でいいかもしれません。
もしシリコン複製を考えているのなら、スパチュラ(造形用のヘラ)のシンプルな形状のものを一本持っておくと便利です。
1,熱湯におゆまるを漬ける。
漬ける時間は1~2分で十分だと思いますが、画像のように塊にしてしまうと中心部分まで熱が通るのに時間がかかります。
保存するときはなるべく薄く延ばしておく方が次回使うときには便利です。
あるいは(これも手間ですが)適当な厚さにスライスするという方法もあるにはあります。
柔らかい状態ならば練り合わせてくっつけることも可能ですので、必要量だけ切り取ってしまっても大丈夫です。
2,パーツを押し付けて型を取る。
十分におゆまるが柔らかくなったら、パーツを押し付けて型を取ります。
この時、ただ上から押し付けるだけだと歪んでしまうので、今回は逆におゆまるを上から被せる形で押し付けました。
その際に単に上から押し付けるだけだとおゆまるとパーツの間に隙間が生じてしまったので、写真矢印のように周囲から中央に向けておゆまるを寄せてやる必要がありました。
3,冷めたら原型を取り出す。
熱が取れて、完全に固まったら型は完成です。
今回はレジン用とパテ用でふたつ作りました。
4,型に複製材を充填する。
パテやレジンを注型していきます。
レジンを注ぐ際に気泡ができてしまったら爪楊枝などで潰してやります。
また、パテは使用に際してゴムやポリなどの手袋を使うことが推奨されます。
素手だと、体質によっては手が荒れたりかぶれたりするので、注意です。
手袋にパテが食いついてしまって作業がしにくい、という場合にはワセリンやメンソレータムなどの軟膏をあらかじめ塗っておくとパテが付着しなくなります。
パテは主剤と硬化剤を捏ね合わせて作りますが、その時に少し余分に作るとちょっとだけ足りない!ということを防げます(大抵の場合ぴったりの量なんて作れません、概ね余ります)。
また、パテやレジンは硬化の際に若干体積が減る場合がありますので(ヒケ、といいます)、気持ち型より盛り上がってしまっている?くらいでいいと思います。
作業中、パテを置いておくと固まってしまうので、水を少量取っておいて、浸しておくとすぐに硬化しないので便利です。
また、スパチュラ等も湿らせるとパテがくっつきにくくなります。
メンソレータム等を用意してある場合は、スパチュラにも薄く塗ってやるといいでしょう。
十分パテが均一になったら、型の中に隙間なく詰めていきます。
型からはみ出した部分は硬化後に整形して調整します。
5,整形
タミヤの高密度パテはパッケージでは12時間ほどで硬化するとされていますが、ぼくは大体次の日まで放っておいて十分に乾燥時間をとるようにしています。
レジンの方は硬化促進ライトで1~2分で十分ですが、日なたに30分も置いておけば代用できます。
複製材が完全に硬化しているのを確認して、型から外します。
この時点では型からはみ出した部分(バリ)が残っています。
デザインナイフややすりを使って、慎重に取り除きましょう。
試着しても、問題なく付けられることが確認できました。
あとは外側がちょっと乱れていますが、やすりをかけて整えてやれば問題ないでしょう。
その際には脚から外してやらないとペイントに傷が入ってしまいますので、注意してください。
あまりやすりをかけすぎると足の外径より細くなってしまいますので、その点も注意が必要です。
また、この時点でナイフで切ることが可能な程度の硬さに硬化はしていますが、完全硬化には2~3日を置いた方が確実です。
やすりをかけるのは完全硬化を待ってからの方が作業もしやすいですし、失敗もしにくくなりますので、その点を考慮に入れて作業をしてください。
さて、この一面型の複製ですが、見て頂いた通り片面は完全な平面になってしまうため、武装神姫の保守パーツを作る技法としては、スペーサー以外にあまり使い道がありません。
ですので、次回は一面型より複雑な形を複製できる二面型での複製をご紹介します。
二面型を習得すれば、作れるパーツの幅は大きく広がります。
少々難易度は上がりますが、挑戦してみてください。