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色移りの予防と対策

ⅩⅩⅥ,色移りの予防と対策

さて、前回の記事で、塗装には塗膜を形成する顔料系の塗装と、パーツに染み込んで色を変える染料系の塗装がある、とご紹介しました。
今回はそれに関連して、意図せずパーツが染まってしまう、「色移り」についてお話しできたらと思います。
ご興味おありの方は、よろしくお付き合いください。

前回のnote

「色移り」って、なに?
前回のnoteでは染料を使ってパーツを染める方法をご紹介しました。
これと同じことが、意図せず起こってしまう現象を色移りと言います。

ご自身の洗濯などでも、色物と一緒に洗濯したら色が移ってしまった、ということがあると思いますが、それと原理は同じです。
要は、他の物に使われている染料が、パーツに移って変色してしまうことですね。

では、武装神姫において、色移りはどのような部位に、どうして起こってしまうのでしょうか。
それを順に見ていきたいと思います。

色移りの起こる部位
パーツの染色は、基本的にはABSやPSのような硬質パーツでも出来ます。
しかし、意図しない色移りというのは、基本的に軟質パーツに多く起こります。
材質で言うとPVC、特に塗膜の乗っていない、地が出ているパーツですね。
これは軟質パーツの中にある可塑剤が染料を媒介していると言われています。

上記の条件で見てみると、PVCの地が露出しているパーツは、フェイスパーツや1stの首パーツ。
あとは足首、手首のパーツ、そして3rdネイキッド素体用の胸パーツなどでしょうか。

髪などの頭部もPVCですが、こちらは塗膜が表面を保護しているので、色移りは起こりにくいでしょう(まったくない、ではありません、念の為)。
また、3rd素体の通常の胸部は塗装されているので、注意が必要なのはネイキッド、特にフレッシュ素体の胸パーツの方ですね。

画像ではうっすらとしか見えませんが、肉眼ではもう少しはっきり見えますし、痣のように見えてしまうため非常に見栄えは悪いです。
フェイスパーツなどに残ってしまうと染みのように見えてしまいますし、避けられるなら避けたい症状のひとつです。


色移りの原因
色移りは、染料系塗料がパーツに染み込むために起こります。
そのためには、パーツと染料を含む材質が接触している必要があります。

染料を含む色移りの原因は、ほとんどが布服です。
ドール趣味などを嗜まれる方はそうした被害報告も多く、ご存じの方も多いかと思いますが、色の濃い布服(黒、紺など)の服には、染料が多く残っている場合があります。
この、布地に残った染料が、PVCのパーツに長時間接触することで、染料がパーツに移ってしまうということですね。

色移りの対策
基本的には、色移りは長時間の接触が原因と言われています。
しかし、ドール界隈ではご存じの通り、濃い色の衣装は30分程度でも変色が見られた、という例もありますので、一概に長時間、と言っても目安のようなものはご提示できません。
それこそ、衣装・布地のメーカーや使われている染料によって、まちまちだと思います。

しかし、どのような形であれ染料を含む素材と接触することが色移りの原因であるのは間違いありません。

1.衣服との接触を避ける。
そこで、予防のためにはまず、直接の接触を避ける、という方法が挙げられます。

一番は、どんな衣装であれ、着せっぱなしにはしないというのが第一です。
特に色の濃い衣装は注意をするべきですし、靴下のようなワンポイントは油断をしがちですので、配慮する必要があります。

また、ドール界隈では、肌色に近い色のインナースーツを着せて色移りの対策をする、という方法もあるそうです。
武装神姫の場合、ボディ部分にインナースーツを用意するのは困難ですが、靴下や靴を履かせる際には、直接着用ではなく、ビニールや紙の袋を噛ませて保護する、というご提案は出来ます。
あるいは、マスキングテープを対象部位に巻いて直接の接触を避ける、と言うのも手段ではあります。

また、濃い色の衣装と合わせるときはネイキッドフレッシュの胸パーツを、塗装が入っている通常胸パーツに切り替える、というのも方法としてはあります。

ただし、いずれの場合も見栄えは損なう可能性はあります。
靴下に内袋を噛ませれば、どうしても分厚くもっさりした印象になりますし、胸部分を露出するような衣装と合わせるのに塗装の入った胸パーツでは目立ちます。

2.布地から染料を抜く。
接触を避けるという方法の他に、布地に残った染料を抜く、という方法もあります。
基本的にドール用の衣装は人間が着用するものではないため、布地に水を通すなどの処理が端折られている場合が往々にしてあります。
そのため、普通の衣服より多く染料が残っている状態で流通していることがあるのですね。

なので、実際に着用する前に一度水に晒してあげる、手洗いをしてあげるなどのように、余分な染料を抜く処理をしてあげると、色移りのリスクを減らせます(これも、水に通したから絶対色移りはしない、ではないです、念の為)。

しかし、ドールの衣装は何度も洗濯をするという前提もないため、布地の染めが十分でない場合もあります。
そのため、水に晒したら色が変わってしまった、という例もありますので、これには十分な注意と自己責任の範囲で作業を行ってください。

3.PVCパーツの使用を避ける。
次善の方法として、材質を変えるという方法があります。
要は、軟質素材のPVCだから色移りが起こるので、硬質のパーツに変更すればよい、という理屈です。
方法としては、シリコン型を使ったパーツ複製をして、レジンに置換することですが、まぁコストは相当にかかりますし、非常に手間がかかる作業ではあります。
特に、足首などは二面型で複製すれば難易度の低いパーツですが、コの字構造の胸パーツは二面型では難しく、三面型を作る必要があります。
型の数が増えると当然製作難度やコストは上がりますので、あまりお勧めは致しかねます。

色移りが起こってしまった場合の処置
さて、色移りの予防方法をいくつか挙げてみましたが、どれも絶対確実に色移りを防ぐ方法ではない、ということはご理解頂けたかと思います。

では、色移りが起こってしまったら、どのような処置を行う必要があるのでしょう・・・と、普段なら持って行くところなのですが、正直これも「絶対に補修できるわけではありません」。
あくまで、程度を軽くすることは出来るかもしれない、運が良ければ元通りになるかもしれない、程度の方法であり、絶対の保証はできません。

極端な話をすれば、色移りをしてしまった場合の最善の解消方法はパーツ交換ですし、初心者の方であれば猶更、手を尽くしてもどうにもならないかもしれません。

それでもなお、最後の一手としての方法はご紹介します。

1.パーツの表面を削る。
染料系塗料を使う際にも注意を添えましたが、パーツが染まるのは表面のみです。
よって、染まってしまった表層を削り落とせば元の色に戻る、という理屈です。

しかし、これは当然、どの程度染料が浸透したかによって削り落とす量は変わってきます。
パーツの色は戻ったが、形状が大きく変わってしまった、というのでは本末転倒です。
フェイスパーツや胸パーツであれば400番程度の紙ヤスリでさっと処理し、もし上手くいったら幸運だった、くらいの認識でいた方がいいかもしれません。

また、紙ヤスリでは削りすぎるのが怖い、という場合はメラミンスポンジでもいいでしょう。
メラミンスポンジも表層を削り取って汚れを取るものですので、理屈は一緒です。
ただ、理屈が一緒ということは、やりすぎれば形状が変わってしまうのも同じだ、というのは頭の片隅に入れておく必要があるでしょう。

2.漂白剤で染料を抜く。
色移りの原因は、パーツに染料が染み込んでしまうことです。
そのため、染料の色を漂泊してしまえば元の色に戻る、という理屈です。

やり方としては、塩素系漂白剤を浸したキッチンペーパーを対象の個所に当て、ラップなを巻き付けて一日程度放置する、という方法です。
ドール界隈では「ハイター湿布」と言われる方法ですね(塩素系のキッチンハイターを使うのが主流のようですので)。

デメリットとしては、作業中の安全確保の項目が多いことでしょうか。
作業中の換気に注意する必要はありますし、薬液が手につかないようにビニール手袋着用が推奨です。
また、自分の衣服や作業場所の周辺に薬液が散った場合、容赦なく色は抜けますし布地は激しく傷みます。

また、この方法は元の素材の色にも影響がある場合もあります。
そのため、これも決して万能の方法ではないことに留意してください。

3.色移り除去剤を使う。
色移り除去剤は、本来はドール用品です。
理屈としては、パーツに染み込んだ染料を抜く薬剤で、ボークスなどのドールメーカーが自社のドール素体用に販売しています。

使い方としては簡単で、患部に綿棒などで除去剤を塗り、一日程度おいて拭き取るというものです。

デメリットとしては、まず基本的に除去剤が各社のドールのためのもので、PVCパーツ全般への効果を謳ったものではない、ということです。
要は、ボークスのドルフィーには効果があるけど、他は試してないから分からないよ、ということですね。

また、除去剤は色移り直後には効果を発揮するものの、時間が経ってしまうと効果が表れにくいというのもデメリットです。

加えて、色移りを含む変色には様々な化学反応が絡み合っていて、一概にすべての変色に効果があるものではない、とも注意書きにあります。
そのため、どこまで効果が出るかは使ってみないと分からない、と言うのが本当のところです。
ぼく自身、この手の除去剤は使ったことがありません。


さて、いかがでしたでしょうか。
色移りというのはドールの方面ではメジャーな症状ですが、フィギュアや美少女プラモの文脈では、非常に例の少ない症状ではあります。

しかし、それ故にこの症状に対する知見は少なく、なかなか予防法や解消法には至らないことも多いのではないか、と思って今回記事にまとめることにしました。

特に、ブンドド遊びをする際に、釣り用のワームルアー(疑似餌)などを使うと、そこからも色移りをする症例が報告されています。
色移りは布服が主な原因ではありますが、それだけが原因ではないので、注意は必要です。

フィギュア・美少女プラモに布服を着せるという文化はドールそのものと比べると歴史が浅いということもあり、お気に入りの衣装を着せっぱなし、という方も少なくないかと思います。
不幸なトラブルが起こる前に、点検項目の中に加えて頂ければ、ぼくにとってもありがたい限りです。
特に、全体的には淡い色でも、濃い色でポイントやラインがあるものなどは濃い色の服だと認識しにくいので、注意が必要です。

この記事が、必要とされている方に届くことを願うと共に、誰からも必要とされないことを願って、今回は筆を置こうと思います。
今回もお付き合いくださいまして、ありがとうございました。

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