塗装について 第十回(難塗装材質の塗装)

プラモデルに使われている素材は、大半が塗装の可能な材質です。
しかし、キットに含まれているものの中にも、塗装の難しい材質というものがあることに気づきます。
それは、ジオラマ製作などで、キット以外のところに材料を求め始めても、同じです。
今回は、そうした「塗装が難しい材質」についてのお話と、「そうした材質を塗装するためにはどういう方法があるか」についてお話しできたらと思います。
ご興味ありましたら、お付き合いください。

塗装の難しい材質について
まず、キットに付属の取扱説明書には、各パーツの材質が記載されていると思います。
そこを確認すると、ひとつのプラキットにもPSやABS、KPS、PETなど、様々な材質が使われていることが分かります。

その中でも、塗装が難しいのはPVC(ポリ塩化ビニル)やPE(ポリエチレン)といった材質です。
PVCは美少女プラモなどで軟質ハンドパーツに、PEはガンプラのポリキャップに使われている材質ですね。

これらの軟質素材は、塗装の難しい材質と言えます。
まず、なぜ塗装が難しいのか、その原因を見ていきましょう。

1.塗膜が剥がれやすい。
PEというのは、よくビニールのごみ袋などに使われる材質です。
この袋に水をかけても、撥水することはイメージしやすいかと思います。
それと同様に、PEのパーツに塗料を乗せても弾いてしまいますし、そのまま水分や溶剤が揮発して顔料が残ったとしても、簡単に拭き取ることが出来てしまいます。

通常の顔料を含む塗料で塗装する場合、顔料が対象に食いついて剥がれないため、塗装が定着します。
しかし、ポリキャップなどはパーツに塗料が食いつかないので、塗装が定着せず、簡単に剥がれたり落ちたりしてしまうのです。

2.塗膜がパーツの変形に追従しない。
PVCやPEは軟質素材です。
つまり、力を加えると変形しやすい材質であると言えます。

一方、塗料の顔料成分はそうした柔軟性を持っていません。
つまり、軟質素材のパーツの上に通常の塗装をしても、模型用として使われている塗料は変形に追従するだけの柔軟性を持っていないので、割れたり剥がれたりしてしまうのです。

こうした塗装に難のある材質は、上記の点で塗装が難しいと言えます。
普通に模型用の塗料を乗せて乾かすだけでは、ダメなのですね。
では次に、どうすればそうした材質に塗装が出来るのかを見ていきましょう。

a.プライマーを使う。

プライマーというのは、塗装下地のことです。
サーフェイサーが塗装下地として表面を作るものであるのに対し、プライマーは分かりやすく言えば「塗料が対象に食いつきやすい面を作る」ものです。
塗料用の接着剤、というイメージを持って頂ければいいかと思います。

塗料が食いついてくれれば、弾かれてしまったり剥落してしまったりというのを抑えることが出来ます。
使い方としては、塗装の前にプライマーの缶スプレーを対象に吹き付けてやり、その上から塗装をするだけなので、塗装環境がある方には負担も少ないのが特徴です。
プライマーによって乾燥時間は異なるので、そこは使用法をよく確認する必要があるでしょう。
種類によっては完全乾燥する前に(プライマーの塗布後、何時間以内に)塗装すること、のようなものもありますので。

また、プライマーにも様々に種類があり、金属用ですとかナイロン用ですとか、様々な種類があります。
購入の際は、その辺りも注意しておく必要があるでしょう。

b.染料系の塗料を使う。
通常、模型用の塗料というのは顔料(色を作る成分)を溶剤で溶いたものです。
そのため、塗装をすると顔料成分の膜が形成されます(これが塗膜というやつですね)。
この塗膜が変形に追従できないので、軟質パーツを動かす際にひび割れたり剥がれたりしてしまうのが問題でした。

そこで、顔料系塗料ではなく、染料を使って塗装をするという方法が出てきます。
染料は文字通り、パーツを染めるものであるため、塗膜を形成しません。
また、パーツ自身に染み込んで色を変えるため、変形にも強いというのが特徴です。

難点は、幾つかあります。
ひとつには、通常の塗装以上にパーツの元の色を選びます。
染料なので、元の色が強いとどれほど染めてもきれいに発色しない場合があります。
染める場合は白のような薄い色のパーツを使うのが理想です。

もうひとつには、少々使用環境を整えるのが大変という点でしょうか。
プライマーであれば自宅に塗装環境がなくても、模型製作スペースなどで使うことも出来ますが、染料が使えるスペースというのは、ちょっと探すのは難しいと思います。

最後に、せっかく環境を整えても、応用範囲が狭いです。
というのも、通常のパーツの塗装には不向きというか、メリットが大変に薄いです。
染料系塗装は顔料系塗装に比べ、破損リスクもあり、準備する物も少なくないです。
コストも必要ですが、他の作業への応用はちょっと効きません。
通常のABSやPSパーツをあえて染料系塗料で塗装するメリットというのは、ぼくにはパッと思いつかないですね。
染料で染めたとしても染まるのは表面だけなので、削れてしまえは色は落ちてしまいますし、過信するのは禁物です。

そのため、あまりお勧めしにくいのが現状です。
例えば、『オビツボディを褐色にしたい』というような、軟質パーツを大量に塗装したい場合でもない限り、普通に塗装することをお勧めします。

さて、いろいろ言いましたが、以下に塗装の手順や必要なものを挙げていきます。

必要な道具
・染料系塗料(染めQ、SDN染料など)
・温度計(必須)
・鍋(100均の安いアルミ鍋で十分、必ず食品を扱うものとは別に用意すること)
・お茶パックや洗濯ネットなど、パーツをまとめておく袋
・テスト用パーツ(不慣れならば必須、ランナー等でもいいので必ず用意すること)

塗装方法
・鍋に水を張り、染料を規定量入れる(SDN染料の場合は5%程度)。
 用量は塗料の注意書き記載のものに準拠するが、自分の好みで調整も必要。
・コンロの火にかけ、60~70℃程度を保つ。
 温度管理が不十分だとパーツの変形や染めが不十分になる場合があるので注意。
・パーツを袋に入れてひとまとめにし、規定の時間鍋に入れる。
 この際にパーツが鍋肌に触れると高温で変形してしまう。
 鍋に投入する時間は染まり具合を見て調整する必要があるが、長時間加熱すると変形するリスクは上がる。
 染料の濃度と加熱時間はパーツの形状によっても異なるので、必ずテスト用パーツ(ランナーの切れ端や不要のジャンクパーツなど)で予備実験をする方が無難。
 また、パーツの材質(ABSかPSかPVCか、等)によっても染まり具合は異なるので、その点にも注意が必要。

・染料の蒸気には毒性があるため、コンロで温める際には十分な換気が必須。
・染料を廃棄する際には、注意書きや自治体の区分に従って処理する必要があり、そのまま流してはダメ(SDN染料の場合は200倍以上に希釈して廃棄)。
・廃液系の処理は、大体の自治体ではタオルや新聞紙などに吸わせて可燃ごみにしてよいとするところも多いようだが、確認は必須。
・今回は関係ないけど、有機溶剤系の廃液はタオルに吸わせた後、きちんと揮発させてから捨てる、というような指定もあるので、確認必須(だいじなのでにかいいいました)。

パーツを染めるとこんな感じです。
これはWISM発売当時に作った物ですが、後年ラプターがこの近似色で発売され、泣きを見ました。

画像では腿の真ん中あたりにあるバリが目立っていますね。
染色で色を乗せると、ゲート跡などが目立ちやすいのも特徴です。
しかも、染色後にバリに手を加えると色も落ちますし、再度染め直すと他の部分との兼ね合いが悪くなります。
基本的に、染色塗装は一発勝負でやり直しは出来ません。

軟質ハンドパーツなど、通常の塗装が難しい材質を単色で塗装する分には悪くない方法ですが、それでもコストが割高です。
少なくとも、ハンドパーツを塗装するために設備を一式購入するなら、別のキットに近似色のパーツがないか探し、パーツをばら売りしている店舗等で購入する方が遥かに楽でしょう。


さて、いかがでしたでしょうか。
個人的には、塗装の手間や簡便性を考えると、模型の初心者にはプライマーでの塗装をお勧めしたいところではあります。
染色は本当に難しい上、用意する環境もちょっと特殊で、かつ専用のものを用意しないといけないので、よほどのことがない限り敢えて選ぶ必要はないと思います。

では、なぜパーツを染める方法をご紹介したかと言うと、次のnoteでこの内容に触れるためです。

次回の内容は「パーツの色移りの予防と対策」になります。
そちらもご興味おありの方は、よろしくお願いします。
今回もお付き合い頂き、ありがとうございました。



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