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暑中見舞い
窓の外は曇り空で薄暗いから、夕方の早い時間にカーテンを閉めて電気をつけた。タンクトップにゆるっとした部屋着のズボン姿で、膝を立てながらこの文章を打っている。
キーボードを打つ手を支えている両腕が、木製のテーブルにペタッと張り付いている。汗のせいか、湿気のせいか。
顔も、主に鼻周りがギトギトしている。鏡を見なくても分かる。別にどこかに出かけたわけでもないのに、まったく嫌になる。
扇風機が首を巡らせ、時たま背中に空気を押しやってくる。これで少しでも涼しいと感じるうちは良いが、もうあと十数回日を跨げば何も感じなくなりそうだ。
湿気で乾かない洗濯物、風呂に入ってもすぐにべたつく体、首を振るだけの扇風機。これぞ日本の夏。
涼しげな団扇が描かれたハガキを手に入れたので、知り合いに暑中見舞いでも書こうかと思って筆(実際にはボールペンだが)をとった。だけど暑中見舞いなんか書いたことがないから、これが時期的に正しい行いなのか分からない。スマホで調べたら、7月7日以降に届くようにするものらしい。
今日書いて投函するとちょっと先取りが過ぎる。
一度とった筆を紙面と触れ合わせることなく机に置き直す。次に筆をとる頃には、暑中ではなく残暑を見舞うことになるに違いない。怠惰な自分を正確に分析した。
まあ、いいじゃないか。
灼熱の夏が来るのを少しでも先送りするかのように、けれどすぐにやってくるであろう夏に淡い期待感を抱きながら、暑中見舞いの作成を見送った。