俺は愛を知らない
なぜ料理をしているのかと問われたら、それは愛のためであり世界平和のためであると答える
真っ直ぐに相手の目を見て答える
本気で言っている
2人に1人は「は?」みたいな薄笑いを浮かべた戸惑いや冷笑を浮かべる
それでも俺は恥も衒いもなく答える
「全ては愛と世界平和のためだ」
と。
それでも、俺は、愛を知らない
*
先日富山県砺波市にある洋服店Swan-Diveの24周年イベントにお邪魔してきた
Swan-Diveとのご縁は本当に不思議だった
俺がまだ野々市で店をしていた頃に人伝に俺の存在を知り
「一度食べてみたい」
とSwan-Diveオーナーの一誠さんは考えていてくれていたらしい
しかしお互いに店をしていてしかも隣の県という地理的な条件もありなかなか来店する機会がなかったとのこと
そうこうしているうちに俺が閉店した
閉店してから自分の活動の仕方を模索していたのだが、ある日InstagramのDMにリクエストが来ていたことに気付いた
しかもそのDMは届いてからすでに数ヶ月経っていた
焦って中身を開けて読んでみると
「一度食べてみたいです」
とシンプルな文言が綴られていた
送り主は一誠さんだった
俺は慌てて返信を行い、DMに気づけずに返信が遅れたことを詫びた
そこからすぐにSwan-Diveに訪れて交流が始まる
俺は俺でSwan-Diveのことは気になっていた
なにせずっと欲しいと考えていたメキシコのシャツ『グワジャベーラ』を取り扱っていたからだった
しかしそのシャツはとても高い
今の俺で手が出る金額ではない
だから「いつか買えたらいいな…」くらいに考えていて、「今はSwan-Diveに行くタイミングではない…」なんて考えていた
だからそんな店から連絡が来たことに驚いた
その後何度かSwan-Diveで出張営業させてもらった
その度にSwan-Diveに通う常連の方の洋服への愛に感服していた
Swan-Diveで売られている洋服はそれなりに高い
俺ならそんなにしょっちゅうは買えない
つか今の俺だと何一つ買えない
そんな高額な洋服を毎月のように買っていく常連の皆様のその満たされた表情
「本当に洋服が…オシャレをすることが好きなんやな…」
とその笑顔や表情から伝わってくる
欲しい洋服のために仕事を頑張っているのかも知れない
洋服を買うために他の何かを我慢して節約しているのかも知れない
それでもその洋服がほしい
その感覚は俺にはなかった
いや、正確に言うと『封印』してきた
俺だってオシャレをしたり洋服を選んだりすることに興味がない訳ではない
できるなら目一杯オシャレをしてみたい
しかしこの15年?もっとそれ以上?のお金に苦労した日々から『洋服を買えない自分』を惨めに思いたくない一心でミニマリストである自分を作り上げていた
決まった物以外は手に取らない
それはそれでシンプルで心地の良い感覚ではあったが、どこか寂しくも物足りないものでもあった
贅沢をしたい訳ではない
ただ、欲しいものを『欲しい!』と純粋に思える感情をどこかに封じ込めて忘れたフリをしていた
そんなことをSwan-Diveに通うお客様達は思い出させてくれた
*
24周年イベントは最高に楽しかった
渡辺俊美&the zoot 16のライブも最高だった
何人か顔見知りにも会い、新たな出会いもあり、充実した時間だった
イベントの終盤に一誠さんが渡辺俊美さんにある曲のリクエストをした
それはzoot16の曲でもソウルセットの曲でもなかった
「誰かが泣いたら抱きしめよう それだけでいい/誰かが笑っていたら肩を組もう それだけでいい」
「誰かが倒れたら起こせばいい それだけでいい/誰かが立ったなら支えればいい それだけでいい」
俺は初めて聴いた曲だったけどなんとなく一誠さんがこの曲をリクエストした気持ちが伝わった気がした
隣にいた人に
「これ誰の曲?」
と聴いたら
「バースデイだよ」
と教えてくれた
演奏が終わった後に渡辺俊美さんがMCで
「俺普段は人の曲を歌う時はちゃんと歌詞カードを手元に置くんだ。それは清志郎さんでもやってることなんだ。でも今日は急だったから…でも、チバの気持ちはちゃんと伝わってる」
そう、先日亡くなられたチバユウスケ氏のバンドthe Birthdayの曲だった
Swan-Diveが24周年続けてきた中で、一誠さんも誰かに助けられたり、または誰かを助けたりしてきたのかな…
それはお客様も一緒なのかな…
そんなことを思うと、俺も少し幸せな気持ちになった
きっとそれは愛なんだろうな
その日は綺麗な夜空だったな
*
俺は自分を信じている
このまま終わるとは思っていない
でもどうなるのかも自分でもわからない
時々とんでもなく不安になることもある
時々とんでもなく孤独を味わう夜もある
頼りない草の船で荒れた海に放り出された気持ちになる時もある
それでも歩みは止めはしない
俺は愛を知らないいつか俺も愛を知る日がくるだろう(多分、きっと)
からこそ、愛のために、世界平和のために作り続けよう
人にも世間にも流行にも迎合せず、自分の今持てる限りのものを全て曝け出して生きていこう
こんな俺にもいつか、あんな綺麗な夜が訪れると信じて
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