ともに学びあい,教えあいながら働く場で見えてきたこと/就労継続支援B型事業所 UTAU
京都が誇る世界遺産「東寺」の東門横に,2021年7月にオープンした喫茶とプリンの店「うたうプリン」をご存知でしょうか?建物1階のカフェでは,抹茶やラズベリーなどのフレーバーもあり自然な色合いと丸いカタチがとても可愛いプリンやパフェを販売され,地域の方の憩いの場にもなっているこの場所。
今回は,この建物で運営されている「お菓子作りとデザインが学べる就労継続支援B型事業所 UTAU」さんの取組についてお話を伺い,働きやすい環境づくりのためのヒントを探りました。
就労継続支援B型事業所UTAUとは
utauの運営は,大阪を中心に福祉事業等を行う株式会社クーバルと左京区にあるコーヒーの会社タビノネが意気投合して共同事業として始まったそうです。きっかけは,タビノネで事業を進めている際に,障害のある方から「コーヒーやお菓子の会社で働きたい」というニーズが多く寄せられていて,実際には現場での採用は難しかったという経緯があり,新たな場をつくって携わってもらえる機会が生まれたらという想いからスタートしたとのことでした。
2021年7月にオープンし,1階ではカフェ,2階でお菓子づくり,3階でデザインの仕事に取り組んでいて,カフェで販売するお菓子以外にも,注文をいただいて近隣のカフェやホテルで提供されるお菓子を製造しているとのこと。また,3階のデザインのお仕事では,パッケージや商品のデザインを行ったり,2022年2月に四条烏丸のからすま京都ホテルに新たにオープンするセレクトショップの商品づくりを現在は行っているとのことでした。
現在の利用者は12名で、当初は精神障害のある方が多かったが,次第にほかの障害の方も増え,年齢層も10代〜60代の方まで幅広いメンバーが働いているとのこと。午前中はデザインの仕事をして午後にお菓子作りをする人もいれば,カフェ業務を中心に行う人もいたりと様々な仕事,働き方ができるそうです。
就労支援施設への理解のあるお客様と
製造を依頼いただいているホテルの茶菓子や,カフェや蕎麦屋のオリジナル商品づくりでは,工場のようにコンスタントに商品をつくれないことを先方にお伝えしているそうです。しかし,「クッキーの形やパッケージのシールにズレがあること自体に親しみを感じる」という声をいただき,UTAUの仕事内容に共感をしていただく方が多いとのことでした。
UTAUでは,月に1回ほどプロの作家さんなどに来ていただき利用者向けのワークショップを開催しているそう。現在は,見学者の参加も受け入れており普段見ることのできない2,3階の仕事場や利用者の方の様子を見てもらえるようにしているそうです。
仕事で疲れたときに癒される場所で
東寺東門の横での施設開設について理由を伺うと,創業者がかつて見学に行った障害者の施設の作業場が光が差さない暗いスペースだったことに違和感があったことがきっかけで,それから「陽が入るところ」「窓から自然が見えるところ」を基準にいろんな場所を探したそうです。そして,現在の東寺横のスペースにきたときに東寺さんのパワーを感じたことで即決をしたとのことでした。
そのおかげもあり,利用者の方は新しいことにチャレンジをしたり,忙しい仕事のなかでも休息をとりながら仕事に取り組んでくれていたり,職員やカフェのお客さんにも好評いただいているとのこと。
はじめは,緊張して接客ができなかったり,柔らかい雰囲気になれず強めの接客をしてしまうこともあったけれど,いまでは誰が利用者で誰が職員かわからないくらいになっているので,是非お店に足を運んでみてほしいと話されていました。
働く職員も一緒になって日々学んでいる
今のような空気感をつくるにあたって大事にしたことを伺っていると,理由の1つに「私たちがこれまで就労継続支援事業所をつくったことがなかったことが,いい意味で『ぽくない』施設になってるのでは」と岡崎さんは話されていました。
例えば,同じ作業の繰り返しではなく日々新しいことにチャレンジしていたり,商品づくりにおいては「試作から商品化まで」を職員と利用者が一緒になってやっているなど,他の施設とはちょっと違うところがあるそう。
その背景には,職員自体が福祉関係を専門にやってきた者と,そうでない者が半々いるからではないかといいます。メンバーは,バリスタやお菓子作りの専門家,カフェを経営してきた人がいる一方で,ヘルパーや作業療法士など福祉の分野のバックグラウンドを持つメンバーがいるとのこと。
それもあってか,例えばコーヒーを淹れたりカフェラテをつくったり,お菓子をつくるときには知識経験ゼロの職員も一緒にやるので,利用者には変なプレッシャーがなくむしろ上達が早かったりするときもあり,そういった関係が良い雰囲気をつくっているのかもということでした。
利用者の方が帰宅されたあとに,メンバーで福祉に関する勉強会を開催したりもしているそうですが,基本的には「支援」ではなく「学びあい,教えあいながら進める」ことが当たり前になっている部分を感じました。
福祉への理解を拡げ,共創を生み出していきたい
今後の展望を伺った際には,先にご紹介したホテル内のセレクトショップに力を入れていきたいと話されていました。
もともとショップ展開については,ホテル側からスペース利用の提案があったそうですが,自社で商品をつくっていくなかで,商品づくりやマーケティングが上手な全国各地の福祉施設のことを知り,その商品を京都で手に入れることができるようになれば,福祉への理解も拡がっていくのではと考えたとのことでした。そして,足を運ぶ人や手に触れる人を増やすことで,福祉のことを伝えたり働きやすい場所をつくっていくことの必要性を届けていきたいと語られていました。
職員自身が働くなかで変化していった
「働きやすい場所」について伝えていく上で,岡崎さんは自身の経験も語ってくださいました。お菓子作りやカフェを運営するという面では,以前よりもスピード感は遅くなった。一方で、遅くなったが精密度は上がったような気がしている。これまで,スタッフだけですすめて早く済ませていたこともあったが,小さなことが気になったり,しっかりと考えて行動をしたい利用者の方がいるとそれが難しい。ただ,そこで私たちも一緒になって考えることで,当初は気づかなかった質をあげるヒントが見つかることが増えた。それにより,結果的に喜んでくれるお客さんも増えたように感じているとのことでした。
また,仕事をする上では,愚痴だったり悪い雰囲気を生むような言葉が出ることも多々ありますが,いまの職場では聞こえてこないそう。忙しくなるとついつい出てくる言葉も,ここでは「忙しいというのは仕事があるということ」であり,仕事があることは嬉しいことだということを思い出させてくれたとのことでした。
そういった,きっかけがUTAUでは日々生まれているそうです。
今後は,一緒にお菓子作りをできる方々を増やしたり,コラボ商品を企画して新しい販路を開拓したり,ゆくゆくは福祉のお店だけを集めたマーケットの企画も開催していきたいとのことでした。
オープンからまだ半年ですが,勢いよく次々と新しいことにチャレンジされているutauさんのこれからがより楽しみになった時間でした。
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南区情報ステーション「みなみなみなみオンライン」
取材/文 まちとしごと総合研究所
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