1シーズンでやめるつもりが、シーズン8まで一気見してしまった『HOMELAND』感想


止められない止まらない

 なんで見始めてしまったのか。シーズン8まであることは最初からわかっていた。1シーズンが12話で、1話がだいたい50分。学生ではない今、長い物語を追っている時間がない。でも評価が高いドラマはせめてシーズン1だけでも見ておきたい!なんて思ったのが間違いだった。
 シーズン最終話ではじめて気付いた。このドラマ、各シーズン毎にきれいに締められているわけではない!「~完~」ではない、「to be continued」。物語の一区切りを見届けないまま、こんな中途半端な気持ちでは終われなくなってしまうのである。

 予定外にシーズン2を見始めて、12話まできた。今度こそ、一旦終止符は打たれる?と思いきや、クライマックスを迎えたところで「to be continued」。は?

 
否応なしにシーズン3に突入である。12話までの道のりがことさら長く感じられる。ただすっきりした気持ちで終わりたいだけなのに。悠長にドラマを見ている時間なんてないのに、と止められない自分に腹を立てながらも、出張に向かう新幹線の中で、出勤する電車の中で、入浴中に、とにかく時間さえあれば「HOMELAND」を見ていたのが最近の私だったのである。
 今思うと、ブロディが処刑されてちょうどいい感じに締めくくられていたシーズン3でやめておけば良かったのだ。なのに、なぜその続きを見てしまったのか。実は、何度も死の危険に晒されながらも生き抜いてきたブロディだから、シーズン3の結末で亡くなっても、シーズン4では、実はあの時死んでませんでした~!な展開を期待してしまっていたからだ。しかし物語を追っても生存していた描写はなく死んでいたのは明らかで、いよいよもってこのシーズン4で見るのは止めようと誓った。しかーし、今度はシーズン4からレギュラーで出演するようになった一匹狼の殺し屋、イケオジ「クイン」の存在が気になってくるのである。全くよくできている。

クセありすぎな主な登場人物

 そもそも「HOMELAND」、登場人物がまったく魅力的でない珍しいドラマだ。スパイ同士だからか同僚さえも信頼できない。「実はあの人、裏切り者でした!」こんなんばっかりだ。

【キャリー:主人公 CIAの工作員】

双極性障害。イライラするほどの自己中。キャリーに巻き込まれたばかりに犠牲になる人多すぎ。普通にしていたら美人なのに常に目がパキっていて狂気を感じさせる。でもなぜかモテモテ。いくら諜報活動のためとはいえすぐに体を武器にするところもあり得ない。ブロディとの間に子供作ることも信じられない。その娘の子育てもできない。金髪の白人って異国で活動する諜報員としては目立ちすぎないか。特に中近東では。黒髪のヅラ被って変装しても特徴的な顔は丸出しだから普通にバレバレ。変装のクオリティが低すぎる。世界各地で協力者を獲得し慕われているから、愛される人柄であることは確かなのかもしれない。

【ブロディ:アメリカの海兵隊員】

8年間イラクに戦争捕虜として拘束されている間にテロリストに寝返る。アメリカでは帰国後英雄としてもてはやされるが、キャリーだけはその立場を疑っている。下院議員になり政府上層部を殺す自爆テロを企てるが、アルカイダとの関係が明るみになり、CIAの本部爆破事件犯人に仕立て上げられて逃亡する。イランに亡命しCIAに協力して革命防衛隊司令官を暗殺するが、キャリーの奮闘むなしく捕まり、最期は公開処刑される。キャリーと心が通い合ったのか何なのかよくわからなかったが、キャリーとの間に子供ができたことを知ると嬉しそうにしていた。

【キャリーの上司:ソール】

見た目はハイジに出てくる「アルムおんじ」そのもの。疑い深い偏屈頑固ジジイ。お爺ちゃんだからかすぐ攫われがち。離婚後あっさりハニトラにひっかかって情報漏洩しちゃうチョロすぎおじいちゃんでもある。ハニトラ相手を粛正して殺害するの怖かった。キャリーに厳しく接するときもあるが、後継者と考えている。

【同僚:クイン】

CIAの諜報員。孤児だったところを見出された。正直キャリーを好きなのは解せなかった。

命を懸けてキャリーを守る不屈の「王子様」クイン

 しかしそんな甘いポジションには収めてくれないのが「HOMELAND」である。孤独な優男がせっかくキャリーに告ったのに、肝心のキャリーは「双極性障害」の人間は、誰かと良好な関係性を築けないに違いないと返事を躊躇する。そのためらいを断られたと理解したクインはひとり、新たな命がけのミッションへと旅立ってしまう。

 ブロディが処刑されたときもそうだったが、クインがサリンの実験台にされ泡を吹いて倒れたときも、「またまた~」。これは前振りで、「からの~、ジャーン!実は無事でしたーーー!」って大ドンデン返しのエンディングを待ってしまった。私の脳は日本の安直ドラマの流れに慣れきっているし、そんな平和な終わり方こそ求めている。唯一のイケメンキャラに過酷な運命とか要らない。そういえばヒョロヒョロのティモシー・シャラメがシーズン2に出てきていたけれど、情けない役ですぐに居なくなってたな。
 
 シーズン5で昏睡状態に陥ったクインは死ぬことはなかったが、脳梗塞の後遺症で左片麻痺となり、PTSDを患い認知も歪み、シーズン6ではずっと悲惨な姿を晒すことになる。そしてクインまでも亡くなってしまうシーズン6。最期だけはヒーロー的な終わりだったけど、クインのこんな死に際望んでない。

クイン亡き後のシーズン

 私はせめてここでやめておけばよかったのだ。クインはもう帰ってこない。帰ってきたとしてもあの身体では可哀想。しかしここまでくると残るは2シーズン。最後まで見るかー、という気分になってしまってシーズン7に突入である。しかし1シーズン12話もあるんだから結構なボリュームである。新たな登場人物が出てくれば「いやこいつ後で絶対裏切るでしょ」と常に斜めに見てしまう。シーズン7の最後では、これまで何度も危ない目に遭いながらも奇跡的に助かってきた(だって主人公だから)キャリーがとうとうロシアに囚われてしまう。今まで散々ひとを駒のごとく使っては死に目に遭わせてきたきたキャリーだが、果たしてこれからどうなるのだろう。最終シーズン8を見届けるしかない。

 7か月後、人質との交換を条件に解放されるが、精神病薬を取り上げられたていたキャリーはボロボロだった。ドイツの精神病院で療養に励み闘志に燃えているところにソールが迎えに行き、アフガニスタンのカブールにコネのあるキャリーを再び表舞台で活躍させようとする。最終章シーズン8で、シーズン1と同じ場所が舞台となるところも熱い。テロとの戦いに終わりはないのだ。

【同僚:マックス】

ITのスペシャリスト。キャリーにこき使われているフリーの便利屋さん。シーズン最初のほうはアスペ気味で、兄にくっついて仕事をしているようだったが、シーズンを追うごとに独り立ちして逞しく成長していくようだった。シーズン5では大使館に勤務し、シーズン8ではソールの命で戦線に赴き、タリバンの情報傍受に尽力する活躍を見せている。「あいつが入れば何事も起きない」幸運の女神扱いも良かったのに、結局悲惨な最期を迎えてしまう。

【グロモフ:ロシア連邦軍参謀本部情報総局の幹部】

キャリーに寄り添う振りして任務を全うする、心理戦に長けたプロの工作員。

感想

 大使館は爆破されるし、CIAの本部は占拠されるし、大統領はヘリの事故で死ぬし、実際にはあり得ない、起こる事件の規模が大きすぎる。「スパイ」という想像もつかない世界のあれこれ。テロと戦うだけでも大変なのに、キャリーの「双極性障害」という病気のせいでストーリーが複雑になるから、正直その設定いらねーーーとずっと思っていた。

 ブロディは8年かけて洗脳されたが、キャリーは7ヶ月間ロシアに囚われ「双極性障害」の薬を取り上げられていたせいで記憶が飛んでいる。周りからは二重スパイの疑いをかけられ、自分自身のことも信じられない。たった数ケ月だが、精神的苦痛レベルでは常人の数年に匹敵させるのに、やっとこの病気が有効になってくるのかと思えた。

 「大勢の命を救うためには一人の命を犠牲にしても仕方ない。」国のために活動する立場の人間の考えなのだろう。たとえそれがどんなに大事な人であっても、割り切れるものなのだろうか。ソールが言っているように、キャリーは、常に何が最適かを判断できる能力の持ち主なのだ。

 マックスが命懸けで回収した、大統領が命を落としたヘリコプターの飛行データ記録はグロモフの手に落ちて取り戻すことが叶わず、ロシアに政治利用されて終わりを迎える。正直モヤモヤしたが、物語はここで終わりではなかった。二年後、ソールは引っ越し作業中、キャリーはなんとロシアでグロモフとよろしくやっている!そしてキャリーは、これぞまさしくプロのスパイだと思わせるオチを見せてくれる。
 
 「HOMELAND」は、最終シーズンの8まで見通さないと語れない。途中イラつくことは多々あれど、結末まで見届けてやっと高評価に納得のドラマであった。