デイヴィッド・リンチ監督2作品 感想

 1月15日、デイヴィッド・リンチ監督がお亡くなりになった。
 ちょうど「ツイン・ピークス」シーズン1、2を観終えて、これが有名な「ツイン・ピークス」か!「デイヴィッド・リンチ監督」の世界観か!ハマらないわけなかったーー!と感想を綴ろうと思っていたところであった。


『ツイン・ピークス』

オープニング

 まったりとしたノスタルジックな音楽に始まる導入部。鳥のアップ、道路脇の「TWIN PEAKS」の看板、製材所、ウッディなホテル、理想郷のような風景が次々に映し出されていく。高低差のある滝から勢いよく上がる水飛沫の映像は清々しく、この世の「しがらみ」とは無縁に思える。しかし「TWIN PEAKS」という架空の田舎町で暮らす登場人物は「しがらみ」に縛られ、行動や意思に影響を受けている。もつれる人間関係の醜悪さと、オープニングの長閑な映像との対比が素晴らしい。毎回同じとわかっているのにスキップしたくなくなる、こんな気持ちは初めてだ。

ストーリー

 「TWIN PEAKS」で殺人事件が起きたところで物語は始まる。根幹は「17才の人気者JKを殺したのは誰だ!」な犯人捜しミステリーなのに、中盤くらいで犯人が判明し「シーズン2の9話」で犯人も死んでしまうのに、物語は尚も続く。裏にある闇はまだ解明されていないのだ。「ブラックロッジ」だの「邪悪な存在」が原因らしいのだが正直そんなものがどうでもよくなってくるくらい、登場人物が胡散臭くて魅力的だ。

魅力的な登場人物たち

 FBIから派遣された捜査官クーパー役のカイル・マクラクランが美しすぎる。「ダイアン」に話しかけるテイでメモ代わりにボイスメッセージを残す独特の習慣を持ち、「夢で見たから」と第六感で捜査していくスタイルを周囲が受け入れるのも謎だが、初見で「この二人実はできている」を言い当ててしまう姿を見ると納得しちゃうものなのか。

 女子が皆綺麗すぎる。ローラもだが、ドナ、オードリー、シェリーの三人娘が美しすぎ。後半に出てきてクーパーといちゃつき始めるアニーも爆美女だし、警察の受付係ルーシーも可愛い。ダイナーの店主ノーマだって中年だろうけどスタイルいいしさすがかつての「ミスツイン・ピークス」だけある。

 男は総じてだらしがない。こんな男たちに翻弄され苦労させられている美女たちが気の毒になる。中でもダントツでどうしようもないのがジェームスだ。殺されたローラは表向きボビーと付き合っていたが、実はお互い浮気していて、ボビーはシェリーとローラはジェームスとも付き合っていた。しかしそのジェームスもローラが生きているうちからローラのの親友ドナと意気投合していて、死んだ途端堂々と付き合い始める。ローラに瓜二つの従妹マディが出てくればそっちとももいい感じになっちゃうし、その従妹まで殺されるとドナを放ったらかしてバイクで旅に出てしまう。旅先で行きずりの訳あり女に車の修理を頼まれ家に居候させてもらうと、その女にまで手を出すクソっぷり。マジでいい加減にしてほしかった。最後まで帰ってこなかったしな。

映像美

 オープニングの映像もそうだが、デイヴィット・リンチ監督の圧倒的な美術センスは、画家を目指していたと聞いて納得だ。
 オードリーはマリリン・モンローみたいだし、ルーシーは80年代のマドンナみたいなファッションをしている。保安官の一人はインディアンの末裔だ。コーヒー、ドーナツ、パイがやたら出てきて食欲をそそる。ザ・アメリカ的なものがふんだんに出てくる。

 架空の町の世界観に没入するあまり、住んでみたくなる。自分も胡散臭い登場人物の一員となり、丸太抱えるよりは誰かと秘密の恋をし、自然豊かな森の中で愛を語らってみたいが、美しくなきゃ、無理か。

 興味は募る一方なので、オリジナルシリーズから25年後を描いた続編『ツイン・ピークス:The Return』もぜひ見ようと思う。

続いて観た。

『マルホランド・ドライブ』


感想

 これはいただけないと思った。『ツイン・ピークス』と同様、美女がいっぱい出てくるのはいい。すごくいい。ただリンチ監督、美女と美女を無駄に脱がせ、その絡みを見たかっただけではないのかと思えてしかたがなかった。美の競演は誰しも望むところだが、裸は必要ない。コネや色仕掛けなどハリウッド的商業をネタにした物語だからこそ、「必要性を感じない裸」をタブーにしてほしかった。

 しかも内容も2時間半の中で2時間が夢の話なのである。他人の夢の話ほどつまらないものはない。夢の世界では実行不可能な事も自由自在に創作できてつじつまが合わなくてもおかまいなし。物語のオチとして「実は全部夢でした~」が最もシラケる。どんなに途中まで面白く聞いていたとしても、一気にシラケる。映画としてそういう構成があってもいいとは思うがさすがに長すぎる。

リンチ監督


 アメリカを愛し、美しいものをこよなく愛し、「小人」「巨人」など異形のものに惹かれ、「謎の箱」「鍵」などの小道具を使い思わせぶりにミステリー要素を散りばめることが得意。マイケルジャクソンのMV「スリラー」ではそのスキルが遺憾なく発揮されているように思うが、長いストーリーの構築ができない方なのではないかと思えた。『ツイン・ピークス』も回を追うごとに支離滅裂になっているように感じる。伏線を回収する気がない。これでよし!と判断するその頭の構造はどうなっていたのだろう。独特の美的センスは誰にも真似できない。確かに唯一無二の存在だと思う。