「キルミーアゲイン’21」感想
劇団鹿殺し活動20周年記念舞台
『キルミーアゲイン'21』
10月17日大千穐楽を迎えた『キルミーアゲイン‘21』。
劇団鹿殺しのエネルギッシュな世界観に浸った興奮はいまだ冷めやらず、すでにキルミーアゲインロスに陥っている。忘れたくない感想などつらつらと。
私にとって初めての劇団鹿殺しさんの作品。
脚本を担当された丸尾さんのことは、もちろん存じ上げている。7ORDERのファンには、とても馴染みが深いお方だから。
最初にお名前を目にしたのは2017年5月、丸尾さんが脚本・演出をつとめたラジオドラマ「罪男と罰男」に安井くんが出演したとき。
同年、朝井リョウの小説『何者』が阿部顕嵐主演で舞台化されたときには、演出を担当されていた。この舞台には長妻くんも出演している。
そして7ORDERとしての活動開始後の2019年12月、『舞台7ORDER』のスピンオフ作品として上演された森田美勇人主演『RADICAL PARTY -7ORDER-』では河西裕介さんと連名で脚本を担当、同じくスピンオフ作品である、2020年2月上演真田佑馬主演『舞台27』でも脚本・演出をされている。
そんな丸尾さんが所属する「劇団鹿殺し」は、2000年に兵庫県西宮市で旗揚げし、活動20周年を迎える。記念公演に選ばれたのは『キルミーアゲイン’21』。2016年1月、15周年記念に上演された「キルミーアゲイン」をリクリエイトしての再演である。
初演で大蔵役を演じた丸尾さんが、今回は藪中の親友、河本役を演じる。配信でその理由を「もっとユウマと絡みたかったから」と言ってくれていた。
真田くん28才 → 35才
丸尾さん44才 → 35才
お互い実年齢を歩み寄っての同級生役だ。
ちなみに、劇中では17年前の18歳も演じている。
会場に入ると、席に劇中歌の歌詞が載った冊子が用意されている。こんな親切な舞台は初めて。
そしてBGMに、『俺ら東京さ行ぐだ』『帰ってこいよ』『麦畑』などの田舎を彷彿とさせる曲がエンドレスで流れ、観劇前の会場の雰囲気を盛り上げる。
(この歌知っている世代がこの中に何人くらい居るんだろう)村の世界観に浸りながら開演を待つ。
「演出家」や「脚本家」としての顔しか知らない丸尾さんの「役者」の一面を見ることが楽しみだ。
『舞台27』にも出演していた梅津さんをもう一度見られることも、そして何より真田くんの生の姿を久々に見られることにワクワクは止まらない!
開演のベルが鳴り終わると同時に、真田くんが客席の扉から登場。
え、いきなり?初日は驚いた。
やっぱり生の真田佑馬は目が飛び出るほどかっこいい!
それから開始後数十分、正直私はステージからの圧倒的なパワーの前に、引いていた。
紀伊國屋ホール(客席数:約400)という規模だからなのか、マイクはピンマイクでなくフットマイク。
演者はものすごい声量で叫ぶのだ。
もしかしたらこれ、ステージだけで盛り上がって、客席置いてきぼりタイプの舞台かもしれない…。
でもそんな心配も稀有に終わった。チョビさんのハスキーな歌声と吹奏楽の生演奏、熱い芝居に気づけば引き込まれていた。いつの間にやら絶叫にも慣れている。
舞台は、現代、17年前の追想を交互に描きながら展開し、途中劇中劇も挟まれる。
現代と17年前の衣装替えは、現代の衣装にアイテムを一つ加えるだけ。
大蔵はスタジャンをはおり、山根はマフラー、河本はニット帽、藪中はキャップを身に着けるだけ。(なんと「GOOD LOOKING」のロゴ入りキャップ)それで一気に17年前の世界に連れて行ってくれる。
笑いのポイントはたくさんあって、途中声を抑えるのが大変になる。
劇中劇はしっかりダム反対のメッセージも込められているのに、それが頭に残らないくらい配役がおかしく、ただ歌とダンスはとんでもなく楽しく、終わりには必ず藪中恒例のハラワタを出して台無しにしてしまう。
途中大蔵のダメだしで修正しながらも、物語は進行していく。
しかし何やらこの村には17年前に起きた悲劇の傷跡が深く残っているらしい。
いったい17年前に何が起こったの?こんなに賑やかな舞台なのに、ミステリー要素もあるからさらに物語にのめり込んでいく。
気になる真実が明かされるのは舞台の終盤。
登場人物たちそれぞれが17年間苦悩を抱えて生きてきたことが判る。
いや~凄い舞台を見せてもらった、という感想に尽きる。
毎公演、カテコで拍手する手は止まらなかった。掌がジンジンしてきても、いつまでも称賛の拍手を送り続けたかった。
アドリブはない。初日から何度が観劇したが、初めから完璧で、どの公演も同じクオリティのステージを届けてくれた。
回を重ねるごとにブラッシュアップされる舞台もあるかもしれない。でも初日から仕上がっていない舞台なんて願い下げだ。言い回しや間の取り方いろいろ試したりするのは、稽古期間中に終えておいてほしい。でないと、初めのほうの公演を見に行った方に失礼だから。
配信でも見たが画面越しでも感動が薄れることはなかった。
いっぱい笑って、感動して泣いて、何度見ても観劇後はマスクの中はぐしゃぐしゃになった。
真田くん、また新たな世界に導いてくれてありがとう。
これからも、チョビさんの歌唱と楽隊の演奏のある鹿殺しさんの舞台が見たいし、出演者の方の名前も覚えたから、また別のステージでお目にかかることを楽しみにしたい。
あと、タテタカコさんの曲が素晴らしかった。
藪中を演じた真田くん
真田くんは、35才の青年と、17年前の高校生役を、なまりの度合いも変えて、丁寧に演じていて芸が細かいと思った。
インタビューで、35歳の男にしては「踊りが“バネってる”」と指摘されて、「重く」「ダサく」を心掛けたと言っていたけど、確かに普段のキレがないし、歌のシーンでは真田くんの声量は一番大きくリードして見えたが、台本には「音痴のミュージカルって最悪だぞ」と大蔵からのツッコミがあったので(実際は別のツッコミが入った)、実力を抑えた歌唱に思われた。開幕前から話題になっていた人魚姿も、「可愛いと言われたくて体を絞って衣装合わせたのに、可愛く完成すると首をひねられどんどんバケモノにされて・・・・・・。」と言っていたけれど、十分可愛かったよ。
おかしなヅラを被り、パロディ曲を歌って全力でふざけてるのに、キラキラのアイドルに見えてくるから不思議だった。
藪中は、人間味に溢れる青年。言い換えれば嘘つきで卑怯者。そんな通常なら決して魅力的に映らない人物を、学校きっての人気者と納得させるに十分な華があった。誰しもいつのまにか藪中に自己投影して愛される人間像を構築していた。
劇団鹿殺しさんのカラーに真田くんはしっかり馴染み、良いところを存分に引き出してもらえた舞台だったと思う。
そういえば初演で藪中役を務めたの大東駿介さんは吹奏楽ではチューバを担当されたそうだけど、今回真田くんは20キロあるドラムを持ち上げて演奏した。どうしてドラムだったんだろう。どこかでお話してるのかな。
7ORDERではギターを担当している真田くん。ドラムやキーボードも多少できると聞いた事はあるけれど、舞台終盤プロテクターを付けて重いドラムを掲げての演奏は、体力的にかなりしんどかったと思う。再演ということもあり、稽古期間がかなり短かったようなので、経験のない管楽器は避けたのかな。
お人魚クラブ
「おニャン子クラブ」のパロディである。
男性演者はバケモノ感を出したというけれど、みんな総じて可愛い。ついグッズの「お人魚Tシャツ」を買ってしまうくらい、アイドル「おニン魚クラブ」に夢中になった。馴染み深いメロディにしっかりダム反対の歌詞を乗せるのはさすが。ダンスも揃ってて圧巻のシーンだった。
ところで、お人魚クラブのオリ曲の元ネタ
おニャン子クラブ
『セーラー服を脱がさないで』
『バレンタイン・キッス』
うしろゆびさされ組
『恋はクエスチョン』
『バナナの涙』
『渚の「・・・・・」』
欅坂46
『サイレントマジョリティ』
・・・まだ、ありますか?
丸尾さん、うしろゆびさされ組のファンだったんですかね?
後日、やまめちゃんの存在と藪中の所業について、考察も書いていけたら