VR (Virtual Reality)は、電話やZoomに代わる次世代のコミュニケーションツールになるのではという話
こんにちは、みなみんです。今回は、私の研究テーマの1つでもあるVirtual Reality (VR)の話をしたいと思います。メタバースは流行らないとか言われることもありますが、実はVRの魅力って単にゲームを楽しんだりコンピューターで作られた世界に入り込むだけじゃないんですね。恋人、家族、友達などの身近な人と体験を共有できる、夢のようなツールとして使えるのです。そして、福祉や医療現場などでも大きな可能性を秘めているのです。
コミュニケーションツールとしてVRが提供する価値は何か?
2020年、コロナの影響でZoomなどのオンライン会議ツールが普及しました。それ以前、離れた家族や友達、恋人と話すときは電話を使うことが多かったと思います。音声情報のみの会話から音声情報+視覚情報の会話に移行することで、よりコミュニケーションの質が高まり、リモートワークの促進に繋がりました。
知っている方も多いかもしれませんが、Zoomはコロナが流行る随分前からありました。Zoomという製品が世に出たのは創業の翌年の2012年です。既にサービス自体は存在していたものの、コロナ前からZoomを積極的に活用していたという方は少ないのではないでしょうか?
コロナ禍がある種の起爆剤となり、多くの人がその便利さに気付いたとも言えると思います。VRは、現状、一般に普及しているとは言い難い状況です。Quest 2といったコンシューマー向けのデバイスは革命的でしたが、日常的に使用しているユーザーはまだまだ少ないのが現状です (企業向けの教育コンテンツや医療現場での活用も増えていますが、一般的な消費者の利用では、ゲームやソーシャルVR、アダルトコンテンツなどに限られています)。
その理由として、ハードウェアの問題がありますが、それに加えて、必要性が感じられないことが挙げられます。新しいツールが普及する際には、その価値が認識されるかどうかがとても重要です。Zoomなどのオンライン会議ツールは、ある意味、コロナによって多くの人がその価値に気付いたとも言えます。
では、眠っているVRの価値とは何でしょうか?それは、同じ空間で体験を共有しながらコミュニケーションが取れる点です。離れていても、同じコンテンツを、同じ空間で、楽しみながら会話をすることができます。
例えば、ナイアガラの滝に行ったとして、その興奮を恋人や家族に伝えるのは限界があります。相手がその場所に行ったことがない場合、同じ気持ちになってもらうのはとても難しいです。大抵は、ヘェ〜凄いね!で終わってしまいます。しかし、VR空間上にて一緒にナイアガラの滝を体験することで、その感動をリアルタイムで伝えることができます。「凄い迫力だね」、「あの船見て!滝の近くまで行ってるよ!」といった会話が生まれるのです。
今日はどんな場所で話そうか?なんて会話が、近いうちに当たり前になるかもしれません。そのきっかけを生み出せるかどうかが大きなビジネスチャンスにもなり得るのです。
事例紹介
私は、2019年頃から病院で入院されている方を対象としたVR旅行体験会の活動を始めました。幼少期に入退院を繰り返した経験があり、病室から変わらない窓の景色を眺めているのがとても辛かったのです。そこで、VRを活用して窓の外に飛び出し、世界の美しいもの、行きたい場所を体験できるようなコンテンツを提供しようと考えました。長期入院中の患者さんから、「一生の思い出になりました」とおっしゃってくださり、患者さんの家族からも大好評で、その取り組みの価値をさらに感じるようになりました。
コロナによって中々思うようには進まないところもあったのですが、ある体験者から、「1人で体験するのではなく、体験を共有できないか?」というフィードバックを頂きました。当時は、360 度カメラで撮影した映像を編集し、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)で視聴するという方法でした。それだと、基本は1人での体験になってしまうので、感想をリアルタイムで共有できないという課題がありました。
そこで、入院中の患者さんが思い出の場所を含んだVRコンテンツを体験し、家族、看護師さんなどの身近な人と顔を見ながら思い出話や感想を共有したらどうなるのかというプロジェクトを開始しました。
佐賀県にある総合診療科病院「虹と海のホスピタル」さんにご協力頂き、2021年にVR旅行体験会を実施しました。
結果として、患者さんが360度映像を見ながら看護師さんと体験を共有することにより「昔ここよく散歩していました。」、「懐かしい。ショッピングモールは何処ですか?」など、活発な会話が生まれました。副作用などもなく、大好評で、とてもこころに残る体験会となりました。
詳しい内容を知りたい方は、Asia Digital Art and Designの国際雑誌にて論文が掲載されていますのでご覧ください。体験の共有方法を簡単に説明すると、いわゆるPicture in PictureでVR空間上に表示されたワイプを通して、実際に身近な人の顔を見ながら話すことができるようになっています。そして、ポインター機能や映像の音量調節機能により、注目箇所を指し示したり、映像の音量調節も任意で可能となっています。
よく、360度動画は前しか見ることはないのだから意味がないと言われることもありますが、複数人いればそれぞれが違う方向を見ているのですから、それがコミュニケーションのきっかけになることもあります。
VR回想法としても利用可能で、思い出も振り返ることにより、認知機能の低下を予防したり、統合失調症の陰性症状を緩和したりすることに繋がる可能性があります。
サンプル数が少ないですが、今後、このような取り組みを続けていくことで、病院のQOL向上や遠方に住んでて面会が困難な家族にとっても役に立つツールになることが期待できますし、これをきっかけとしてVRの活用が徐々に浸透していくかもしれません。少しずつ、継続して頑張っていこうと思います。
技術の進化
以前までは、人に近いアバターの問題点として不気味の谷現象というものがありました。これは中途半端にリアルだと逆に不気味に感じてしまう心理現象です。しかし、最近では本物かCGか見分けがつかないほどのクオリティになり、不気味の谷を超えたとも言われます。特に注目している技術は、Metaが研究しているコーデック・アバターです。スマホで自身の顔をスキャンするだけでアバターを作成できるというものです。
その人自身とそっくりなアバターの場合、需要があるのは身近な人とのコミュニケーションだと思います。例えば、親なら子供の顔が見たいですし、恋人同士であればその人自身を感じたいですよね。
また、来春発売のApple製のVision Proでは、機械学習によりHMDを装着した状態でも自身の顔を生成し、FaceTimeのようなやり取りができるデモが公開されています。
そして、最近発売されたMeta Quest 3の装着感は、Quest 2より格段に良くなっています。性能的にはMeta Quest Proと同等かそれ以上にも関わらず、価格も7〜8万円(128GB)と、Quest Proよりも半分以上に抑えられています。技術の進化がある程度予測できるので、夢物語ではなく、実現可能性はとても高いのです。
まとめ
離れた場所に住んでいても、同じ空間で、同じ体験を共有しながら会話をすることが当たり前の時代になるかもしれません。星を眺めながら恋人と話したり、自然に囲まれながら家族会議をするなんてこともできるのです。