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弁証法的にデザイン、アート、サイエンスの融合を考え、Meaningful Artという新たな領域を拡張する試み

こんにちは。メンタルヘルスやウェルビーイングに向けたResearch-Based Artistを目指して日々頑張っているみなみんです。今回は、デザイン、アート、エンジニアリング、サイエンスのどれかでは表せない領域について考えていきたいと思います。

筆者の紹介

私はもともと、高専と呼ばれる5年制の高等専門学校にて化学を学び、大学から九州大学芸術工学部の芸術情報設計学科 (現・メディアデザインコース)に編入し、大学院ではメディアデザインを専攻しています。大学院1年生の夏(2022年8月)から大学院2年生の夏(2023年9月)まで、イリノイ大学アーバナシャンペーン校(アメリカ)のInstitute of Communication Researchという機関にVisiting Scholarとして研究留学をしていました。デザイン、アート、サイエンス、エンジニアリングの領域を横断して学んでいく内に、それぞれの関係性やその融合的な部分についてよく考えるようになりました。
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皆さんは自分のことを何と表現しますか?デザイナー、アーティスト、エンジニア、科学者など様々な肩書きがあると思います。分かりやすいですよね。人に伝えやすいですよね。

でも、本当にそんなに簡単にカテゴライズできるものなんでしょうか?例えば、デザインは課題解決のためにユーザーに共感することが基本とされている一方で、アートは作家の自己表現的なプロセスとされています。プロフェッショナルになるためには、どちらかに徹しないといけないのでしょうか?

弁証法と呼ばれる思考法を使って、相反する領域の融合部分について考えてみました。

弁証法とは何か?

今回注目するのがドイツの哲学者・ヘーゲル哲学における弁証法です。日本国語大辞典によると以下のように説明されています。

ヘーゲル哲学では、形式論理学よりも積極的、具体的なものと解され、正、反、合の段階を経ることによって矛盾止揚して高次の認識に至るべき思考形式とされた。

精選版 日本国語大辞典

分かりやすく説明すると、ある意見があり(正)、その反対意見が出て(反)、その反対意見を踏まえたより高次のアイデアが生まれる(合)という対話的思考法のことです。正はテーゼ、反はアンチテーゼ、合はジンテーゼとも呼ばれます。

例文を見てみましょう。

テーゼ:ポジティブな言葉を増やしていくために毎日10個前向きな言葉を口に出してみよう。

アンチテーゼ:しかし、無理してポジティブになろうとするのは逆に有害だ。不安や心配といったことは一見するとネガティブだが、リスク回避に繋がるなどの良い面もある。

ジンテーゼ:それなら、ポジティブとネガティブをバランスよく吐き出せる場を作ろう。

例文に挙げた内容は、中国由来の陰と陽の考え方やSecond Wave Positive Psychologyとも関係してくる内容ですが、一旦置いておいて、弁証法について何となく分かりましたか?ジンテーゼは、テーゼとアンチテーゼを踏まえたものですが、新しいアイデアに昇華されていることが分かります。

弁証法的思考を用いて、デザインとアート、アートとサイエンスについて考えてみる

デザインとアートについて

ではまずデザインとアートの関係からいきましょう。先日、渋谷ヒカリエで開催されたDesignship 2023に参加しました。その発表の中で、佐藤卓さんの「デザインの自由不自由について」というお話がとても印象に残っています。佐藤卓さんとは、「おいしい牛乳」や「キシリトールガム」などのパッケージデザインや「金沢21世紀美術館」、「国立科学博物館」のシンボルマークなどを手掛けたことでも有名なグラフィックデザイナーです。佐藤さん曰く、デザインとは適切に間を繋ぐことである。あるモノやコトがあって、それと消費者・ユーザーを繋ぐのがデザインの役目だということです。そして、デザイナーは好きなことばかりをやってはいけないと。好きなことばかりをやっていたらどうなるか?それはスタイルになる。スタイルができてしまうというのはデザイナーにとっては不自由なのではないのか?

デザインは課題解決のプロセスとしても有効で、特にユーザーに共感し、寄り添うことが求められ、作り手の想いはできるだけ排除することが良しとされていると思います。

対して、アートは自己表現的なプロセスです。作家が何を感じ何を問うたのか、その主観的な思想が作品として形になっています。だからこそ、誰にも発想し得なかった斬新なもの、新しいものが生まれているとも言えます。しかし、敢えて批判的な目で見ると、観客が置き去りにされ、多くの人は現代美術館に行っても意味がさっぱり分からず帰ってくるということも多々あります。

これを弁証法的にまとめると以下のようになるのではと考えました。

テーゼ:デザインは、モノやコトとユーザーとの間を適切に繋ぐことである。そのため、ユーザー主体であり作り手の想いや好みはできるだけ排除しなければならない。

アンチテーゼ:しかし、新しいものを生み出すには、アート思考、すなわち作り手の自己表現的なプロセスも大切だ。作り手の想いやこうしたいという世界観を反映することがイノベーションに繋がる。

ジンテーゼ:自己表現や作り手の想いを起点にし、ユーザーのことを考えてデザインするという"Meaningful Art (意味のあるアート)"によってものづくりをしよう。

ここで新たなアイデアとして出現したのは、Meanigful Artという言葉です。両者を組み合わせた高次の概念として、アート作品であるが、鑑賞者にとっても意味のあるものを指します。

意味のあるアートって何だ?と思った人もいるかもしれません。例えば、私の過去の作品に『語らいの木』というインスタレーション作品があります。これは私自身、コロナによって孤独を感じ、誰かと話したい・モヤモヤした気持ちを気軽に吐き出せる場が欲しいと思って制作した作品です。九州大学大橋キャンパスにあるクスノキや、福岡県の恋木神社にて展示されました。

©︎Yuki Minamii 『語らいの木』対話型インスタレーション作品 2021-2022

黒電話からクスノキさんの電話番号にかけると、実際に電話が繋がり、体験者が自由に最近行った出来事や悩みや不安を話すことができるようになっています。詳しく知りたい方は、以下の動画をご覧ください。

この作品は、五感を通して体験する作品で、コロナ禍によって生まれたモヤモヤした気持ちを吐き出し、メンタルヘルスやコミュニティのWell-beingに繋げようという取り組みです。現代アート的な発想がありつつ、ドナルド・ノーマンのアフォーダンスについても熟考して制作し、体験者が楽しみながらメンタルヘルスに繋がるようにデザインしました。これはまさに、アートとデザインの融合的な作品であり、Meaningful Artと言えるのではないかと思います。もっと詳しい情報が気になる方は、Digital Art & Designの国際雑誌に論文が掲載されているのでご覧ください。


アートとサイエンスについて

続いて、アートとサイエンスについても考えてみます。Designship 2023の中で、東京大学教授の山中俊治さんがアートとサイエンスについて以下のように述べていました。

サイエンスは客観的なマッピングであり、アートは主観的な作品群である。

この言葉が示しているように、両者は通常、対の関係にあるものです。私も芸術工学という分野でアート作品も創りながら、それらを学会で発表したり論文を投稿したりしています。物凄く共感できるのですが、アート作品を論理的に説明し既存の研究と比較しながら述べていくのはとても難しいです。では、それらの融合はどんなものになるのでしょうか?弁証法的に考えてみます。

テーゼ:アートは自己表現を伴う主観的な作品群である。そのため、その作品がもたらす効果は鑑賞者に委ねられる。

アンチテーゼ: しかし、アート作品が作家と鑑賞者との相互作用によって成り立つ以上、その効果についてはサイエンスとして客観的に評価すべきである。

ジンテーゼ: 主観的な発想によって生み出された作品と鑑賞者との関わりを客観的に評価することで、アートが自己表現だけに留まらず、鑑賞者にとっても意味のあるものにしよう (Meaningful Art)。

Meaningful Artは、まさにアートとサイエンスの融合したものであり、鑑賞者にとっての意味というのは客観的な分析によって明らかにされます。

特に私の作品群は、作品を通して体験者のメンタルヘルスやwell-beingに繋げるという狙いがあります。そのため、その部分やサイエンス的に評価をしていく必要があります。

まとめ

ここまで、アートとデザイン、アートとサイエンスの関係について弁証法的なフレームで考えてみました。

昨今では、ビジネスの領域でもデザイン思考が普及し、ユーザー主体でものづくりをするプロセスが主流になっています。デザインとサイエンスに関しては比較的相性が良かったといえます。

ここでお伝えしたかったことは、アート思考を取り入れることで、斬新なアイデアでものづくりができ、かつユーザーにとって意味のあるものを目指せるということです。

ではどの分野でこのプロセスが有効なのでしょうか?例えば、Webデザインなどは制作プロセスが確立しており、斬新なアイデアが求められない場合もあります。

特に有効なのは、最先端テクノロジーとの組み合わせです。つまり、未来を創造していく領域です。スマホがない時代に、スマホを欲しいと言った人はいないはずです。作り手が、電話、インターネット、音楽プレイヤーを一つにまとめたらこんな世界ができるのではないかと発想したことから生まれています。

Meaningful ArtはAI を取り入れた新規事業を考える上でも役立つ可能性がありますし、イノベーションが起きやすくなると考えています。

現在、まさにMeaningful Artを体現したような新たな作品を制作しておりますので、どうぞ、楽しみにしていてください。





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