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ローラースケートの登場する映画とドラマ① ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY (2020)

 しかしこの映画のタイトル、長い。いろいろ付け足して邦題が長くなっちゃった、というわけではなくて、英語のもともとの題名も「Birds of Prey (and the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn)」と長くて、それを直訳しているタイトルなのだ。ちょっとファンタビみたいに、古めかしい生態観察的な雰囲気のタイトルにしたかったのだろうか。

↑ Birds of Prey - Official Trailer 1 by Warner Bros. Pictures. 映画のトレイラー(予告)。

↑ なんと、冒頭10分無料公開中!WBのYoutube公式チャンネルより

 映画自体はちょっと荒唐無稽で、作り直すたびに映画史に残るような傑作を作り上げてきたジョーカー映画に比べると、歯がゆいほど作品レベルの差を感じてしまう。でも、ハーレイ・クインというキャラクターの魅力とカラフルな映像はとてもいい。女性を主人公にした毒のあるエンタメとしては、いろいろ深く考えなくていいし、楽しい作品だと思う。

 (ここから先は、ネタバレあり)

 最初はちょっとオーバーな演技のハーレイ・クインに見てるこちらが引いてしまう感じがあるのだが、ストーリーが進むにつれて、いつの間にか彼女に感情移入してしまうから不思議だ。特に、ドクに裏切られて悲しむハーレイのシーンが良かった。このあたりは、演じるマーゴット・ロビーの女優としての底力が顔を出している感じ。裏切ったドクも良かった。これまでに使い古されてきたような良い人キャラではないのだ。彼に「ビジネスだから仕方ないんだごめんね」みたいなことをあっさり言われると、なんだかこちらも納得してしまった。そりゃそうだよね、誰だって生きていかなくちゃいけないからね。この映画に出てくるのは、善人そうな人だって、全員悪党なのだ。人間には、100%善人なんていない。そのあたりを描いているのは、ハーレイ・クインという大悪党を描く映画として、とても良かったと思う。

 そして誰かに裏切られたら、ちょっと感傷的になって泣いてから自分の力で前に進むしかない。お前は誰か(男)に守られてないと、1人じゃ生きていけないんだ、なんて言われたままにしておくわけにはいかないのだ。この辺りのテーマは、同じ女性としてとても小気味いい映画だった。戦いのシーンで、「髪ゴムいる?」なんてセリフも最高。

 主演のマーゴット・ロビーは、まだ十代の頃にオーストラリアの「ネイバーズ」という何十年も毎日続いている夕方のソープ(日本で言うとなんだろう……ドロドロしない「渡る世間は鬼ばかり」みたいな感じかな?)に出ていたのを私も覚えている。高校生の役で、親しみやすい近所のかわいい女の子的なキャラに良くはまっていた。それがいつの間にか見なくなったなーと思っていたら、ハリウッドで大活躍し始めて、アカデミー賞に何度もノミネートされるような女優にまで成長しちゃうとは。ちょっとエキセントリックなところのある女性の役を、こんなに魅力的に演じられる人はなかなかいないと思う。「I,Tonya (2017)」のトーニャ・ハーディング役も良かった。

 マーゴット・ロビーはオーストラリアの某名門私立校育ちなのだが、若い頃にフィールド・ホッケーをやっていたらしい。オーストラリアでは小学校から体育の授業でフィールド・ホッケーをやることも多く、割と一般的なスポーツだ。そこからアメリカに渡って趣味でアイス・ホッケーを始めて、ある程度スケートも滑れるようになっていたそうだが、「I, Tonya」ではかなりフィギュアスケートの特訓をしたそう。もちろん本格的な滑りはスタントの人を使っているが、氷に出てすーっとリンクを滑り、シャッっと止まってポーズをとり曲が始まったら動き出す、くらいのところまでは自分でやっているらしい。

 今回のハーレイクイン役でも、ローラースケートの特訓をしたそう。

↑ こちらが映画でのハーレイ・クインのローラースケートのシーン。かっこいい~!

 このローラースケートのシーンのスタントを務めたのは、なんとあのポップでかわいいローラースケート靴、Moxi(モクシ)を作ったミシェル・スタイラン!!!!彼女はエストロ・ジェン(Estro Jen)としてYoutubeでも大活躍している。さまざまな滑り方動画もアップしているので、ローラースケート好きなら要チェックだ。ニックネームがあることからも分かるように、この人はもともとローラー・ダービー出身だが、勝ち負けにこだわらずもっと自由に楽しみたいと、ストリートで映えるMoxiを作ったような人。だからアーティスティック・ローラースケートで私が習ってきたものとはちょっと違う、良く言うとあまり型にはまらない滑り方を紹介していることが多い。

↑ スタントを務めたエストロ・ジェンによる、ハーレイ・クインの舞台裏。段ボール箱で作ったセットの見本で練習している過程がおもしろい。

↑ カリフォルニアのローラースケート文化がぎゅっとつまっているような、エストロ・ジェンによるMoxiローラースケートのYoutubeチャンネル。スケート・パークやストリートで滑る人にお勧めの動画や、滑り方講座が豊富にある。

↑ Behind the Scenes - A Love Skates Relationship - Birds of Prey 2020 by Cine Extras。マーゴット・ロビーのローラースケートの特訓の様子や、撮影の裏側がよく分かるメイキング動画。

 この映画で使われているローラースケートの靴も、めちゃめちゃかわいいので要チェックだ。撮影用に普通のローラースケート靴に色を塗ったり何かを張り付けたりしたのかな?と思っていたら、ちゃんとしたローラースケートメーカーが、ガチで本格的に制作したものだった。

 アメリカのライデル社(Riedell)は、フィギュアスケートとローラースケートの大手靴メーカーだが、そこが今回の映画のためにローラースケートを制作したらしい。この会社、もともと自分の好きな色を組み合わせて好きなデザインのローラースケートをカスタムメードで作ってくれるメーカーなので、映画用のオリジナルデザインもお手の物だったのだろう。

↑ ライデル社のカスタムデザインの靴の紹介。

↑ ライデル社のカスタムメードのローラースケートが注文できる「カラーラボ(ColorLab)」のウェブサイト。革の色、紐を通す穴の色、ステッチの色など、たった100ドル追加するだけで好きなデザインの靴がオーダーできる。いつか私もやってみたい。


 そしてこの映画、一番最後の最後のクレジットまで見ていると、「バカね、まだそこ座ってんの?」なんてハーレイが話しかけてくる。本当に、なんてかわいい悪魔なんだろう。アンパンマンのドキンちゃん的キャラというか。かわいい女って特よねぇなんてよく世間で言われたりするが、バカ言っちゃいけない。他人にかわいいと思われるためには、実は相当な努力が必要なのである。どんなに整った顔に生まれても、人に好感度を与える「かわいい」は内側も外側も自分を磨く努力なしには手に入らない。誰かに好かれる人でいるのって、大変なことだ。かわいい人たちは、そんな努力を微塵も感じさせないだけなのである。その証拠に、結婚して10年以上経った夫婦で、相手にとってかわいい妻、かわいい夫でいられる人が、どれだけ少ないことか。

 私はDCコミックスもマーベルもあまり見たことはないのだが、ジョーカーとハーレイ・クインだけは、ヒーローもののファン層を超えて観客を惹きつける力があると思う。「スーサイド・スクワッド(2016)」もハーレイ・クインが光っていた(こちらのジョーカーだけはちょっと残念だったけど)。これ、次作もあるのかな?興行的には大成功という訳にはいかなかったようだが。もし次作が作られなかったとしても、ハーレイ・クインものは将来きっとまた誰かが映画化する時がやってくるはずだ。それくらい、放っておくにはもったいない魅力的なキャラにマーゴット・ロビーが育てあげたなぁと思った。


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