レモンソーダは逃げ出さない
しりとり式にテーマの言葉を連鎖させていく掌編小説です。
テーマは、クリームブリュレ に続き 「レモンソーダ」 です。
昼過ぎの喫茶店で、僕はレモンソーダを見つめていた。テーブルの向こうにいる彼女の目を見ることは、今の僕にはあまりに難しい。
口を開いては、言うべき言葉を飲み込んで、閉じる。無数の泡が、爽やかな香りで弾けていく。言わなくちゃ、と思うほど喉はからからに乾ききり、僕は声を失った。
さすがの僕でも気付いていた。彼女が「サキと九州旅行に行ってくるね」と話していた週末に、新宿駅で偶然サキちゃんに会ってしまったあたりから。最近彼女の部屋には、僕のものではない男性もののTシャツが増えている。
もっと、鈍感でありたかった。ただ無言でグラスを見つめる僕に、彼女が何も言わないことの意味にも、気付かない男でいたかった。何にも気付かず、ただずっと好きでいたかった。
グラスを手に取り、レモンソーダを一気に飲む。なんとか声を取り戻す。
「今まで、楽しかったよ」
このレモンソーダのすっぱさを、僕はきっと忘れないのだろう。
次回は
レモンソーダ → 「ダイス」です。
友人の、なしころもサクサク(@jupiter_00270)が担当します。
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