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初めてのことを、してみる。|5|火渡り

「ザ・初めてのこと」という感じなんだけど、隣町のお寺で「火渡り」をしてみた。

一般の人にも広く開かれており、火渡りの列はなんと1〜2時間待ち。しかも私は子どもも一緒で列に並ぶのは厳しいと判断し、一番最後狙いでいったので、火はオキ火よりもなお土に近い状態だった。

結論から言って、「全然熱くなかった」!!!

けれど、この中途半端な(と言ってしまう)火渡り体験からも、少し思ったことがある。それは、宗教がいかに日常から遠い存在になってしまっているか、ということ。そして、宗教はもっと人の救いになれるのではないか、ということ。

この火渡りの儀式は、真言宗のお寺「能蔵院」で毎年2月11日に行われている年中行事「柴燈護摩(さいとうごま)」でのこと。

(行事についてはこの説明が素晴らしいので引用させていただきます)

護摩・柴燈護摩・火渡りの意味合い総本山善通寺サイトより)
護摩供とは、不動明王などを本尊とし、護摩木を焚いて加持祈祷する密教の秘法です。柴燈大護摩供は、屋外で行う大がかりな護摩祈祷で、理源大師聖宝が創始したとされます。薪を井桁に組んでヒノキやヒバの葉で覆った護摩壇を築き、その周りにしめ縄で結界を定めます。山伏姿の行者が入壇し、法斧や法弓・法剣で結界内の邪悪なものを一掃し道場を清浄にします。そして、誓願の読誦(どくじゅ)ののち壇に火が入ります。真っ白な煙がもくもくと立ち上がり、やがて激しい炎によってあらゆる病苦や煩悩が滅されるのです。壇には参拝の方々の願いが込められた護摩木も投入され、炎の高さは数メートルにも達します。

火渡り
焼きつくされた護摩壇の熱い灰の上を真言を唱えながら素足で歩く修行です。正式には「火生三昧耶法」(かしょうさんまやほう)といい、不動明王に身をゆだねて一体となり己の煩悩を焼き尽くすのです。行者につづき一般の方も参加できます。

一番の見所は、ヒバの葉で組まれた護摩壇に火が放たれる一幕。山伏が地響きみたいな太い声で滔々と祈祷をささげ、この護摩壇に矢が放たれると、その頂上から灰色の煙が竜巻となって一気に立ち上る。まるで狂暴なモンスターが呪縛の封印を解かれ、空へ一目散に逃げていくように。その一部始終を、子どもたちと一緒に、しめ縄で囲われた結界の一歩脇でじっと見つめる。

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「この結界の中にいたい」

私はいつも悔しくもそう思ってしまう。羽黒三山へ登ったときも、熊野を詣でたときも。山伏という生き方に重ねたい自分の一部がある。あるいは自分の過去生にその記憶がある。いずれにせよ、山伏の汗も鋭い眼差しも羨ましくて直視できない。

でもまぁ、今のこの日常を楽しむのが自分の仕事なんだからな、と半ば慣れ親しんだ言い訳で、その場をやり込める。

そうして隣を見ると、たぶんどこか同じ志のある友達が隣で泣いている。「この儀式を見てると、なんか泣けてきちゃって。すごいよね。毎年来てるんだ」二人の子どもを引き連れて、人だかりの中から結界の内を見つめる彼女。わかる、すごくわかるよ。

体験、なんだよなぁ。結界の内側へ火渡りで入ったときには、確かにぐっとすごいエネルギーを感じた。それは稀有な、非日常の体験。そして、あの結界の内と外は、こんなにもパッキリと隔たれている。

今の時代、人は苦しくなったら何に頼るのか。ネットか。セラピストか占い師か。高いお金を払ってする自己啓発か。宗教に頼るという人はあまり聞かない。そういう人がいると「あの人は〇〇(宗教)だ」と後ろ指を指される。

「困ったときの神頼み」というように、昔はもっと宗教は身近であったんではないか。お題目を唱えたり、八百万の神に祈ったり。自分以外になかなかすがりつくものがない…そんは現代は本当に生きづらいと思う。(そういう意味では、私は歴とした「禅・仏教者」だ。禅の話はもしかしたらまた。)

護摩焚きで、日常の細々したことがすべて一瞬昇華した。「悩みなんて大したことないな。さ、明日からまたがんばろう」と不思議と思わせてくれる、宗教的な舞台。宗教も祭りも、「ハレ」の場は本来的にはすごく必要なことなんだろうと思った。

余談。火渡りのあと、息子(2歳)と息子の友達(3歳)を連れて、お寺の裏山へ登ってみた。そこには「飯綱大権現」が祀ってあった。飯綱大権現は、山岳信仰と真言密教の修験道が合わさった、神仏習合の神様とのこと。天狗の姿をとるともされている。

息子は頂上で「黄色、オニ」と言う。この子はよく"見えないもの"を見て教えてくれるんだけど、それは天狗とか何かがいらっしゃるということかしら?

彼は登り口でも山の方をさして言っていた。「ヘビ、いる」。ヘビ?龍のこと?それで境内にある石碑に「青龍山」とあって納得。ご名答!

子どもには宗教要らないんだろうなぁ。宗教が信じたいその世界をまさに生きているんだろうから。

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