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【吉記事】大漁夢 of salmon

瀬戸内海の穏やかな海を見渡すことのできる防波堤で釣りをしていた。
サビキのように忙しく動くこともない。ヒットするまで待つだけのある種単調な釣りだ。

不意に潮位が上がる。満潮になる時刻はまだ先のはずだ。僕は慌てふためいた。
防波堤を越えてきたら大変だ。

遠くからゆっくり、じわじわと波が押し寄せてくる。しかしよく見ればそれは海ではなく、鮭の大群だった。
鮭の上に鮭が乗る。同じ方向に向き津波のように膨れ上がった一団の鮭。
中には鮭に挟まれた勢いで弾け飛び、宙を舞う鮭まで現れ始めた。

何故瀬戸内海で鮭が、などという疑問すら出る余裕が無い。

このままでは鮭で圧死する。圧死しなくとも鮭ごと海に飲み込まれて仕舞えば溺死だ。揉まれているうちに口の中に小さめの鮭が入って窒息死するかもしれない。飛んできた鮭にぶつかって脳挫傷で死ぬ可能性も捨て切れない。

しかし悲しきかな釣り人の性。大急ぎで逃げようとするも釣竿を手放すことができない。それどころか一匹釣り上げようと無意識のうちに合わせようとしていた。
案の定直ぐにヒットする。いつも釣れる鯵や鰯のような引きとは段違いに強く、こんな状況でも無ければ大興奮だ。既にそこまで鮭は来ている。
僕は構わずリールを回す。

ビチビチ、ビチビチと鮭がのたうち回る音が集団となって僕に襲い掛かる。一か八か、鮭に呑まれる覚悟を決めて僕は釣竿を思い切り引き揚げた。

釣り糸の先に現れた一匹の鮭。勢いそのまま空へと飛び上がる僕の鮭。鯱鉾のように身体を反るそれは太陽を反射し、光り輝いていた。

何とか、あいつを────


夢から醒めた僕は右手を天井に向かって伸ばしていた。
目を覚ましたというよりも別の現実からこっちの現実にワープしたかのような感覚だった。
僕は死因:鮭を免れた安堵よりも、あの一匹を逃した後悔に頭を抱えた。

失意の中近所のスーパーへ今晩の買い出しに向かう。今日は鮭だ。鮭を思う存分食ってやる。

鮮魚コーナーではなんと大漁シャケフェスティバルが開催されていた。

銀鮭、白鮭、トラウトサーモンの切り身、ニジマス丸ごと発泡スチロール詰め放題¥3,000

これでもかというほど詰め込み、酒と一緒に会計を済ませると、ホクホク顔でスーパーを後にした。

早くも忘れかけていたが、先程の夢は正夢だったのかもしれない。

僕の元へとやってきてくれた鮭たちはムニエルとチャンチャン焼きで頂いた。

眠る前に手を合わせる。ありがとう鮭神。

次は是非鯛でもお願いします。

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