【小説】忘れられない味
そこは豪華絢爛だった。
暖房のよく効いた室内に、足がすうっと沈み込まんとする程の柔らかな絨毯。
粉雪を映す窓際の席。景色を見渡せるように半円形型になったテーブルについた俺たちを、華麗なベストに身を包んだ男が恭しく迎え入れる。
「ようこそお越しくださいました。本日は悠久の時を駆けるコースのオーダー、誠にありがとうございます」
彼の動きに従うようにして、俺たちも軽く頭を下げる。
「夢幻の琥珀酒から、どうぞごゆっくりお寛ぎくださいませ」
男が下がると同時にウェイターとウェイトレスが各々の前に黄色とも金色ともつかぬ色の酒が置かれる。
マナーを興味が上回った俺は早速口につける。ウイスキーのような見た目とは裏腹に爽やかな柑橘系の香りと、視界では捉えきれなかった炭酸が口内で弾ける。
「......美味いな」
酒好きの親父が呟くと、母親も呼応するようにして微笑んだ。
「不思議な味ね」
俺はこれが何の酒なのか分からなかった。
『幻想の彩りサラダ』
小さなプレートと共に運ばれてきた皿には格子状の器に載せられたサラダがあった。一緒に置かれたフォークで何かと突いてみると、ポテトを揚げて作った器らしかった。
その中にはパプリカのような鮮やかな野菜や、碧いプルプルとした感触のものが入っており、おずおずと口に運ぶとどれも何故か煮込んだ大根の味がした。器も大根だった。
次に来た魔法のポーションスープとやらは、ぱっと見たところコーンポタージュのようだったが、飲んでみると酷い味がした。少なくとも俺が好む味ではなかった。
だが両親のリアクションを見ると相当お気に召したらしい。俺とは違いほぼ皿を空にしていた。
「美味しいねぇ。ありがとうねぇ」
俺を気遣っているのかと思ったが、本気の感想らしい。俺は黙って頷くことにした。
「こちらは本日のメインになります」
再び現れた男が携えたのは、ウニのような形をした肉だった。これには両親も驚きを隠せずにいる。俺も同様だった。
『道の宇宙からの贈り物』
「どうやって作ったんですか?」
俺は思わず聞いていた。
だが男は笑いながらただ聞くのみだった。
再び俺は肉に向き合う。骨をどれだけ複雑に組み合わせてもこうはなるまい。それにどこを切り取っても美味そうだ。
「……美味いな」
再び親父が呟く。
母親も追随するかと思いきや、いつの間にか手を頬に当てながらただひたすらに満足気に笑っていた。食ったのだと分かったのは視線を皿に移してからだった。
俺も覚悟を決めて齧り付く。
それは魚介類のような淡白な第一印象の味を残しながら、哺乳類独特の脂が後から舌に乗ってくる。頭が混乱するが、理性を超える食欲がこれを喰らえと叫ぶ。
美味い。美味いのだ。
「美味い」
そうなのだと思った。
ふと窓の外を見れば時の経過を告げていた。随分と雪が積み重なっている。
次の料理は何だろうか。
そう思っていた最中のことだった。
「お客様、申し訳ございませんが本日はお引き取りください」
支払いを済ませながら、何かマナー違反をしただろうかと考えを巡らせる。
「強烈な寒波が来ていて、私共の一帯も雪に埋もれそうです。その前に避難をなさって下さい」
俺達は厚意のままタクシーを呼ばれ近場のビジネスホテルに移された。
「ご飯物か。食ってみよう」
ホテルで親父が取り出したのは、コンビニにもありそうなプラスチックのケースだった。今まで仰々しい器にしてはあまりにもチープすぎると思った俺は、一瞬親父を止めようかと迷ったがその中身を見て改める。
そこには、光り輝く半熟で炒められた卵があった。そして別の容器にはエビの香りがたまらなく香る餡と、小さなプレートが添えられていた。
『これが食べたい』
そう、そうなのだ。俺は説明されるがままに食べるだけの食物ではなく、本能が食らいつく味が欲しい。
親父が一口食べてから母親に渡る。満面の笑顔で母は受け取る。払った甲斐があったというものだった。
結局、俺に届くことはなく食べられてしまった。しかしこれで良かったのだと思う。
「ごちそうさま」
俺の目と合わせながら親父が言った。
「ありがとう。美味しかったよ」
同じく母親が俺に言った。
「お粗末様」
いつしか言ってみたかった言葉を俺は発する。
何故か感傷的になり、二人が眠るところまでを見届けた後、自分も寝ようとした最中のことだった。
『幸福の終わりなき楽園』
そこには小さなプレートと、銀色に光るスプーンに載った一口サイズのバニラアイスがあった。
俺はそれを躊躇なく口に放り込み、幸せな眠りについた。
Special Thanks To Chat GPT
「架空のフルコースとその詳細を教えて下さい」
食前酒
夢幻の琥珀酒
前菜
幻想の彩りサラダ
スープ
魔法のポーションスープ
メイン
未知の宇宙からの贈り物
デザート
幸福の終わりなき楽園