上級国民/下級国民 分断社会を知る本
橘玲著 小学館新書 2019.8.6初版 2021.12.30読了
2019年、池袋の横断歩道で87歳の男性が運転する車が暴走、
31歳の母親と3歳の娘がはねられ死亡した。
この事件を巡り、ネット社会で話題となった「上級国民/下級国民」。
元高級官僚である男性が、メディアなどからさんづけで呼ばれ、
容疑者などと言われないことから、上級国民だと騒がれたのである。
平成に入り、日本経済は衰退した。
2018年には日本の名目GDPは世界26位で、
かつて世界の15%を占めていたが30年間で6%に縮小した。
これはアジアの庶民にとり日本が「安くて手軽に旅行できる国」になったからである。
もう一つの不都合な事実は、労働生産性がアメリカの三分の二しかないこと。
生産性の高い企業に勤める従業員ほど賃金が高くなる。
日本人は長時間労働しても低賃金しかもらえず、会社を憎んでいくようになる。
日本市場に魅力がないことも経済低迷の一因。
正社員だけを過剰に保護するため労働市場の流動性がなくなり、
会社はいったん入ったら出られないタコツボ化する。
一方、金融危機や震災のような外的ショックがあると就職氷河期になり、
若者が雇用から排除される。
生産性の高い大企業は海外に出てしまう。
平成が団塊の世代の雇用(正社員の既得権)を守るための30年だったとすれば、
令和の前半は団塊世代の年金を守るための20年になる。
平成の日本は働き方改革を諦める代わりに社会保障改革に専念すべきだったが、
日本社会の中核である団塊の世代を優先したのである。
100年単位で経済を予測する官僚によれば、ひたすら対症療法を繰り返すのだそう。
年金が破綻しそうになったら保険料を引き上げる。
↓↓↓
医療介護保険が膨張したら給付を減らす。
↓↓↓
それでもダメなら消費税率を上げる。
そうやって20年間耐え、2040年を過ぎれば高齢化率は徐々に下がる。
この持久戦に耐え抜けば、下級国民が溢れるより貧乏くさい社会が待っており、
失敗すれば日本人の多くが難民化する国家破産の世界がやってくる。
モテ非モテの現代社会を解き明かすにあたり、
サピエンス、人類歴史上、近親婚の禁忌や女の交換が共通して見られた。
思春期になると若い女性が冒険的になるよう、
進化の過程で設計されている可能性がある。
男集団では競争が起こり対立するが、
女集団では関係の流動性があるため極端な階級意識がない。
男女の性戦略の非対称性の結果、男は年を取ると友達がいなくなり、
女はいくつになっても新しい友達関係をつくることができる。
現代においては、ゆるやかな一夫多妻制だといえる。
マジョリティである男性のうち、一部の持てる者(上級)と持たざる者(下級)に分断され、持てる者が結婚と離婚を繰り返し、持たざる者が生涯独身となる。
持たざる下級国民は、会社共同体から排除され、性愛からも排除される。
最後に、自己責任を念頭においた知識社会、
リバタリアンが増加しポピュリズム運動が活発化した現代も、まもなく終焉を迎える。
テクノロジーが人間の理解や知識を大きく上回り、人間個人の学習が不要になる。
昨今Youtuberなどの職業が人気となっているのも、
賃金労働が一般的でなくなることの現れである。