手術は無事に終わりました
乳がん手術が終わった
乳がんの手術は予定通り終わった。
私の右乳房と右腋窩リンパ節は無事に切除された。
麻酔から覚めて最初に思ったこと、
それは、
普通に痛い・・・(涙)
だった。
右胸と右腋に鈍痛が走る。
鉛を提げているように腕が重い。
状態を起こす時に右上半身が悶えるほど痛い。
乳がん手術経験者のブログやらNoteを散々読んで心構えをしていたはずだったが、やはり痛いものは痛い。
考えてみれば、体に2か所メスを入れているのである。痛くて当然だ。
看護師をからもらった痛み止めを飲むと、少し和らいだ。
夜になると私の右肘は浮腫んで膨れ上がった。
まるでホットケーキの水っぽい生地がフライパンの上でだらしなく広がるみたいに見える。
腋のリンパがなくなり、リンパ液が右肘に殺到した結果だろう。
どこまでも広がりそうなブヨブヨの肉塊が不吉めいていて不気味だった。
術後の体
私の右胸には約13センチ、右腋には7センチの創傷がある。手術中に電気メスで焼けた火傷の痕もある。
手術が終わってしばらくの間、恐ろしくて創傷が見られなかった。医者と看護師は容赦なく患部を触り異常がないか確認する。その間、私は傷が視界に入らないよう固く目を閉じていた。
術後5日目。
用を足して手を洗う時、乱れた襟の隙間から覗いた患部が鏡に映った。
今なら怖くないかもしれない。
私はガーゼをそっと剥いで傷跡を見てみた。
子供のような平らな胸。
乳首と乳輪がない。
代わりに一本の線が右腋から体の中心部まで横断している。迷いのない真っすぐな線。
これが私の新しい体。
嫌な気持ちにはならなかった。
潔い爽快感すら感じた。
なぜか傷痕を当たり前の結果として受け入れられた。まるで、初めから胸なんて無かったように。
手術前にはnoteに散々泣き言を書き、
心優しい皆様から慰めのコメントを頂戴していたのだが・・・。
新しい体でなんとかやって行けそうです。
物語三昧の日々
結局、痛みのピークは手術日とその翌日だけだった。以降は痛み止めが無くても我慢できた。
しかし、包帯を取られ、心電図のパッドを剥がされ、点滴を外され、圧着ソックスを脱がされた私は、脱皮して蝶になったような壮大な解放感を持て余していた。
つまるところ、暇だった。
そこで私は物語を堪能した。
映画を観て、小説を読んで、テレビドラマを鑑賞した。目を血眼にして画面を凝視し、狂ったように活字を追った。飽きることなく、次から次へと。
物語の世界に浸ること。
それは、簡単に言えば逃避行為だけど、私にとっては辛い現実から魂を救う精神薬のようなものだ。
入院中、私は宮沢賢治になって教え子と共に畑を耕し(ドラマ『宮沢賢治の食卓』より)、イーサン・ハントに扮して悪者を殴り倒し(映画『ミッションインポッシブル』より)、夫の不倫に傷つきながらも仕事に奮闘する料理研究家になった(小説『血も涙もある』より)。
そして物語の世界にいる間は現実世界のことを忘れた。
痛くて肩が上げられないことも、
腕の神経が麻痺して無感覚なことも。
がんを患っていることすら忘れていた。
そういう瞬間は病を抱えた者にとって絶対的に必要だ。傷ついた者は物語に癒される必要があるのだ。過酷な現実から目を背けることは生き延びるための知恵なのだ。
こうして、食事を残さず平らげ、映画と小説で精神を解放し、軽いリハビリ運動を真面目に取り組み、9時に就寝するという模範的な入院生活を送った私は、すこぶる順調に回復していった。
そして手術日から9日目、無事に退院した。