【雑文】面白い毒
昔好きで聞いていたラジオのDJさんが、お酒のことを「面白い毒」と評していた。
初めて聞いたときはなんだそれと思ったのだけれど、よくよく考えてみると面白い視点だと思う。
なるほど、確かにその通りだ。酒は実際には毒物だし、しかも面白い。
お酒とは、基本的にはエチルアルコール水溶液のことだ。
市販されている消毒用エチルアルコールの中にも飲んでも問題ないものがあるけれど、お酒はそうしたエチルアルコールのうち、飲みやすいような味が付いているものだと言える。
エチルアルコール自体は、燃料や有機溶剤、消毒液といった用途に幅広く使われる。
だからエチルアルコールは、本来は工業に使われることの方が多くて、飲料用アルコールとして使われるものは、実は稀だ。
そんな毒物であるところのエチルアルコールには鎮静作用という副作用があって、適量を飲めばリラックス効果や高揚感を得られたりする。
だから僕たちは、楽しさや美味しさを期待してお酒を飲むわけだ。
だがエチルアルコールは、大量に摂取すれば、急性アルコール中毒によって当然死んでしまう。
習慣的に飲み続ければ、肝機能障害を引き起こすこともあるし、発ガンリスクも上がるらしい。
それは本質としてアルコールが毒物だからだ。
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僕は昔から酒が好きで、以前はバーテンダーとして働いていたこともあった。
ほぼ毎日お酒を飲むし、そんな生活をもう10年近く続けている。
よほど忙しくて飲む暇が無かったり車を運転する予定が入っていたり、あるいは猛烈な二日酔いでもなければ大抵飲んでいるので、数千日以上連続で飲み続けている。
健康を考えるなら決してよろしくないことなのだろうけれど、少なくとも今のところは辞める気は一切ないのだが。
僕の考えでは、酒好きには3種類の人がいると思う。
1つは、お酒の味や香り自体が好きなひと。つまり、飲み物として酒自体が好きなひと。
こうしたひとは、自宅でも習慣的に飲酒するだろうけれど、量を飲むというよりは良い酒をたしなむ程度、といった飲み方をするだろう。
2つは、酔っぱらうことが好きなひと。酒に酔って得られる精神的な効果を重視しているひとで、酒量も増える傾向にある。度を越せば健康を害することも多いだろう。
3つめは、飲み会やパーティ、クラブといった酒の場が好きなひと。コミュニケーションの肴としてお酒を考えているわけで、この手の人には、実は体質的に酒が飲めないというひともいたりする。
では僕はどのタイプかといえば、間違いなく1だろう。次点として酒の場も好きだが、別に一人で飲むのでも構わない。
逆に酔っぱらうことについては全く重視していない。
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長く生きていれば、酔っぱらいたくなる時もあるだろう。けれど僕は基本的には酔っぱらいたくないと思っている。
酔っぱらうということは、少なからず醜態を晒す、弱みを見せることだからだ。
特に僕は酔うとダウナーになるタイプだ。
眠くなるし、気持ち悪くなる。酔えば酔うほど静かになっていく。
もちろん場にもよるのだが、楽しくはしゃぎ回るということはまず無い。
楽しく飲んでいる人は見ていて好ましいけれど、酔って前後不覚になっている人を見るのも嫌いだ。
バーテンダーをしていたときには、店員や周りの人にカラミ散らかしている人をよく見たけれど、そのたびに大人として恥ずかしいなあと思っていた
大人になった今は自分の適性酒量もおおよそ把握できているので、潰れるほど酔うことはめったになくなった。
とはいえ、たまに二日酔いになったときなど最悪だ。
何もする気になれないし、水分以外全く受け付けなくなる。体調不良に耐えているときは、情けなさに死にたくなったりする。
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潰れた時には、もう酒を飲むのは辞めようと思ったりもするけれど、それでも、体調が戻れば懲りずにまた飲んでしまう。
それは酒が好きだからなのだと思っているけれど、客観的にみると、依存しているのかもしれないなあと、たまに思う。
「面白い毒」の面白さに惹かれているのか、それとも毒の依存性に捕らわれているのか。できれば前者であって欲しいものだ。
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