エンドロール
夜遅くに帰宅してテレビをつけたら、ちょうど映画のロードショーが始まるところだった。普段ならすぐにチャンネルを変えてしまうけれど、僕はスーツを着替えるのも忘れて、その番組に見入った。
なぜならそれは、あの子との思い出の映画だったから。
*
冬の日だった。僕たちは、駅前のショッピングモールを並んで歩いていた。クリスマス前の雑踏は何処か浮き足立っていて、僕たちもその中の一員だった。
彼女が看板に貼られている映画のポスターを見つけて、声を上げた。
「ねえ、あれ、一緒に観に行こうよ。今度の休みの日に」
そんな他愛もない約束。
強い風が吹いて、僕たちは揃って首をすくめる。
僕は彼女の左手を取って、僕のコートの右のポケットに突っ込む。
ポケットには、ずっと絡まったままになったイヤホンのコードが入っていて、彼女が気づいて、簡単そうにそれを直してくれた。
僕だったら、きっとこうはいかない。
僕たちは性格からしてまるで違っていた。
きっちりした彼女に比べて、僕は大雑把。彼女は料理を作るのが得意で、僕は壊れた家具を直すのが得意。僕は居心地のいい喫茶店を見つけるのが得意で、彼女は絡まったコードを直すのが得意。
そんな風にお互いを補い合って、それで上手くいく、そんな二人だった。
唯一、映画の趣味だけは良く合って、だから二人でよく一緒に映画を観にいった。
だからその日も、その映画を一緒に観に行こうって、楽しそうに笑っていた。
その約束が果たされないことも知らずに、僕たちは笑いあっていた。
*
あの冬の日から二年が経って。
今、彼女は僕の隣には居ないし、彼女が解いてくれることのなくなったイヤホンは、めちゃくちゃに絡まったまま、机の引き出しの奥に押し込まれている。
そして、あの日一緒に見ようと言った映画が、今テレビで放送されていて、僕はそれを一人で観ている。
映画をを観ながら、僕は少し泣いた。それは映画の内容が良かったということではなくて、かつての日々を思い出していたからだ。
きっと、この映画を見終わった時が、二人の最後。そんなことを僕は感じていた。
このエンドロールが終わったら、引き出しの中からイヤホンを持ってこようと思う。
そして絡まったコードを、自分で一つずつ解いていこう。たとえ、どれだけ時間がかかったとしても。そんなことを僕は考えていた。
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